裏切り者
無暗な器物破損
「よしほらマーくんとシンタロウにはハンバーグ、今日のは目玉焼きが乗ってるから豪勢だぞお」
食堂のテーブルにつくマーくんとシンタロウの前に俺は目玉焼きハンバーグの乗った皿を置く。
「ナインスとアイラはえーとこれでいいんだよな?ミルクレープ」
その二人に向かい合うように反対側に座る女性陣にはミルクレープを切り分けた皿を置く。
そして俺はそんな男性陣と女性陣の間をテーブルの端、二組の中間になるように立っている。
「さあどうぞ、召し上がれ」
と言ってみたが俺をのぞく人々は終始無言。
食事に手をつけようとしない。
「…何か不満があるのか?」
俺がそう尋ねると真っ先にナインスが口を開いた。
「こっちは口の中も切れてて食事どころじゃねえんだよ!何が召し上がれだ!」
「あー…それは辛そうだな、どうだろうマーくん、そろそろ怪我を治してやってもいいだろうか?」
俺は焼きたてのハンバーグを前にしても微動だにしないマーくんに尋ねてみた。
「…その前にお前はどっちの味方なんだ?それをはっきりさせろ」
それは勿論マーくんの味方である。
しかし、それをわかってもらうために行動で示さねばならんということだな。
「ナインス、改めて言うがこの男はマー…いやマグナと言って俺の仲間だ。今後何かあったら俺はどうあろうとマグナの味方をする、わかってもらえるな?」
俺がそう言うとナインスは睨みつけて来るだけで何も言わない。
…他の出払ってる盗賊が戻ってきたらなんとかなると思っているのだろうか。
ふう、あんまりやりたくはなかったけど仕方ない。
「えー…味方をするというのは遠慮なく魔法を使うということだ。ナインスには見せたことのない、例えばこういう<ウェイク・パワー>」
俺は自身の力を魔法で強化し、テーブルに置いてあった銀のスプーンを手に取る。
それを片手で握りつぶすように手の中に納め、元スプーンだったものをテーブルにほおった。
「な…んだよ…こりゃあ…」
ナインスの目の前には銀色の球体が転がっていた。
俺が今、目いっぱい力を込めて握りつぶしたスプーンだ。
圧縮されて鉄の塊みたいになってしまったが。
それを見て驚いているのはナインスだけではない、シンタロウとアイラも目を丸くして眺めている。
「今まで隠していたが俺は回復魔法以外にも、こういった身体能力を強化する魔法も使える、つまりこういう魔法を遠慮なくマグナにも使うぞということだ」
これでようやくナインスにもどういうことか伝わったと思う。
…だって何かさっきまでと俺を見る目が違うし。
「ヴォルガーの魔法を受けた我を、先ほどまでの我と同じと思うなよ?次に顔に拳を受ければ目玉はつぶれ飛び出し、頭蓋は砕け脳が飛び散るだろう、腹に蹴りを受ければ体は半分に千切れ臓物をまき散らす、さらに…」
「あ、マーくん具体的な描写はその辺でもういいので」
横で聞いてるシンタロウが真っ青な顔をしていた、教育に非常に良くない。
「わかったよ…アタシの負けだ、もう何もしない、部下が来ても何もさせない、どっちみちその男はただでさえ強いんだ、だからこれ以上の化け物にするのは勘弁してくれ」
少しふっきれたような気がするのは気のせいだろうか、ナインスがひらひらと手を振りながら言った。
「いやあ分かってもらえてよかった!じゃあもう怪我をなおしてやるからな!<ヒール>!」
俺はもうマーくんの同意を求めず<ヒール>をかけた。
ナインスの体を光が包んで癒す。
怪我人をずっと放置しておくのってなんかむずむずしていやだったんだよなあ。
「ふん、礼なんか言わねえからな」
「いいよ別に、それよりこれでもう食べれるだろう、マーくんたちもほら冷めるまえに」
「おいそれはまあいい、で、この子供らはなんなんだ、我の隣にいるやつは獣人族に見えるんだが」
「あーもうめんどくせえなあ!説明するから食いながら聞いてよ!」
俺はその場にいる者たちに、それぞれがどういう人物なのか説明をはじめた。
………………
………
「大体話はわかった、ヴォルガーはその女の怪我を治すために攫われてきて、その後はこの子供たち…こいつらがザミールの誘拐事件と関わりあるようだが…まあこいつらと共にここで料理番をしていたわけだな」
「そう、コムラードに帰りたかったんだけど道がわからんし、二人をほおってはおけないし、ナインスはここにいろとか言うし身動きがとれなかったんだよ」
「はいはいアタシが悪いんだろどうせ」
ナインスがふてくされているが…まあ俺を攫ってきたのはフリスクの独断だったようで何とも言えないが、結局今日まで帰らしてくれる気なかったので悪いかと聞かれたら悪いというしかない。
「ヴォルガーだけを連れて帰るつもりだったがややこしくなってきたな…」
マーくんは腕を組んでうーむと考え込んでしまった。
「ヴォルさん、少しいいですか?」
「ん、なんだいアイラ」
今まで黙って食事をしながら話を聞いていたアイラだけど…急になんだろう。
やはり今後の身の振り方についての話だろうか。
「ヴォルさんが食べてるそれは何ですか?」
食い物の話であった、ブレねえなアイラ。
「ああこれは…時間がないからあまりもので作った普通のクレープ」
「普通の?クレープというのは本来そういう食べ物ということですか?」
「これが基本的な形ともいえるかな、こうして皮一枚で好きな具材を包んで手に持って食べる」
「ミルクレープに比べると手軽ですね、ですが包んで巻くだけなら簡単そうです、私も是非試さなくてはいけません」
「いやもう皮も具も無いから…カスタードはあるけど」
「無ければ作るまでです!シンタロウ!厨房に行きますよ!」
「えっ?ぼくも…?」
「貴方がクレープを焼くんですよ、ほら早く来なさい」
アイラは席を立つとシンタロウの手を握り、厨房へ引っ張って行ってしまった。
食いすぎじゃねえ?つか結局作るのはシンタロウじゃねえか。
いや、待てよ、ひょっとして気をつかってこの場を離れたのか…?
