マーくんの冒険9~何か思ってたのとちょっと違う~
内心10行く前にまとめられてよかったと思っている。
我に斬りつけられた腕を抑えていた男は、しばし歩いた後、別の仲間と合流した。
他の奴らに比べればまだ比較的マシ、と言えるその男は自分の腕の応急手当をすると合流した仲間たちの手当てを始めた。
足を斬ってやったやつらはロクに歩けないからどうしようもないが…歩ける奴らも全員拠点には帰らないつもりなのか?
洞穴のような場所まで歩いて行くとそこに入ったきり出てこない。
五人はいたから誰かひとりくらいは拠点に行くと思ったんだがな。
手傷を負っていない弓の男を追うべきだったか、と後悔しているとその弓の男が洞穴にやってきた。
そして怪我人たちを連れて外に出てくると、全員でどこかへ向かって歩きはじめた。
「がんばれ!館の治癒の木まで行けばどうとでもなる!諦めるな!」
仲間を励ますのに少々気合がはいったのか、途中そんな声が聞き取れた。
館と言ったな、治癒の木とはなんのことだ?よくわからんが傷を治す手段があるのか。
まさか今更ヴォルガーとは関係ない等とは言わんだろうな。
肩を貸し合ったり、杖をついて歩く男たちを見ていると、足を斬りつける人数はもっと減らせば良かったなと思う。
我がやったから文句は言えんが…移動するのが遅い。
こんなにチンタラ歩いていては魔物に見つかるではないか。
だが我の心配をよそに魔物は出てこなかった。
なんでもない場所を歩いているようにみえてこいつらには安全な道がわかっているようだ。
しかしなんだな、賊にしては仲間想いのやつらだな。
誰かひとりくらい仲間を見捨てて行くような奴がいると思ったんだが…
未だ誰も諦めずにお互いを支え合って進んでいる。
「もう少しだぞ!」
「うう…こんなところで死んでたまるかぁ…俺は帰ったらギョウザを腹いっぱい食うんだぁ」
「俺は…トンカツだ…それにたっぷりトマトのソースをかけて…」
目的地が近づいて気が抜けたのか、後をつける我にも聞こえるくらいの声で会話を始めた。
聞きなれん物を何か言ってるが…こいつら食い物の話をしているのか?
…なぜ今食い物の話をする。
「俺はもうだめだぁ…皆、俺のことは置いて先に行け…」
食い物の話をした直後、足を引きずっていた男がその場に倒れ込んだ。
「ばかやろう!諦めんな!もう館は目前だぞ!」
「い、いいんだ…皆ありがとう…俺の墓には…どうかミートソースのパスタを供えてくれ…」
「何言ってるんだ、勿体ねえだろ!おい皆、手を貸せ!こいつを運ぶぞ!!」
結局全員が倒れた男に集まってわたわたやり始めてしまった。
また歩きはじめるまで時間がかかりそうだ。
が、もうこいつらに付き合う必要はない。
館は目前と聞いた我は、気づかれないようにその場を離れ、そいつらの進行方向の先に回り込んだ。
そこにあった坂になっている道を走って駆けあがっていく。
「あった…!あれがそうか!」
坂の上には大きな館が、この山中にはまったくそぐわない感じに存在していた。
一体どこのバカがこんな場所にこんなものを建てたのか。
我は館に近づいてどこから侵入すべきか考えていた。
ここまで来たらヴォルガーの顔を見るまで帰るつもりはなかった。
プラムが後でごちゃごちゃいうかもしれんが…もうそんなものは知らん。
と、そこで館の前に…誰か、女か?中から急に出て来た。
ちょうどいい、あの女にヴォルガーのことを聞くか。
我は走る速度を緩めず、女に近づいた。
「…お前が侵入者かぁ!!」
女は腰から剣を抜くと我めがけて向かってきた。
これは予想外だ、女だからと思って逃げられる前に捕まえるつもりだったが。
まさか腰に剣を下げていて、それを抜いて向かってくるとはな。
頭から灰をかぶったような色をした長い髪の女は臆することなく我に向かって横なぎに剣を振るう。
間一髪で我はそれを前に転がるようにして避けた。
「アタシの仲間をよくもやってくれたな!!」
振り返る暇もなく次の斬撃が迫っているのを背後に感じた。
我は無詠唱で<ダークボール>を両の手に作りだすと適当に後ろに飛ばす。
「っ…闇魔法かっ!」
当たりはしなかったものの不意をつくことには成功したようだ。
我が体勢を立て直して距離をとる時間は稼げた。
この女…先ほど戦った男らとは別格だな…
我が振り向く暇もなく追い打ちをかけてくるとは…
剣を構えてこちらを睨みつける女を前に、我は<クリエイト・ダークブレード>の詠唱を始める。
ヒュン!と即座に我に向かってなんと女は剣を投げつけて来た。
武器を手放しただと!?
