マーくんの冒険7~フルアクセル~
開き直ってこのシリーズ長くなってもいいやと思うことにした。
「それは隠れているつもりなのか?」
ザミールの街を走ること数分、民家の壁際に積み上げられた木の板に横から頭をつっこんで壁と板の隙間に入ろうとしているディーナを見つけた。
四つん這いになって大分必死なようだがケツがはみ出ているので何の意味もない。
「ひいっ、あっ、ま、マーくんか…」
変なことをしていないでさっさと出てこい、という意味を込めて木の板を叩くと、どうやったのか四つん這いの体勢から勢いよく後ろに飛び下がってディーナが出てきた、器用なやつだな。
「あの、あのね、逃げたのには訳があって、まさか私のことを知ってる人がいるとは思わなくて」
別に聞いていないんだがディーナが勝手に何か語りだした。
どうもこいつは以前に王都で何かあったらしくそれが原因でコムラードまで逃げてきたようだ。
詳細をハッキリ言わないところを見るとあまり人に知られたくないことなのかもしれん。
「おい、その話は今ヴォルガーを探すことと関係あるのか?」
「ううんこれは…私の問題だから関係は無いと思う…」
「なら別に詳しくは聞かん」
「そ、そう?ありがと…」
我が詳しく聞かないと言ったことでディーナは安心したようだ。
誰でもひとつやふたつくらいは人に言いたくないことはあるものだ。
冒険者や傭兵をしていると…そういう話はいくらでもある。
「そう言えばあの女はアバランシュには行くな、と言っていたぞ」
「え?なんで?」
「知らん、知らんがディーナにとって良くないことがあるから行くな、という感じの忠告だったぞ」
「そう…じゃあ、これからどうしよっか…」
我は少し考えてから、この街でレックスが言っていた行商人の手掛かりを探すことにした。
ただディーナが人目を気にしておどおどしながら歩くので、顔が隠れるようフード付きのマントを途中で買わせた。
それで変装してからは落ち着いたのか、普通に歩くようになったが余計怪しくなったとは言わないでおいた。
………………
………
「何もなかったね…」
宿で食事をしながらディーナは今日一日の成果を簡潔に一言で言った。
何もなかった、一日中探してもザミールに行商人の手掛かりは何もなかったのだ。
「商人連中も知らんとはな」
この街にいる商人にもあたってみた。
レックスから聞いた行商人の名前と外見の特徴を伝えても誰も何も知らなかった。
「あまりにも誰も知らなすぎる、これはおかしい」
行商人のくせにこの街で商売をした気配がないのだ。
こうなるともう行商人というのは嘘で名前なども偽名だと思ったほうが可能性が高い。
「一度もザミールまで来たことが無い人たちなのかな?」
「それでも変だ、こっちからアバランシュに行ったことのある商人ですら知らんのだから」
「そっか、そうだよね、じゃあどこで商売してるんだろ?オーキッド?」
「いや、商売自体元々していないかもしれん、行商人というのは恐らく嘘だ」
「えっ、じゃあその人たちは一体何?」
行商人に関する話は何もなかったが、代わりに別の話は聞けた。
「前にアバランシュで反乱があったのは知ってるな」
「ん?ああ、ロイさんが言ってたやつ?」
「そうだ、今日調べたところによれば、その際に街で暴れ回ったやつらが盗賊となっていまだに近隣の山中に隠れているらしい、行商人の正体はその盗賊どもかもしれん」
「それでヴォルるんは盗賊に攫われて山の中にいるのね!!」
それを信じているのはディーナだけだが、いい加減無視するわけにもいかなくなってきた。
ここらで一度、ラルフォイやジグルドたちと会って情報を整理すべきかもしれん。
ディーナの夢の話も含めてな。
「…明日は一度コムラードに帰るか」
「仕方ないけどそうね…私も三日以内に戻れって言われてるし」
ああ、出発するときにタックスのところの家政婦になぜかそんなことを言われていたな。