シンタロウは結構びくびくしてたからな…連れて行く口実かもしれない。
「…それで、マグナとヴォルガーはアタシらをどうするつもりだ?」
子供たちがいなくなったからか、ナインスが重い口調でそう告げた。
「俺は子供らとコムラードに帰れればそれでいいんだけど、それだけじゃだめってことだよな」
「当たり前だ、ここにいるやつらは盗賊、犯罪者だぞ、見逃したら我らも罪に問われる」
「なんならアタシの首でも手土産に持って帰るか」
そこまではちょっと…冗談でもやめてほしい。
俺の心情としてはナインスたちには情状酌量の余地があるような感じで…
情状酌量ってこの世界で通じるんかな、と考えていたところ
「お頭ぁ!ここにいましたか!」
食堂の扉をあけてフリスクとヘイルと…ほ…ほなんとかが帰ってきた。
「呑気に飯食ってる場合じゃありませんよ!怪我人は皆、木の生えてる部屋に運びましたが…侵入者はまだ見つかって…」
「うわぁあぁぁぁ!あいつだ!でたぁぁぁ!」
フリスクが喋ってる途中で後ろにいた男が叫び声をあげた。
「ん、ああっ!なんだこいつ!あまりに自然に飯食ってるから仲間かと思ったけどよく見たら全然知らねえやつだ!」
ヘイルがマーくんを指さす。
「馬鹿ヘイルそいつが侵入者だよ!!」
「なんだと!?本当かよホランド!」
あっ、ホランドだ、そうそう、確かそう言ってたな。
俺が名前を思い出してすっきりしているさなか、フリスクたちは剣を抜いて構えた。
「よせ!やめろ!手を出すな!」
ナインスが叫んでフリスクたちを止めようとした。
「お頭!?なにを…」
「頼むからやめてくれ!こいつはアタシより強い!お前らが死ぬところは見たくねえんだよ!」
「4対1だ!俺らとお頭でならやれますよ!なあに怪我しても死ななきゃヴォルガーに頼めば…」
「馬鹿が!アタシのいう事を聞け!それに4対1じゃねえ、4対2なんだよ!」
「えっ」
マーくんがニヤっと笑って椅子から立ち上がる。
あー何かこれさりげなく俺にチラチラと視線飛ばしてきてますね。
つまりあれだな、かっこよく見える演出をやれということだな。
「<ウェイク・パワー><ウェイク・スピード>」
とりあえず二つほどマーくんに強化魔法をかけておいた。
俺の強化を受けてマーくんは拳を握ると…食堂の壁を無造作に殴りつける。
ドガァァァァン!
派手な音をたててレンガの壁がガラガラと崩れて穴があいた。
フリスクたちは呆気に取られて崩れた壁を見ている。
「ああなりたくなければ剣を捨てろ」
マーくんはいつの間にかフリスクたち三人の背後に回り込んでいた。
俺はまあわかったけどフリスクたちはぞっとしたろうな…
目の前にいた相手がちょっと目を離したらいきなり後ろにいたんだから。
「クク…良いことを教えてやろう、お前らが仲間だと思っていた男…ヴォルガーは本当は我の仲間で…さらに我よりも強いぞ?」
ちょ、マーくん!そういういらんこと言うのやめて!
ああっもう、ヘイルとか俺をすごい顔で凝視してるやん!
お頭を頼むとかいって出てったもんな!俺のこと信じてたもんな!
あと俺は強くねえよ!見せかけだけだよ!
「頼む、そいつの言う通りにしてくれ…」
ナインスの悲痛な声でフリスクたちは剣を手放した。
マーくん楽しそうだけど俺はちょっと心が痛いな。
「あのまあ…そういうことなんで、どうか大人しく…」
「この裏切り者おおおおおおおおおおおお!」
ヘイルの叫びがむなしく響いた。
だが俺は別に盗賊の仲間になった覚えはないのでそう言われても困るんだよなあ。




