◯閑話~雑貨屋『デイジー』にて
2020/06/26 加筆修正
今回は、雑貨屋『デイジー』の看板娘クララの視点からです。
「ねぇ、クララ。面白い話無い?小説のネタになりそうな・・・」
そう言ってきたのは友人のテレサ。
「ネタになるかは分からないけど、面白そうな話ならあるわよ」
「えっ!教えて!」
「ロゼッタさんに紹介したい人がいるの」
ロゼッタさんとは、テレサの従姉で、ご夫婦で出版社を経営している。
「ロゼッタ姉さんに紹介したい人って?」
「『デイジー』に、恋愛小説を置くように進めて下さった方」
「姉さんが、クララの店に本を置くようになって、売り上げが伸びたって言っていたから、喜んで会うはずよ。わたしも一緒にいい?」
「たぶん大丈夫だと思う。その方、お忙しい方だから、予定はあちらに合わせていいかな?」
「問題ないはず。早速、姉さんに言ってくる。ありがとね。クララ」
そう言い残し、テレサは去って行った。
数日後、ローズマリー様とロゼッタさんが、お店の奥の応接室にいらっしゃいました。
わたしとテレサも一緒です。
「本日は、お忙しい中、お時間をとっていただき、ありがとうございます」
ローズマリー様がご挨拶されます。
「いえ、こちらこそ。おかげ様で、本の売り上げが上がりまして、お礼をしたく思っていましたので・・・」
ロゼッタさんはローズマリー様が若いことに驚いているようです。
「早速、お話を始めてもよろしいでしょうか?」
ロゼッタさんが頷くのを確認してから、
「先日、クララさんとお話して思いついたことなのですが、こちらのお店にある商品を小説に登場させて貰えないでしょうか?」
ローズマリー様が言いました。
「例えばですね・・・、私の好きな物語ので、主人公が思いを寄せる男性から結婚を申し込まれる時に、その方の瞳と同じ色の石のアクセサリーを贈られていたのですが・・・」
「その物語でしたら、私も知っています!『私もこんな風に結婚を申し込まれたいなぁ』なんて思いましたもの。あの話は異国のものでしたよね」
「ええ。あれはあちらの国の風習なんでしょうか?それとも、作者の創作なのでしょうか?」
「さぁ?どうなんでしょう。作者の創作だとしても、そのうちそれが風習に変わっていきそうな気がしますね」
ローズマリー様とロゼッタさんが盛り上がっています。
「こちらの商品を小説に登場させる、または小説に出てくる品を商品としてこちらで扱うことで、商品と小説、両方の売り上げを伸ばそうと言うことですね」
「ええ。そのとおりです」
「わたし、それ、やってみたい」
テレサが乗り気だ。
「ローズマリーさ・・・ん。友人のテレサです。彼女も小説を書くんですよ」
いけない。ローズマリー様の身分は秘密だったから、ここでは“様”ではなく“さん”で呼ぶことになっていたんだった。
「それでは、あなたにお任せしてよろしいかしら。商品の事に関しては、私よりクララさんのことが詳しいでしょうし、私よりもお二人のほうが良いアイデアが出るでしょうから」
「お任せください!!」
「ロゼッタ様、それで宜しいでしょうか?」
「そうですね。読者と同年代の二人のほうが良い話が書けるでしょう」
「では、事務的なことは、後日、書類を作成して参りますので、その時にしっかり取り決めましょう」
その後は、男性がもらって嬉しいプレゼントは何か?と、言う話になった。
以前、ローズマリー様が王子様達と一緒にいらっしゃった時にした話だ。
「私の身近な方に聞きましたところ、友人からは実用的な物、婚約者や恋人からは身に着ける物や手作りの物が嬉しいと言ってました」
ローズマリー様の身近な方は、わたし達からはかなり遠い方なんですけどね。そんな事を知らないロゼッタさんとテレサは、
「参考になりますね」
と、関心している。
「親しさの程度によって、プレゼントは選ばないといけませんね。あまり、親しくも無い相手から貰っても、困るようで・・・。恋人からは、その方自らが刺繍されたハンカチが嬉しいそうですが、友人からは、ただのハンカチのほうが良いそうです」
恋人でもないのに、刺繍入りのハンカチをプレゼントするなって事ですね。
「それって、刺繍入りのハンカチを受け取ったら、相手も自分のことを思ってくれているってことですかね?」
テレサが尋ねます。
「断るのが苦手な方だったり、刺繍入りと気付かない方もいらっしゃると思いますので、そうとは限らないと思います。それよりも、ただのハンカチをプレゼントして、男性の方から『刺繍をしてから改めて贈ってもらえないか』と、言われたほうが良いと思いませんか?」
それ、採用!と言う、テレサの心の声が聞こえたようだった。
ローズマリー様が帰られた後、ロゼッタさんとテレサとわたしの三人でお茶をしながら話をした。
「綺麗な人ね・・・」
ロゼッタさんが呟く。テレサも頷く。
「物腰も素敵だし、話し方も丁寧だし、今まで会った中で一番素敵な女性だわ」
「あの人を主人公にして小説を書くとしたら、相手は王子様ね」
テレサがうっとりしながら言った。
「うっ・・・」
わたしは、食べていたお菓子がのどに詰まりそうになり、慌ててお茶で流し込んだ。
テレサのセリフ、それ、架空の話じゃなくて、現実にありえる話だから。
「そういえば、ローズマリーさんが着けていたブレスレット。素敵だったけど、ここで扱っている商品?」
ロゼッタさんが尋ねてきた。
「ええ、お婆様が注文を受けて作った物だから、店頭には置いていないけど」
二人がもっと詳しく聞かせてほしそうにしている。
「ほら、前にも話したと思うけど、このお店ってお婆様の知り合いのお金持ちの奥様から任されていて、ローズマリーさんは、その方の代理で、このお店に関わっているんだけど・・・」
そのお金持ちの奥様が王妃様とは言えません。
「以前、ローズマリーさんと一緒に、その奥様の息子さんと護衛の方がいらっしゃったことがあったんだけどね・・・」
王子様と公爵子息様だ。
「その時に、息子さんがローズマリーさんにプレゼントしたいって、お婆様に注文されたの・・・」
そう、それこそ王子様からのプレゼント。
「「きゃ~~~!!で、その方、どんな方?美形?」」
二人がすごい興奮している。
「素敵な方だったよ。もちろん美形」
「「護衛の方は?」」
「ええっと、同じく美形」
「「うらやまし~~~!て、言うか、見てみたかった。美しいローズマリーさんと、美形の二人の男性。想像しただけで・・・・・・」」
二人が遠い所の人のようだ。
「コレ、本にしていいかしら」
テレサの目が輝いている。
「絶対ダメ!!!ローズマリーさん、そういうの苦手な方だから!!!」
「え~~~。残念」
すごく残念そうだった。
「一応、聞いとくけど、本にする時はどういう設定にするつもりだったの?」
「え~と、主人公は貴族令嬢で、相手はもちろん王子様。お忍びでやって来た雑貨屋で、王子様がブレスレットをプレゼントするの。『今日の記念に』ってね。本当にダメ?」
「却下!!!それは、頭の中だけにしておいて!!」
ロゼッタさんも、絶対売れるのにとかつぶやいていたけれど、その話、現実にあった話だから!!
「本当にやめてね。せめて、1年後ぐらい後にして・・・。その頃なら、もしかしたら・・・・・・」
ローズマリーさんも許してくれるかも。そんな気がした。




