◯初夏の夜会
2020/06/26 一部修正
王宮での夜会は、強制参加です。
他の夜会は、“王立大学で仕事をしている”との理由で、うまく断っているようです。
先月、トリテレイア王国の王太子ご夫妻をご案内するにあたって、『王立大学植物学科特別講師』という肩書きが付きました。
それ以来、シオン先生と共に週一で転移装置を使って大学に行くようになりました。シオン先生の助手です。そのうち、特別講義を受け持つことになりそうです。
断る理由の“大学で仕事”は間違ってはいないのです。
大学自体、王国の機関なので、“国が主催する夜会の参加”は仕事でもあるとのことでした。
納得はしていませんが・・・。
本日の夜会は、珍しい方がいらっしゃいました。
「シオン先生も夜会に参加されるんですか?」
「私がいるのがそんなに珍しいか?一応、男爵なんだが。まあ、正直なところ、遠慮したいのだが、今日はどうしても出なければならないんでな」
いつもと違う、先生の正装姿はとても素敵で、リズさん達が黄色い声を上げそうなほどですが、周りのご令嬢方が騒がないのが不自然です。
「先生、もしかして、例の術使っています?」
以前、先生に運ばれた時に使っていた術です。
「よく分かったな。こうしないと仕事にならないからな」
「仕事ですか。大変ですね」
「ローズマリーにも協力してもらうことになるがな」
「何をするのですか?ダンスをせずに済むのなら喜んで協力します」
「いや、それは避けられない・・・・・・」
先生が言い淀んでいるところに、エドワード様がいらっしゃいました。
エドワード様がいらっしゃるのに、周りが騒がしくありません。エドワード様に誰も気付いていないようです。
「エドワード様にも術をかけているのですか?」
先生に尋ねます。
「いや、殿下には魔道具をお渡ししてある。今日は、その道具の効果の確認だ。それにローズマリーは協力してほしい」
「と、言うわけで、マリー、今日はよろしく」
エドワード様が嬉しそうにおっしゃいます。
「はい。私は何をすれば宜しいのでしょうか?」
「まずは、一緒にダンスを踊ってほしい」
先ほど、先生が言い淀んでいたのはこれですか。
「では、一度、道具の効果を消すよ」
エドワード様は腕輪を触ります。どうやら、腕輪が気配を消す魔道具のようです。
でも、効果を消すと言う事は・・・・・・。
周りが、急に騒がしくなりました。
皆さん、エドワード様に気付かれたようです。
腕輪の効果すごい・・・。感心している場合では無くて、注目集めたくなかったのに・・・・・・。
「エドワード様。どうして効果を消すのですか?」
ちょっと、拗ねてしまいました。
「私とマリーが踊っているのを母上が見たいと言っていたからね」
チラッと王妃様の方を見ると、目が合いました。
それはもう、嬉しそうな笑顔です。
「王妃様がおっしゃるのでしたら、仕方が無いですね」
諦めて、突き刺さるような視線を我慢することにしました。
「この後、腕輪を有効にする。その後の行動を私と共にしてほしい」
「分かりました」
ダンスが終了し、エドワード様と私は死角になるような場所に移動しました。そこで、エドワード様が腕輪に触れるのですが、変化していないように感じます。
「何も変化がないようですが?」
「夜会が始まる時と同じ設定にしたのだが・・・・・・」
二人で不思議そうにしていると、数人の令嬢が近づいてきました。
「ちょっと、エドワード様はどこ?」
私の隣にいらっしゃるのですが、彼女達には認識できていないようです。
「あちらに行かれましたが」
適当な方向を示します。
「エドワード様と踊ったからって、いい気になるんじゃないわよ!!」
捨て台詞を残し、去っていきました。エドワード様に聞かれていたとは知らず・・・。
「あの方達、気付いていませんでしたね」
「そうだね。たぶん、彼女達は私を給仕と同じぐらいの存在にしか認識しか出来ていないだろう」
