マーくんの冒険6~VS幼女~
子供らしい子供時代のないマーくん
「あのう、もしかしてレックスさんて貴族様…ですか?」
レックスの屋敷を目にして、ディーナがそんなことを言い出した。
「男爵の爵位は王から授かっているが、それがどうかしたかい?」
「これまで無礼な態度をとってすみませんでしたぁぁ!どうかお許し下さい!!」
「い、いや構わないからこんなところでまた土下座はやめてくれ…警備している部下も見ている」
詰め所で娘の病気が治っていたことをもう少し詳しく聞くと、やはり…とある男…名はわからないらしいがそいつが魔法で病気を治したらしい。
その男についてはレックスは直接見ていないというので、直接見た者、つまり娘たちから話を聞きたいので合わせてくれ、と我らはレックスに頼んだ。
だがようやく帰ってきたばかりの幼い娘を、見ず知らずの我らに会わせるのはさすがに抵抗があったようで最初は断られた、しかしディーナがあまりにしつこく必死に頼むので最後には観念して了承した。
意外なところでディーナが役に立ったな、と我は思った。
我には相手の足にしがみついて、地面にぶつかりそうなほど頭を下げ続けることはできそうにない。
それでこうして娘のいるレックスの屋敷まで連れてきてもらったところなのだが。
「ディーナ、今更何を言っている、こいつは最初にリディオンという家名を名乗っていただろうが」
「あの時は何がなんだかわからなくてそんなの覚えてなかったのよ!!って、マーくん!!わかってるならこいつとか言っちゃダメ!あああお許し下さいお許しください!」
「わかった!許すからとにかくもう私の足を離して早く家に入ってくれ!!」
………
屋敷に入るとすぐに執事と思われる老人が奥から出てきた。
我とディーナはその執事に案内され応接室まで行き、そこで待たされている。
レックスは妻と娘に話をしてくると言って玄関で別れたので今はいない。
「どうぞ」
「あっ、ど、どうも…ありがとうございます」
ソファーに座って待つ我らに執事が紅茶を運んで来た。
とりあえずせっかくなので陶器のカップを手に取り、グイっと飲んでおいた。
味はよくわからん、これがうまいのかどうか。
「今は上等なものを切らしておりましてなあ…申し訳ございません」
「いえっあの、私たちにそんな気は使わなくていいですから!」
我の方を見てなぜか執事がそんなことを言い出したが、生憎紅茶など数えるほどしか飲んだ記憶がないのでどう言われても違いがわからん。
そしてさっきから我の代わりに答えているのは全部ディーナだ、それには理由がある。
部屋に入ってすぐ、ディーナは我に向かってこんなことを言った。
「…いーい?マーくん。ここから先の会話は私に任せて」
「別に構わんが…なぜだ?」
「マーくんってなんていうか…無礼の塊みたいなところあるじゃない?」
「おい」
我のどこが無礼だと言うのだ。
そういうお前のほうこそ無礼だと我は思うのだが。
「我とて礼儀くらいわきまえている」
「わきまえてたら貴族に向かってこいつ呼ばわりはしないと思うの」
「それくらい構わんだろ別に」
「構うよ!そういうところが危ないのよ!」
別にレックスは怒ってなかったと思うんだが…
「とにかく!私に任せてなるべく黙ってて!」
「わかったわかった…ぎゃあぎゃあ喚くな」
というわけで我は黙って、会話はディーナに任せることにした。
紅茶のお代わりを飲みつつそう言えば今朝は飯を食い損ねたから腹が減ってきたな、等と考えているとレックスが女と子供を連れて部屋に入ってきた。
「待たせてすまない、紹介しよう、妻のリアナと娘の…こちらがラライア、そしてこっちがルルイエだ」
「私は冒険者のメンディーナですっ、こっちはマー…じゃなくて、冒険者のマグナ…です」
リアナという女はにこやかに顔に微笑を浮かべたまま会釈した。
決してディーナのようなひきつった笑顔ではないところに貴族の妻という確たる違いを感じるな。
「ララ、もう一度、あの…ルルの病気を治したって言うおじさんの話をしてくれないか」
「うん、いいよ、このおねえちゃんにすればいいの?」
「ええっ、お願い!私にとって大事な人なの…だから…」
そこからはラライアという少女がディーナに向かってあれこれ語りだした。
子供の言うことなので何分、ところどころ、いまいちわからん部分が出てくるのだが…
話を聞く限りでは、ラライアが出会ったという「おじさん」はディーナと同じくらいの背丈、黒い髪、回復魔法などどれもヴォルガーと特徴が一致していた、もうやつで間違いないだろう。
名前に関しては教えられなかった、というより「聞くな」と脅されていたようだ。
レックスたちの元へ帰る際、乗せられた馬車の中でヴォルガーと…それからもう一人、女が一緒に乗っていてその女がヴォルガーの名前などを聞くと家に帰れなくなるぞと言ったため、聞けなかったらしい。
ちなみによくわからんのは馬車内では目隠しをされて退屈だったけれどヴォルガーが色々な話を聞かせてくれて楽しかったとか…あいつは本当に何をしているんだ?
