○夜会が苦手な理由
2022/02/20 改稿
捻挫をして四日目。
腫れも痛みもずいぶん治まったのに、まだ動き回ることを許可されません。
ロゼッタさんから頂いた恋愛小説も読み終えてしまいました・・・。
「暇だなぁ・・・」
そう呟いたと同時にドアが開き、机と椅子が運び込まれてきました。
メアリは知っていたようで、どこに置くか指示しています。
一人、呆然としていると、サイラス様がやって来て、
「せっかく王宮内にいるから、仕事しようか?」
爽やかな笑顔でおっしゃいました。
しかし、その笑顔が、何か企んでいる様に見えるのは、気の所為でしょうか?
椅子に座るよう促され、メアリの肩を借りて移動します。
サイラス様が「手伝おうか?」と尋ねてきましたが、丁寧にお断りしました。
「先ずは、これを見て」
紙の束を渡されます。書類と言うよりは、覚書のようです。
書かれていたのは、各家のご婦人の情報でした。
生年月日や家族構成、実家はどこなのかを始め、髪や瞳の色や体型などの外見についてや、趣味や好みの物、贔屓にしているお店など、様々なことが書かれていました。
古い情報は二重線で消され、新しい情報に書き換えられていくようです。
「王妃様が、この覚書の書式を統一して、資料として管理したいそうだ。資料の整理には慣れていそうだし、どうせ暇だったんだろう?」
「・・・はい・・・」
覚書を解りやすい資料にする事は、大学時代やっていたことなので構わないのですが、何故、私が退屈にしているのが分かったのでしょうか?
「ロジャーから、『暇を持て余しているようだから、仕事を与えてやってくれ』と、頼まれた」
毎日、ロジャー兄様がお見舞いにやって来ます。説教つきで。
「『そうでもしないと、勝手に抜け出すから』と、言っていた。以前も同じことがあったようだな」
「・・・・・・。何のことでしょう?」
「子供の頃の話をエドワードとシオン殿と共に聞いただけだ」
ロジャー兄様、いったい何をお話ししたの?
思い当たることがいくつか頭の中に浮かんできた。
「特に急ぎの仕事ではないそうだ。マリーには簡単な仕事だから、すぐに終わるだろう?」
サイラス様はそうおっしゃいますが、結構な量があります。
まずは、一通り目を通して、それからどの様な書式にするか決めなければなりません。
基本は爵位順に並べるとして、主要な項目ごとでも検索できるようにしておきたいですし・・・・・・。
覚書を見ながら、どの様な項目が書かれているか書き出して行きます。
「マリー様、お茶が入りました。サイラス様もどうぞ」
夢中で作業をしていると、メアリが声をかけてきました。
「あれ?サイラス様まだいらっしゃったのですか?ご自分のお仕事は?」
てっきり戻られたと思っていました。
「居ちゃ悪いか?昨日が忙しかった分、今日は大した仕事はなかった。自分の仕事は終わらせてきた。今は休憩中だ」
「昨日はそんなに忙しかったのですか?」
「・・・・・・まあな・・・・・・」
「・・・昨日は夜会でしたね・・・」
この部屋は、会場から離れているので、夜会の喧騒は聞こえて来ることはありませんでした・・・。
一人、この静かな部屋で過ごしながら、なぜか夜会のことを考えていました。
参加出来なくて、喜んでいたはずなのに・・・。
「昨日の夜会のことなんだけど・・・」
「はい。何かあったのですか?」
「いや・・・。特にはね。最近はなかったんだけど、エドワードが誰とも踊らずに早々と会場から出ていったぐらいかな・・・」
「そうですか・・・」
抜け出してきたというのは本当だったのですね。
「マリーは?退屈ではなかった?」
「え?いいえ。そんなことはありませんよ。夜会に出るよりは、まだ一人で外を眺めている方が好きですよ。昨日は月もキレイでしたし・・・」
「マリー。調子はどうだい?・・・って、サイラス。なぜ、お前がここに?」
ドアがノックされた後、エドワード様が入ってこられました。
「王妃様から頼まれた資料を持ってきただけだが?エドワードこそ、なぜ、ここに?」
「わ、私はマリーの足が心配で、様子を見に来ただけだ!」
そう言いながら、私の横に腰を下ろします。
「なぜ、マリーの横に座るんだ?」
サイラス様の横も空いています。
「このデザインのソファだと、男二人が並んで座ると狭いだろ」
女性向けの繊細なデザインのソファは、男性二人が並んで座るには少し小さいようです。
だからといって、男女二人でも間隔を広く取れるわけでもなく、よほど気をつけなければふとしたことで腕が触れ合ってしまいます。
「・・・ところで、部屋にも戻って来ずに、ここで何を話していたんだ?」
「そう言うエドワードこそ、俺がいないのをいいことに、ここに来たんだろうが。まぁ、お互い息抜きは必要だしな。あぁ、何の話かって?昨夜の夜会のことだよ。部屋で一人でつまらなくなかったか聞いていたんだ」