気付かれなかったのが嬉しそうです。
「抜け出して、バラ園に行かないか?」
「そうですね。私も外の空気が吸いたいです」
バルコニーから庭園に行くことが出来ます。
私達はバルコニーに向かって、歩いて行きます。
「あら、ごめんなさい。前を見ていない、あなたがいけないのよ」
目の前の女性が言いました。手には空になったワイングラスがあります。
彼女はわたしにわざとぶつかって、ワインを私にかけたつもりの様ですが、
「ああ、すまない。前を見ていなかったようだ」
「・・・!!!」
彼女と私の間にはエドワード様が立っています。エドワード様の服に、見事にワインがかかっています。
そう、彼女は腕輪で気配を消していたエドワード様にぶつかっていたのです。
突然、目の前に現れたエドワード様に驚くとともに、彼女と彼女の友人達は、自分達が犯した失態に気付いて、顔面蒼白になっています。
冷たい視線が彼女達に集まっています。
「私達は、失礼するよ」
エドワード様が私の腰に手を沿え、進むよう促します。
人々が道を開けて下さったので、バルコニーにはすぐに行くことが出来ました。
バラは満開の時期は過ぎ、花の数は少なくなってはいましたが、もうしばらくは楽しめそうです。
私は、花に触れ、香りを増幅させます。
「そうだ、魔法・・・」
ハンカチを取り出します。
「エドワード様、失礼します」
エドワード様の服にかかったワインを魔法でハンカチに移せないか試してみます。
予想以上にうまくいきました。
エドワード様の服にシミは残っていません。
「マリーのハンカチを汚してしまったね」
申し訳なさそうにエドワード様がおっしゃいます。
「大丈夫ですよ」
近くの低木にハンカチを載せ、水魔法と風魔法をかけます。
少し色が付いてしまいましたが、ハンカチは乾いています。
「なかなか便利な魔法だね」
楽しそうに笑っています。
「魔法といえば、シオン先生が作られた、腕輪もすごいですね。皆さんエドワード様に気付いていませんでしたもの。でも、私には効果が無かったようなのですが?」
「ああ、家族や親しい友人には効果が落ちるらしい」
「では、サイラス様達にもあまり効果は無かったのですか?」
「・・・そうだね。サイラスにイタズラでもしようと考えていたのにな」
「ふふ。イタズラはダメですよ。サイラス様のことですから、倍返しになってしまいます。・・・私も、サイラス様と同じ、親しい友人になるのですね。・・・嬉しいです・・・」
エドワード様が、私を少しは特別と思って下さっていることを知ることが出来たのでした。
***side エドワード***
魔術庁長官シオン殿が作成した腕輪には、魔力の付加された5色の石がついている。
赤は腕輪の効果を無効にする石。黄色・緑・青・紫の順に気配を消す効果が高くなる。紫は、隠密レベルらしい。
夜会の会場では、青を使用した。
それでも、効果は驚くほどだった。
作成したシオン殿とマリーを除いては・・・・。
両親やサイラスでさえ青では気付かなかったのだが・・・・。
「私は、製作者ですから、気付くのは当然のことです。もし、私以外で、青や紫の石を使用しても気付く者がいるとすれば、よっぽど訓練された隠密か、殿下にとって特別な存在の人です」
「特別な存在?」
「ええ。殿下と心の奥深いところで想い合える人物です。お互いを尊敬しているとか、想いの種類は様々ですが・・・」
マリーは、青の石でも普段と変わらぬ反応をした。
その事に驚いたと同時に、嬉しかった。
マリーに腕輪の説明をする時、どの様に説明しようか迷った。
正直に説明できず、別の言葉を使った。
「わたしも、サイラス様と同じ、親しい友人になるのですね。・・・嬉しいです・・・・」
そう、つぶやいたマリーを抱きしめたかった。
腕輪の石の効果ですが、黄色が、なんとなく個人として認識してもらえるレベル、緑がグループの一人として認識してもらえるレベルです。