回転しながら飛んでくる剣を背後に倒れるようにしてなんとか避けた。
避けたはいいがまた倒れてしまった。
「…冷然たる意志は静謐を示す刃とならん!<クリエイト・アイスブレード>!!」
空を見上げる我の目に、女が蒼い…氷のような剣を振りかぶる姿がうつった。
ガギィィィィィン!!
「はあっ!?嘘だろちくしょう!!」
女が振り下ろした氷の剣は我が生み出した闇の剣に阻まれ、いびつな音をたてた。
女が驚いて声を上げた一瞬、我は地面に寝転がったまま相手の腹に思い切り蹴りを入れる。
「ぐ…うぐっ…!」
女はその場から数歩あとずさり、我は腹を蹴り出した反動で後ろに体半分、転がるようにして反動をつけ、すぐさま立ち上がった。
「魔法剣か、驚いたぞ、そうやすやすと使える魔法ではないな」
「なめやがって…てめぇも使ってるじゃねえか…」
剣を投げつけて来たのは我を油断させて氷の剣でしとめるつもりだったからか。
もし我が詠唱していた魔法が<クリエイト・ダークブレード>以外だったら危ないところだった。
我は闇の剣を構え女を見る。
今日はもう既にかなり魔法をつかっている。
魔力ポーションは…走っている最中に使い切ってしまった。
多少回復していたとしても闇の剣を作り出すのはこれ以上は危険だな。
<ダークミスト>も使うにしても…場所があまり良くない。
この館の前は広く、木があまりないせいか風が吹いている。
黒い霧で覆い隠すには不向きな場所だ。
あとは消耗の少ない<ダークボール>くらいしか使えそうにない。
「女…ひとつ聞きたいことがある」
腹に受けた痛みをこらえている今なら話ができるかもしれない、そう思い我は女に語りかけた。
「ここにヴォルガーという男がいるだろう、やつを出せ、そうすれば見逃してやる」
女は我の言葉を黙って聞いた後、口元をゆがめて…笑った。
「残念だったな!あいつならもうここにはいねえよ!!」
叫びながら再び氷の剣を我に浴びせようと突っ込んで来る。
いない?ハッタリか?
氷の剣と闇の剣を交えつつ考えようとしたが余裕がない。
「…悪いが貴様には手加減できん、殺す」
「死ぬのはてめぇだあああ!!」
女は怒りをあらわにしつつ激しく攻めて来る。
剣の腕はなかなかのものだ、だが…
「くうっ!?」
我の放った<ダークボール>が女の右肩に激しくぶつかりはじけた。
何度か斬撃を交わして気が付いたが、この女は氷の剣以外の魔法をつかわない。
我が離れて<ダークボール>を放つと避けるか剣でなんとかしようとする。
実際、魔法剣でなら<ダークボール>を切り払うことは可能だ。
しかしその行為自体が隙を生んでいると気が付いていない。
我が闇の剣から左手だけを放し、女に向けてかざすとやつは反射的に氷の剣を引いて目の前に構える。
そこに我は力任せに斬撃をぶつける。
そうすると男と女の力の差か、やつはよろめいて体勢を崩す。
がら空きになった脇腹に蹴りを入れてやるか、無理やり闇の剣で氷の剣を押さえつけ、開いた体の部分に<ダークボール>を撃ち込んでやる。
「うああああっ!」
何度目かわからんが、女はとうとう今までにない悲鳴をあげて、後ろに倒れた。
「魔法剣と魔法を同時に使う相手と戦うのは不慣れなようだな」
「はぁ…はぁ…てめえみてえなのが…そこらに何人もいてたまるかよ…」
我を見上げてくる目にはまだ強い意志を感じる。
隙あらば何かしてやろうという、そういう目だ。
この女はやはり生かしておくには危険だ。
我の魔力もそろそろ限界が近い、ここらでケリをつけてやろう。
我は闇の剣を振るい、女の最後の希望だった氷の剣を弾き飛ばした。
「くそっ…アタシの氷の剣が通用しないなんて…」
「ククク、我が闇の剣は最強!貴様程度の魔法剣で破れはしない!さあこれで終わりだ!」
我はトドメを刺すため、女の前で大きく剣を振り上げた。
「あ、すいませんそれちょっと待って<ライト・エンチャント>」
間の抜けた、場違いな気配を感じさせる声がした。
と思うと我の闇の剣は跡形もなく、手の中から消えた。
え…お…?なぬ…?
