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チワワならではの力

 取材を受けてわかったことがある。

 それは、俺を轢いたワンボックスカーには、ヨウ氏ともう一人の男が乗っていたということ。おそらく阿修羅アスラのメンバーの一人だろう。


「俺はね思うんすよ。その人がリーダーなんじゃないかって」


 根拠はいくつかあった。

 北島きたじまが言うには、いつもヨウ氏の隣にいて、彼を使いっパシリにして笑っているそうだ。周囲のメンバーも、彼の意見に逆らうことはない。

 

 その名前は拓馬たくま。一見穏やかそうに見える奴だという。

 うわぁ、そういうやつに限って怒ると怖いんだよな。


俊介しゅんすけさんって、“怒ったら怖い”んですか?」


「うるさいだけですよー」


 また解釈を間違えてる。ワンダースタンド翻訳機。何気に夏樹なつきも酷いな……。パパ、泣いちゃうぞ。


 取材で分かったことは、俺と加害者は何の接点もなかったということだ。

 そして、未成年のヨウ氏に車を運転させていたのは、拓馬たくまという男。


 打つべき敵は、阿修羅アスラのメンバーの黒幕。拓馬たくまだということ。見えてきたぞ。これから俺がどうやって動くべきかが。




「じゃあ、北島きたじまさん。気を付けて」


「はい! お邪魔しました!」


 美香子みかこが玄関まで北島きたじまを案内する。静かになった室内。そこで町内会の代表から連絡があった。

 見守り隊についてだ。

 これから夏樹なつきたち高校生は、冬休みに突入するが、地域の安全を優先して、明日から夜の見回りをするという。これで阿修羅アスラは大人しくなるだろうか。


 電話の子機が置かれる。

 ホッと胸をなでおろすような仕草をしている美香子みかこ夏樹なつきは、冷蔵庫を開けて中から缶ジュースを取り出していた。

 プシュっという炭酸のはじける音が心地いい。


 いいか。今の俺はチワワだ。世界最小のチワワ。

 そんな俺が、町一番の悪いグループ、阿修羅アスラとやり合おうっていうんだ。これは覚悟しなくてはならない。

 

(動物の愛くるしさなんて悪い輩にはわからないだろうなぁ)


 俺は考えた。

 チワワだからできること。みんなに守られてばかりではなく、今の俺の姿・声・尻尾……、できること。何かないのか……。


(! そうだ!)


 マーガレットと組めばいいんだ。アイツのタフさなら、きっと相手を疲労させられる。その隙を狙って、俺のデコで足元を引っかけて、ずっこかしてやるんだ。

 まるでコントみたいだが、相手がプライドの高い奴なら、効果抜群に違いない。ふふふ。


(そうとなれば……!)


 俺は、床に置かれたワンダースタンド翻訳機に向かってキャキャンと吠えた。二人が反応する。


「あらパパ。何か伝えたいことがあるの?」


「もう取材は終わったよ」


 ええい、こうなったら自分から被ってしまえ。


 ――ピロリン♪


 美香子みかこ夏樹なつきのスマホに俺のメッセージが映ったのだろう。今度はちゃんと伝わったようだ。作戦を読み上げてくれている。

 俺は嬉しくなって、ヘルメットを被りながらくるくる回った。


(あ、頭がクラクラする~)


「もー、何やってんのよー」


 夏樹なつきがバッとヘルメットを外してくれた。目の前には、愛する娘。俺は全力で飛びついた。おかしいな。本当ならこんな大胆なことできなかったのに。


(ま。いっか)


 俺は家族を守るんだ。これくらい甘えたっていいだろう。あれ、どういう理屈だこれ。まぁでも細かいことはどうでもいい。拒否されていない。嬉しい。自然と舌がへっへと出る。


「仕方ないな―」


 そう言って夏樹なつきは優しく俺の背中を撫でた。どうだ、娘よ。可愛いか。チワワの俺は。

 人間の頃と比べて接しやすくなっただろう。何でも話してくれよ。

 この前の、合格したら本音を話すっていう約束も覚えているからな。忘れるなよな。

 

「ふふ、パパがこの町をひとつにしてくれようとしているのね」


「ついこの前まで落ち込んでたくせにー」


「だから今、すごく嬉しいの」


「……、まぁね」


(俺が、町をひとつに?)


 そりゃすごい。よく考えたらいろんな出会いがあったもんだ。そして奇跡的に二人に巡り合えた。でも、できることなら、俺の口から“ただいま”と言いたい。

 そんさんの発明品に、そういう機械があればいいが、またぶっ倒れるのはごめんだ。冗談抜きで死ぬかもしれないし……。


 俺は今まで助けられて、ここまでやってきたと思っている。でも、町のつなぎ役にもなってたんだなぁ。感慨深い。

 

(だとしたら)


 つなごう。みんなを。

 それが俺にできるチワワならではの力だ。



 一日が過ぎるのは早い。夜になってまた、マサミおばちゃんがやってきて、今度は大量の筑前煮をみんなで食べた。もしかして、寂しいのか。夫……、いないのかなぁ。


 お年寄りになって、腰が曲がってきて、自分のこどもや孫の姿が無いのって、ちょっとかわいそうな気もする。まぁ、本人はニコニコしているが。

 本心はどうなんだろうな。マサミおばちゃんの謎は多いからよくわからない。深く詮索することではないのかもしれない。


「とうとう明日からやね。頑張ろな!」


 食事を終えたマサミおばちゃんは、そう言って、我が家から出て行った。

 濃い醤油系の匂いが充満している。


「……、しょっぱいね」


「そうね」


 換気扇の回る音を聴きながら俺はリビングの床に腹を上にして寝そべった。これが心地いい。マーガレットの行儀の悪さもわかるというものだ。


 そんな俺を、抱きかかえて寝室まで送ってくれる美香子みかこ

 あぁ、あったかいなぁ。ぬくもりに包まれながら、俺はそう思った。


 明日からは阿修羅アスラとの闘い。町一丸となって、悪い輩をやっつける日だ。

 待ってろよー!

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