「そうか・・・」
一瞬、エドワード様が窓の側に置いてある椅子へと視線を向けました。
「そう言えば、マリーは今までに何回夜会に出席した?」
「え~と、大学入学前の一回と、王宮で働くようになってからの二回なので、合計で三回ですね」
お二人が何やら考えこんでいます。
「その・・・初めて出席した時は誰がエスコートしたのかな?」
「ジェームス兄様です」
珍しくお仕事がお休みだった兄様が快く引き受けて下さいました。
それを聞いたお二人がかなり驚かれています。
「・・・彼が参加した夜会なのに、記憶がないとは・・・」
「あの時ではないか?隣国の式典に代理で出席した・・・。時期からしてそうだ」
夜会でのエドワード様達の記憶が無いのは、お二人共隣国に行かれていたからでしたか。
「大学在学中は?長期休暇の期間中の夜会の参加は可能だったと思うが・・・」
「・・・領地で大学の課題に取り組んでいました。多くの講義を受講していましたので、それなりに課題が多かったんです!お兄様達も勧めて下さいましたし・・・」
「そうか・・・。ロジャー達が・・・。ところで、マリーは夜会に参加したいとかは思わなかった?」
質問してきたサイラス様だけではなく、エドワード様からも見つめられ、思わず視線を逸らしてしまいました。
「・・・参加しなくても良いなら、それでいいかなぁ~と・・・」
お兄様達からもそう言われてましたし。
「ロジャー達自体が夜会が嫌いだしな・・・」
「・・・その・・・、マリーは夜会に参加するのは嫌いか?」
今まで黙って聞いていたエドワード様が尋ねてきました。
「・・・・・・出来ることなら、避けたいです・・・」
「理由を聞いても?」
「・・・たぶん、あの華やかな雰囲気が苦手なんだと思います」
ジェームス兄様と初めて参加した夜会のことを思い出します。
会場である広間に一歩足を踏み入れた途端、目眩がしました。
色取り取りのドレス。きらびやかな装飾品。美しく着飾った人々に酔ってしまったのだと思います。
「その・・・、誰かと踊ったりはしなかったのか?」
「ジェームス兄様とは踊りましたが、他の方とは踊ってはいないです」
お兄様と踊るだけで精一杯でした。
「・・・ダンスは苦手なので・・・」
「そうかな・・・?練習で一緒に踊っている限り、そうは思えないけれど」
「・・・あまり親しくない方と接するのが苦手といいますか・・・」
「そうは見えないけど?」
「会話は平気なんですけど、ダンスとなるとどうしても緊張してしまって・・・。学園時代のダンスの授業も初めの頃は散々でした」
ダンスの先生が相手でしたが、緊張で体が上手く動かせなかったのです。
「多分・・・、子供のころ、ロジャー兄様のご友人に『恥ずかしいから、嫌だ』と、言われて以来苦手になったのではないかと・・・」
あれは、6歳ぐらいの頃、お兄様のご友人の誕生日パーティに連れて行かれたことがありました。
幼い私のダンスですから、手をつないで、音楽に合わせて適当にステップを踏むというものですが、とても楽しいものでした。
ロジャー兄様はもちろん、お兄様のご友人の方数人は、私に付き合って踊って下さいましたが、一人の方は私と踊って下さいませんでした。とても悲しく思ったのを覚えています。
「ふ~~ん。そうなんだ・・・」
サイラス様は、私の話に興味が無いような返事をされました。
一方、エドワード様は、なにやら考えていらっしゃいます。
「苦手な理由は、なんとなく分かった。今回は仕方が無いけれど、夜会の参加は避けられないからね」
ちょっとイジワルな笑みを浮かべて、サイラス様は、無言のエドワード様を引っ張るようにして帰っていきました。
***************
執務室に帰ってきたエドワードは、ひどく落ち込んでいた。
「あれ・・・、たぶん俺だ・・・」
やはり、そうだったか。
たぶん、マリーの言っていたパーティは、ギルバートの誕生パーティのことだ。
エドワードも参加するので、かなり親しい家だけを集めて行われたので、参加者はそう多くは無かった。
小さい女の子が、ロジャーの手を取って、楽しそうにくるくる回ったり、ぴょんぴょん跳ねたりしていたっけ。あれがマリーだったんだな。
妹がいたらこんな感じなのかなと、微笑ましく思って、俺も相手をした。
ただ、エドワードだけが相手しなかったんだよな・・・。
「まぁ、結果として、マリーが親しい人以外とは踊らなくなったんだから、良かったんじゃないか?」
「そうか・・・。そうだよな」
一応、俺とエドワードは踊ってもらえるからな。
少しは、エドワードの機嫌が直ったようだ。
本当に、手のかかる幼馴染だ。