「ヴォルガー…て、めえ…何しに戻って…」
「ああーナインス結構やられてんなあ、ちょっと待ってな?」
ヴォルガーだ。
やはりいるではないか。
我らが探し続けてようやく見つけたその男は、なぜかにこにこと笑いつつ、元気そうなそぶりで我に向かって
「マーくん!久しぶり!」
とのたまわった。
なんだそれは。
「あれ、マーくん?マーくんだよね?この前髪っぷりはマーくんしかいないもんな?」
「ああ…まあ…前髪?」
「いやそれはどうでもいいか、それよりひょっとしてこれはあれか?俺を助けに来てくれたのか?」
「…そうだ」
ヴォルガーは我に近寄ってバンバンと背中を叩いてくると「マジかっ!感動した!さすがやっぱり持つべき友はマーくんに限る!」とかなんとか言ってくるが疲れているので「背中を叩くな」とだけ言い返した。
「あの…ということでお迎えもきたから普通に帰ろうと思うんだけどいいよな?」
ヴォルガーは倒れている女にそんなことを言っている。
「…クソがっ…!何がお迎えだよ…!アタシは…アタシはなぁ!また死にかけたんだぞ!」
「そう言われても…自業自得としか…」
「うるせえっ!こんな化け物みてえな仲間がいるなら先に教えとけっ!」
「えぇ…普通は教えないですよね…?」
「ああああ体中がいてえんだ!さっさとアタシを助けろ!!」
女に助けろ、と言われてヴォルガーは「はいはいじゃあわかったから」と言いつつ女の傍らに座り込んだ。
「いやおい、ちょっと待て、何をしようとしている」
さすがに見過ごすわけにはいかず我はヴォルガーを止めた。
「<ヒール>をかけようかと」
「それは敵だぞ」
「そう言われるとそうだけど…さすがに可哀そうかなって…」
「我を殺しに向かってきた女だぞ」
「うーん…やっぱマーくん的には許せないか、まあそうか、困ったな」
「こらぁあ!アタシよりそんなあぶねえヤツのいう事を聞くのか!」
危ないのはお互い様だろうが…なんだこの女は。
いつの間にか泣きながらヴォルガーにしがみついている。
「あのさぁ、とりあえず色々と事情を説明するから一旦館の中でお茶にしよう?」
ヴォルガーはそう言って、喚く女を抱きかかえ持ち上げると館の方へ歩き始めた。
「おまっ…おまえなにやって」
「まあまあここはひとまず俺が運んでやるからしばらく大人しくしてて」
女はさっきまでの形相はなんだったのかと言わんばかりに顔を赤くして大人しくなるとそのままヴォルガーに運ばれていった。
…何か我の思ってたのとちょっと違うな。
急に体がだるくなってきた、疲れたぞ。
「マーくんの好きなハンバーグも出すから!とりあえず、なっ!」
ヴォルガーが振り返ってそう言った。
ハンバーグか、ならば…まあいい、我も行くことにしよう。




