#04.
ファンアートをいただきました!!
あまりにも素敵なので、もう一度だけ自慢させてください!!
本当に、本当にかわいすぎて……かわいすぎて気絶しそうです……!
読んでくださり, 応援してくださる皆様, いつも本当にありがとうございます!!
皆様からの温かいメッセージを拝見するたびに, いつもたくさんの元気をいただいています!
リュエンは夢を見ていた。自分の目に映る光景が不快な夢に過ぎないと確信できるのは、この一ヶ月間、プリシラが彼の傍で現実を自覚させてくれたからだった。
プリシラが傍にいると知っているからこそ、リュエンはこの悪夢の中でも耐えることができた。
眠りから覚めさえすればプリシラが彼に微笑んでくれるのだから、夢の中に現れた亡国の王女を見ても、毅然としていられた。
ひどい悪夢だ。虚像に過ぎないとはいえ、彼女が現れた朝はとりわけ気分が沈んだ。まだ朝と呼ぶには早い時間、しとしとと降る雨を眺めながら、リュエンの気分は最悪の底にまで沈み込んでいた。
降り続く雨のせいか、季節外れの寒さのせいか。
あるいは、夢の中で見た誰かの涙のせいか。
「……」
誘われるようにプリシラの部屋へと向かった。無意識の行動だった。ここにプリシラがいると分かれば、安心できる。
降り続く雨と白い霧のせいで、周囲は漆黒のように暗かった。それでもリュエンには、布団を蹴飛ばして横たわっているプリシラの姿が見えた。
いつものような彼女の姿に、笑みがこぼれた。しかし、起きている時とは違い、眠りに落ちたプリシラはあまりに儚げに見えた。彼が手に取るだけで壊れてしまいそうな細い肩と小さな体。
触れるのが恐ろしい一方で、彼女をめちゃくちゃにしてしまいたいという歪んだ欲求も込み上げてきた。
彼女のすべてを壊し、踏みにじって、永遠に自分の傍に置いておけるなら……。
(ダメだ。やめろ。私が望む彼女は、私の思い通りに動く人形ではない)
自分を見つめて微笑んでほしいのだ。眩しいほどのあの笑顔と、熱いとさえ感じる手、彼が作る料理を両頬いっぱいに詰め込んで喜ぶ姿。
己が抱いた加虐性に吐き気が込み上げた。心を押し殺したリュエンは、プリシラの布団を肩まで掛け直してやり、彼女の部屋を後にした。
降り続く雨は、朝になっても止む気配を見せなかった。明け方の出来事のせいか、目覚めたその瞬間からリュエンは不機嫌だった。
それでも、プリシラと向き合う時だけは穏やかでいられた。
しかし、リュエンが穏やかでいられたのもライディスが来るまでのこと。
ライディス自身には何の感情もない。だが、彼が帝国出身である以上、彼とリュエンは水と油のように相容れない存在だった。彼が持ってきた依頼は、なおさらリュエンの気分をどん底へと叩き落とした。
(プリシラは、使い勝手のいい駒などではないというのに……)
畏れ多くもリュエンの前でプリシラにそんな要求をするライディスを、殺してしまいたかった。消し去るなど造作もない。証拠隠滅は息をするよりも容易い。そうできれば、どれほどいいだろうか。
プリシラの守るべき者をすべて消し去ることができれば。彼女を利用するすべての生命を握り潰すことができれば。
「それじゃあ、リュエンを一般人に戻してください。ライディス公なら、身分を回復させることができますよね?」
リュエンがどす黒い考えを抱いているのを察したかのように、プリシラはあまりにも彼女らしい解決策を提示した。彼女が自分ごときのために交渉をすることが気に入らなかったが、それほどまでに彼女が自分を想ってくれているという事実に、悦びが込み上げた。
(今日は一日中、彼女に振り回される日になりそうだな)
プリシラによってすべてが左右される気分だ。それでも嫌ではなかった。魔獣を探すことなど難しくはない。早々に仕事を終わらせ、果たせなかった「今日の計画」を実行しよう。
一日中彼女の傍に張り付いて、睦まじい一日を過ごそう。
そう決心したはずだったのに。
「プリシラ……」
油断した。魔の森程度、彼にとっては庭も同然だったから。魔獣は飽きるほど見てきた。いくら魔法を操り知能が高いとはいえ、所詮は獣に過ぎないのだから。
そうだ、油断したのだ。安易だったのかもしれない。プリシラなら、いつも自分の傍にいてくれるだろうと漠然と考えていた。
手に握っているものが、いつ消え去るかは誰にも分からないことなのに。
一度手からこぼれ落ちたものは、二度と戻ってこないと知っていたはずなのに。