………………
………
翌日、ザミールの街を出て魔動車を隠している林まで戻ってきた。
魔動車は誰かに発見された様子もなく、我が隠していったときのまま何も変わらずあった。
我とディーナは魔動車に乗り込むと、コムラードに向けて出発した。
「マーくん、それずっと見てるけど…何か気になるの?」
我はずっと地図を見ている、この周辺一帯の地図だ。
魔動車に乗る直前、ふと気になることがあって我はこうして移動している最中も地図を眺めている。
「…ここがアバランシュで、こっちがレックスと娘が再会した峠、それからここがコムラードの鉱山だ、見てみろ、おかしいと思わんか」
「今は見れないよ!運転してるもん!!」
「なら説明してやる、この三つを挟んで間にある場所は…」
「あー待って待って!またあれが出てきた!」
ディーナが前を見てわめくので我もそっちを見ると、来る途中に出会ったプレインワームの集団が再び地中から姿を出してにょろにょろとこちらに這ってきていた。
「あ、大事なことを思い出した」
我は魔動車を運転したかったのだ。
ディーナにまたプレインワームに突っ込んで轢き殺せと言おうとして思い出した。
「ちょっと速度を落として一旦止まれ」
「ええっ!?こんなとこで!?」
「早くしろ、あいつらが近くまで来る前に」
ディーナは我に言われるまま魔動車を荒れた街道の真っただ中に止めた。
「場所を代われ、我が運転する」
「何言ってんのマーくん!?」
「ほら、どけどけ、狭いんだからお前はこっちに移れ」
「きゃあもう変なところ触らないで!マーくんのエッチ!」
「な、何も変なところなど触っておらんわ!!言いがかりはよせ!」
ふうまったく、さっさとどけば面倒もないものを。
数分して我とディーナは乗っていた場所を入れ替わった。
「マーくん運転できないでしょ!」
「できる、見て覚えた」
「見て覚えたって…だからってなんで今こんなことをするの!?」
「我も運転してみたいからだ」
「それだけ!?」
我は足元の鉄の板を踏み込む、魔動車が再び加速しはじめた。
「ぎゃーっ!一気に速度あげすぎ!!」
「お、もう目の前までミミズどもがいるな」
ハンドルを握って回す、すると魔動車は我が思った方向に曲がって進みはじめる。
「面白い」
「マーくんからはタックスさんと同じ危険な匂いがする!!」
プレインワームの集まってできている壁の中で、一番薄そうなところに我は思い切り魔動車をつっこませた。
バァァァン!!
ミミズははじけて胴体を真ん中から真っ二つにされた。
「ははははは!」
「何笑ってるの!?こわいよマーくん!!あああまた肉片がついてるうう!」
そのままさらに速度をあげるとプレインワームの群れはあっというまに遥か後方で小さく見えるだけになった。
肉片もどこか飛んで行った。
この魔動車とやら…我も一台欲しいな。
「速度落として!あいつらいないから!もういいでしょ!」
「はっはははは!」
「マーくん!?聞いてるの!ねえ!?」
………
ほどなくしてコムラードの街が見えた。
街に入る前にディーナに運転を代わってやった。
ゲロを吐きそう等と言い出したのでやむなくだ。
街中に入ると相変わらず何人かが驚いたようにこちらを見ている。
門番は街を出るときにもいたやつだったので、ああ戻ってきたんですね、と言っただけでそこまで驚かなかった。
「我は先にここで降りて冒険者ギルドに行く、ラルフォイにザミールで知ったことを伝えてくるぞ」
「わかったわ、じゃあ私はこれをタックスさんのところに戻してくるからまた後でね」
ではな、と魔動車から降りようとすると
「あっ、ねえ、そう言えば帰る途中で何か言おうとしてなかった?ほら、地図見てた時よ」
「ああ、それはな、ヴォルガーは『神隠しの森』にいるということだ」
我は自信をもって、そう答えた。