終戦の日
「柴山、こんな所で何してるの」
恵理は、学校の裏庭で寝転がっている柴山を見つけ、声をかけた。
木陰にいた柴山は、目を隠していた手をよけ、少し目を開けた。
「瞑想」
「寝てたようにしか見えないんだけど。瞑想って寝てするもんじゃないじゃん」
「じゃあ、寝てた」
「何なの……」
恵理は呆れたように声を落とした。
「うるせぇな。いつも言ってるけど、邪魔すんじゃねぇよ。大山はどうしたんだよ」
「可奈子は部活。もう放課後だよ」
「あー、そうか」
柴山はどうでもいいことのように返事をする。
「隣座るね」
「………」
恵理はそう言うと、柴山が寝転がっている隣に腰を下ろした。
柴山に元から許可は求めていない。ただの確認だ。
柴山は少し恵理に視線を向けたが、何も言わなかった。
「また授業出なかったんだ」
「歴史の太田嫌いなんだよ」
「なんで」
「事務的でおもしろくない」
「しょうがないんじゃない?」
「今日何の日かわかるか」
「……終戦記念日だよね。新聞で見た」
「あいつ、去年も一応それに触れたけど、さらっと流しやがんの。まぁ、まだ現代に入ってないからだけど」
「気に入らなかったんだ」
「あいつは、歴史じゃなくて、政経やればいい」
「あぁ、似合う」
恵理は思わず笑った。
「今日も暑いな」
「何、唐突に」
「あの放送がされた時も、暑かったんだろうな、と思ってたんだ」
「やけにしんみりモードだね」
「じいちゃんから、よく聞いててな、戦争の話。なんか思い出してた」
柴山の声は変わらなかったが、恵理は何となく悲しそうに聞こえた。
「だから、太田の話、気に入らなかったの?」
自然と恵理の声も落ちる。
「小さい頃、親がいた時は、夏休みに遊びにいったら、いつも話聞かせてくれた。じいちゃんはまだ子供だったから、じいちゃんがその親父から聞いた話をしてくれた」
「あれ、柴山、ご両親……いないの?」
「いない」
「そ、そうか。……ごめん」
恵理は少し動揺してしまい、言葉につまった。
「別に。気にしてない」
「したら、今一人なの?」
「いや。じいちゃんの所にいる」
「だから、おじいちゃん子なんだ」
「別にそんなつもりねぇよ」
「で、何で今日は珍しく外にいるの」
「今日だけは、外にいたくなるんだよ。特に晴れてる日は」
「おじいちゃんの話を、身近に感じようとしてるんだ」
「感じられるような気がするんだ。肌がじりじりする感じ、湿って暑く揺れる空気。ほとんど音がない場所」
「珍しく詩人な所悪いけど、今は木陰にいるよね。じりじりしてないよね」
「やっぱ、ずっといるには暑かった」
「だろうね」
恵理は笑みをこぼした。
「でも、そう感じようとする心は、大事だと思う。柴山のおじいちゃんが、お父さんから聞いたことをさらに伝えて、柴山はまたそれを誰かに伝えてく」
「………」
柴山は目を閉じていた。
「あれ、柴山ぁ、また寝たの? まぁ、ここ気持ちいいしね~。私も寝ようかな~……と見せかけて、鳩尾クリティカルヒットぉ!」
恵理はそう言うと、腕を広げたまま柴山の横に仰向けに倒れた。
そして、柴山の上にあった腕が、見事に彼の腹の上に落ちた。
恵理の腕が落ちたと同時に、柴山は勢い良く飛び起きた。
「いってぇー!……んだよ! お前はよ! だいたい鳩尾じゃねぇだろ!」
「まぁ、細かいこと気にしない。なんかやりたくなった」
恵理は怒る柴山に対して、声をあげて笑っていた。
柴山は馬鹿らしくなり、またその場に仰向けになった。
草の湿った感触が、背中に広がる。
そして目を閉じると、耳がさえ、音が聞こえてくるようになる。
蝉の声、葉ずれの音、遠くで響く運動部の掛け声や吹奏学部の演奏。
だんだんと気持ち良くなり、意識が眠りの境をさまよいだす。
しかし柴山は、恵理の姿を薄目を開けて確認した。
そしてまた目を閉じると、恵理には気づかれないように、小さくため息を吐いた。