ヴォルガーのことを話すラライアをディーナは真剣に見つめていた。
レックスはラライアの隣に座り、一緒に話を聞いている。
リアナも一緒に座っているんだが…こいつはなぜか娘と夫よりもディーナをずっと見ている気がする。
我の気のせいかもしれんが…
少し離れて控えている執事に、もう一杯紅茶でも貰うか、とディーナたちから目を離したところ、我のことをじーっと見ている視線があることに気が付いた。
確かこいつは…ルルイエだったか、いつの間に我のすぐ横まで来ていたんだ。
「おにいちゃんはおじさんのともだちなの?」
何を言って…ああ、おじさんはヴォルガーのことか。
ともだち…友達か…言われたらまあ、うむ、そうだろう、友と呼べるはずだ。
黙っていろとディーナに言われているので我はとりあえずルルイエにむかって頷いた。
「そうなんだぁ、あのね、おねえちゃんはおじさんのことかっこいいっていうんだけど、わたしはおとうさんのほうがかっこいいっておもうの、おにいちゃんもそうおもうでしょ?」
今度はなんだ…恰好いい…?
ヴォルガーとレックスを比べてどっちが恰好いいか、と言う事か?
うーむ…頼りになるという点ではヴォルガーが圧倒的だがそういうことかどうかわからん。
とりあえずここは、礼儀をわきまえている我はこやつの父親のほうが格好いいという意見にのっておいてやろう。
我はまたルルイエにむかって黙って頷いた。
ルルイエはにこにこと笑うと我の傍に寄ってきて、我の手の指を握りしめる、何がしたい?
「おにいちゃんも、そこそこかっこいいとおもうよ」
…これはどう返事をしたらいいんだ?
頷くのは…何か癪だな、我はそこそこなどという中途半端な意見を認めたことになる。
しかし首を横にふるのも違うような…
「でもおじさんはまほうがつかえるんだよ、だからすごいんだよ」
悩んでいると急にまた違う話をはじめてしまった。
今度はまたヴォルガーか、だがこれなら我も知っていることだぞ。
頷いておこう。
「もしかしておにいちゃんもまほうがつかえるの?」
コクリ。
我はこの世でもっとも格好いい闇魔法が使えるのだぞ。
「ほんとう?じゃあみせて!」
ハハハ!よかろう!ならば…いや、待て。
見せるのはまずい気がする、こんな部屋の中で使うと危険だ。
「うそなの?」
黙ったままじっとしてると嘘かと言われた、嘘ではない!
「なんでなにもしゃべらないの?」
喋るなと言われているからだが…これもまた返事が難しいな。
「…わたしのこときらいなの?だからしゃべらないの?」
ルルイエの顔がじわあっと歪んで泣きそうになる。
おい待て、なぜそうなる、別に嫌いとかではない。
「やっぱりきらいなんだあああ!」
「ちがっ!そうではない!この女が喋るなと我に言うからだ!!」
説明しようとディーナの方を指さしながら泣き出したルルイエにそう言った。
「マーくん…何してるの…」
気づいたら部屋の全員が我のことを見ていた。
なんだ、我が悪いのか?
………
「じゃあ、私たちはこれで…」
「私のほうでも調べてみるが、何かわかったら是非私にも教えて欲しい、ルルの病気を治した人物だしな」
ラライアから一通り話を聞いて、我とディーナはレックスの屋敷を出ることにした。
何かヴォルガーのこと以外にもいろいろ慌ただしくなってきたな。
理由は、ラライアの話を聞いているうちに、レックスも知らなかった不審な点が色々出てきたのだ。
ラライアたち以外にもフードを被った女の子が一緒に攫われていたとか、死にかけの獣人族の子供いたとか、保護していたという割に、その子供たちと同じ部屋に数日間閉じ込められていたとか…
「やっぱり間違いないよ…ヴォルるんは夢で見た場所にいる」
屋敷を出る直前ディーナがそう呟いた。
こいつが言っていたフードを被った黒髪の少女らしき人物がラライアの話にも出てきた。
もしかしてこいつは本当に何らかの力で遠くの場所を見ているのか…?
「あの、少しお待ち下さい」
玄関を出たところで後ろから声をかけられ、振り向くとリアナがいた。
レックスと娘たちはもういない、ルルイエがお腹がすいたとか言うので食事に行ったはずだ。
「メンディーナさんに少しお話したいことが」
「え?私ですか?」
ディーナ自身もなぜ呼び止められたのか全く分かっていない様子だ。
「ええ…その、私の勘違いでしたら申し訳ないのですが…メンディーナさんは、王都にいた聖女様ではありませんか?」
聖女様?一体何の話だ?
「ひひひひ、ひとちがいですっ」
おいなんだその不気味な笑い…ではないな、動揺は。
「…そうでしたか、失礼いたしました」
「いいいえっ!では私たちもこれで失礼しますううう!」
ディーナはその場から逃げるように走りだした。
どこへ行く気なのだ。
ほおっておくと確実に迷子になる、面倒なやつだ。
急いで後を追おうとするとリアナがまた何か言った。
「あの!メンディーナさんに伝えて下さい!!アバランシュには行ってはいけないと!」
…また訳のわからないことが増えたな。
とりあえず我は「わかった」と返事をしてディーナの後を追いかけた。