指先がガタガタと震え出した。まだ正午だというのに、目の前がよく見えなかった。このまま彼女を失ったら、どうなる? 私は、私は……。
(プリシラが死ぬはずがない。彼女が私の傍を離れるはずがない。彼女は約束を守る人だ)
強迫観念のように同じ言葉を繰り返したリュエンは、ふらふらと立ち上がった。自分の足であるはずなのに、間違えてはめ込まれたパーツのようにギチギチと音を立てた。
大丈夫だ。プリシラは消えたりしない。
決して私を置いていったりはしない。
しかし。
「よくも……獣の分際で」
自分のものを欲した獣は、許しはしない。
降り続いていた雨が、嘘のようにピタリと止んだ。周囲に燃え上がる白い火炎が、瞬く間に彼の周りを空き地へと変えた。紅色の瞳に、深い殺意が渦巻いた。
***
魔獣の背に乗せられたまま魔の森の奥へと向かって、どれほど経っただろうか。魔獣は普通の馬とは比較にならない速度で疾走しているにもかかわらず、妙に体にかかる負担が少なかった。
いや、負担が少ないどころではない。降り注ぐ雨足さえ、プリシラには届かなかった。
まるで、これは……。
(リュエンがしてくれたのと同じ……)
ある程度慣れてくると顔を上げる余裕も生まれ、周囲を見渡すと、プリシラの周りに薄い膜が張られていた。見覚えのある魔法だった。ついさっきまでプリシラに張られていた魔法だったから。
(リュエンの魔法が残っているのかしら? いえ、それにしては範囲が広すぎるわ)
魔法壁の内部に感じる気配も、リュエンのものとは違う。清涼でありながら未精製な感じは、目の前にいる魔獣のものと同じだった。
(つまり、この子は私を傷つけるつもりなんて全くない。むしろ守っているの?)
さっきはあまりに当惑して気づかなかったが、どうやらこの魔獣はプリシラに対して敵意がないようだった。
彼女の守護障壁は敵意を持つ存在だけを阻むので、害を為す意思のない魔獣が障壁を通り抜けるのは、ある意味当然のことだ。
当然のことだけれど……。
(この子は、なぜ私を攫ったのかしら? どこへ連れて行こうとしているの?)
突然の行動に疑問ばかりが増していく。プリシラの当惑を知ってか知らずか、魔獣の速度が落ちる気配はなかった。
「リュエンが心配するわね」
リュエンなら一人にしておいても危険はないだろうが、彼がプリシラを心配して何か事を起こすのではないかと不安になった。ただでさえ、最近は過保護がひどかったではないか。本意ではないとはいえ誘拐までされたのだから、さらに過保護が加速するのは目に見えている。
うーん。考えてみれば、とんでもなく大変なことだ。朝の不機嫌だったことも相まって、後が怖そうだ。
(リュエンの機嫌をどうやって直せばいいかしら? うーん)
一日中、リュエンの身の回りの世話をするとか?
(それはちょっと難しいかしら。私はリュエンみたいに万能じゃないもの)
リュエンの言うことなら何でも一つ聞いてあげるとか?
(『何でも』は選択肢が広すぎるかしら? 『ライディス公やラファエル将軍の頼みは聞くな』なんてお願いをされたら一大事だし)
なんだかんだ言っても、彼らは帝国の貴族であり将軍であり、誰よりも命を慈しむ人々だ。リュエンが彼らと敵対するのを黙って見ているわけにはいかない。
(うーん、それなら何がいいかしら)
「できる範囲で、一日中リュエンのしたいように従う」とか?
リュエンもプリシラの力量はよく分かっているから、これくらいならいけそうだ。
(よし。これで手を打ちましょう。そのためにはまずリュエンと合流しなきゃいけないけれど……あ)
そういえば、リュエンにはプリシラが贈ったネームタグがある。長年持っていた彼女の最も大切な物なのだから、リュエンならネームタグを道標にして彼女のもとに辿り着けるはずだ。
(それでも、万が一に備えて何かしておかなきゃね)
プリシラは自分にできる魔法を最大限に活用し、周囲に標識を残した。雨に消されたとしても、魔力の残香を辿って来られるはずだ。
この魔獣が自分をどこへ連れて行くのかは分からない。ただ、魔獣にプリシラに危害を加えるつもりは全くない。そんな魔獣とリュエンを鉢合わせさせるわけにはいかない。リュエンは凄まじく怒っているはずだから。彼が来る前に、素早く問題を解決しておかなければ。
(そのためには……)
周囲を見渡したプリシラは、短く深呼吸をした後、握っていたたてがみを離し、魔獣の背から飛び降りた。




