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#05.



なるほど、だから未だに塔を攻撃できずにいたのか。


少しおかしいとは思っていた。プリシラは十日も昏睡状態に陥っていた。いくら奇襲を受けたとはいえ、プリシラのおかげで主要人物は皆生き残り、皇城の宴会場が崩れた程度では帝国側に何の打撃も与えられなかったはずだ。


それなのに、十日以上もの間、塔へ向けて従軍できずにいた。


敵が敵だけに慎重に戦力を集めているのだと思っていたが、どうやら従軍させる兵力そのものを捻出できない状況だったようだ。


「陛下。ゲートの向こうから現れた魔物は、普通の魔物ですか?」

「大部分はAからCランク程度の魔物だ。しかし、稀に人間型の魔物が混じっているという」

「人間型……ですか」

「ああ。魔法を自在に操り、強力なスキルを駆使する魔物だ」


見るまでもなく、ガエルの敗残兵たちを利用したのだろう。


一体あの塔で、エルフリーデは何をしたのか。


「プリシラ。病床から起きたばかりのそなたに心苦しい願いなのは承知している。だが、可能な限り早い出陣をお願いしたい。一週間以内に出陣できるか?」


確かに、これ以上時間を引き延ばしたところで良いことは一つもなさそうだ。プリシラも同意見だったため、ロードランを眺めながら「何を今さら」と言いたげな顔で答えた。


「陛下も仰いますね……。敵がどこにいるか分かっているのに、そんなにもたつく必要がどこにあるのですか? 今すぐ行きましょう。ケルピー、ラファエル将軍。構いませんか?」

「何?」

「早いほど、俺様は歓迎だ」

「同じく、だ」

「ということですので、陛下。プリシラ・ライデンとラファエル・ヒューストンが率いるガエル討伐軍は、直ちに出陣いたします」

「待って、待ってください。プリシラ。今すぐだなんて……。シェイルグがどこにいるかも分からないではありませんか? 徹底的に準備をしてから……」

「分かっています」

「えっ? 分かっていらっしゃるのですか?」

「ええ。ですからライディス卿は、リュエンがいる場所の近くへワープさせてくだされば結構です」

「どうして分かっているのですか?」


ライディスの疑問に、プリシラは口角を釣り上げた。


「とても長い年月、私が持っていた物を彼に預けたんです。リュエンが私を見つけられるようにするための物でしたが、逆の用途でも使える、とても良い物ですから」



***



冷たい部屋に一人閉じ込められてから、どれほどの時間が流れただろうか。


一時間しか経っていないようでもあり、数十年が過ぎたようでもある。微かな光だけが差し込む暗い監獄の中で、リュエンはまともな時間感覚を持つことができなかった。


エルフリーデが作り出した「懲罰の監獄」は、一度閉じ込められれば彼女の許しなしには決して抜け出せない。飲み食いせずとも生きていける特殊な監獄は、外とは流れる時間さえ違う。


思考を蝕み、心を蝕む。囚われた者の心をへし折り、彼女の言葉にのみ従わせる生き地獄。


幼少期の大部分をここで過ごさねばならなかったリュエンにとっては、あまりに馴染み深く、そして苦しい場所だった。


この曖昧な場所に閉じ込められていると、過ぎ去った日々がすべて夢だったかのように感じられる。


実際に、自分に起きたすべてのことは夢ではないのか?


プリシラ・ライデンという人は存在せず、自分はこの部屋から出たことさえなかったのではないか?


(いや、夢ではない。現実だ。しっかりしろ、リュエン・シェイルグ。お前に狂う資格などない)


すべてのことに終止符を打つまで、死んではならない。狂ってはならない。


薄暗い闇の中、彼女の顔までもが徐々に霞んでいくようで、リュエンは両手をきつく握り締めた。食い込んだ爪が肌を割り、細い血筋が流れ落ちたが、むしろその苦痛がありがたかった。狂いそうな精神を繋ぎ止めてくれるから。


すべてが色褪せる暗闇の空間で、リュエンは手放してしまいそうな意識を繋ぎ止め、機会を窺っていた。


エルフリーデは、リュエンを効果的に操る方法を誰よりもよく知っている。間違いなく、すぐに彼の前に姿を現すだろう。扉が開く瞬間を狙わねばならない。


眠ることさえ許されない虚無の空間で、青紫色の残像を頼りに、再び時間が流れた。


長い長い、あるいは刹那の時間が過ぎ、固く閉ざされていた扉が開いた。


「お久しぶりですね。それとも、『また会えましたね』と言うべきでしょうか。リュエン」

「……エルフリーデ」


記憶の中の儚げな少女が、仮面のような微笑みを浮かべてリュエンに歩み寄ってきた。


「どうですか? この部屋にいると、貴方はいつも落ち着かれましたよね。少しは心が静まりましたか?」


エルフリーデの問いに、リュエンは無言で彼女を見上げた。仮面のような微笑み。いや、実際に仮面なのだろう。彼女はもはや、以前のような美しい姿ではないのだから。


扉の向こうから吹き込む風から、腐った血の臭いが漂ってきた。それが彼の理性を引き止めた。


リュエンが答えた。


「エルフリーデ。一つだけ問おう。私をここに連れてきて、何をするつもりだ?」

「そんなの決まっています、リュエン。私達の夢はいつも同じだったではありませんか」

「貴様と私が?」

「ええ、そうです。争いのない平和な世界。美しい世界。貴方を傷つけるものが何一つない楽園。それが私達の夢です」

「そのために、貴様はこの世界を滅ぼそうというのか?」

「滅亡だなんて。リュエン、これはお掃除です。すべてを片付けて綺麗になった大地に、もう一度新芽を植えるのです。私は貴方のためなら、何だってできるのですから」


エルフリーデの晴れやかな笑みを見ても、重く沈んだ心は微動だにしなかった。彼女に対して抱く感情は、ただ一つ。


(エルフリーデ。もう少し、私に近づけ)


貴様の心臓を貫けるように。リュエンの心を読んだかのように微笑んだ彼女が、リュエンに歩み寄った。白く細い手が、彼の頬を愛撫した。総毛立つほど冷たい手。彼女プリシラとは正反対の手。


「リュエン。ごめんなさい。昔、私は貴方にとても辛い思いをさせてしまいましたね。でも、もう終わりです。二人でやり直しましょう。私と貴方なら、幸せになれますから」


エルフリーデの言葉に、リュエンは薄く笑みを浮かべた。


幸せになろう、だと?


自分の頬を撫でるエルフリーデの手を掴む。そして空いている反対の手でエルフリーデの心臓を貫いたリュエンは、無味乾燥な声で答えた。


「エルフリーデ。私達が幸せになることなど、もう二度とない。永遠にな」

終わりに行こう。

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