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チートもスキルも使えないアラフォーオヤジの俺、5S活動で異世界ライフを満喫する  作者: 渉一号
第一章

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第五話:異界の門

ご覧いただきありがとうございます!

第5話をお届けします。

空(うろ)の中で涙目になりながら、暫く強打した頭を抱えて痛みを堪える俺。しかし、心の中は「やってやった!」という達成感に満ち満ちていた。


誰にでも使える種火の魔法ではあるが、こちらの言葉を覚え、試行錯誤を繰り返し、魔導インクまで作って実現したこの『種火魔法カード』は、すでに「俺の魔法」とさえ言える。


呪文を使ったほうが当然利用しやすいし、手間も労力もかからない。だが、声が出せないといった特定の環境であれば? 複数の魔法カードに同時にマナを伝えることができれば? 別々の魔法カードを同時に発動させれば?


発声による魔法の発動に対して、カードを使った発動は、更なる検討や検証が必要ではあるものの、拡張性や改良のしやすさという面で優れている。そして俺の性分としても、圧倒的に扱いやすい。


この偉業を誰かと分かち合い、惜しみのない賞賛を浴びたいという承認欲求が頭をもたげるが――「まてまて」。


この古代文字は、教会の刻印バトンからコッソリ写し取ったものだ。万が一にも教会における門外不出の秘術だった場合、どういったお咎めを受けることになるのか想像もできない。


もし「目には目を、歯には歯を」的な思想が一般的で、教会の知識を無断で持ち出したとなれば……最悪のケースが頭に浮かぶ。承認欲求を満たさんと暴れ狂う内なる俺を宥めすかし、魔法カードは必要な時に誰にも見つからないよう、コッソリ使用することを心に誓った。


一通り実験を終えた俺は、シシリィさんの食堂へ久しぶりに訪れた。教会での5S完遂に時間を要するとは考えていたが、週末限定の異世界ライフ、実に3週間ぶりの食堂である。


若干乱れつつあった薪小屋と食材・調味料の整理整頓、ならびに在庫管理をささっと済ませた後、本日のメインイベントとなる竈(かまど)の前で腕を組み、不敵な笑みを浮かべる俺。


これまでは種火の魔法が使えなかったため、竈での火付け・焚き付けは手伝えない家事の一つであった。しかし、常連さんを含む多くのお客さんを満足させるため、大量の薪を運び、夕飯時に合わせて竈に火を入れる作業は、慣れているとはいえ女性のシシリィさんには重労働だ。


それを俺が手伝うことで、またあのシシリィさんの驚き喜ぶ顔が見られて、さらに賞賛の言葉を貰えるとなれば……内なる俺も外なる俺も、火付け・焚き付けを次なる「お手伝い業務」とすることに否やはなかった。


なに? 魔法カードが見つかったらヤバい?

見つからなければ良いのだよ、見つからなければ。


それに、ソロキャンプで一番好きなプロセスを聞かれたならば、迷うことなく「焚火」と答える俺である。大量の薪を使って竈に火を入れる作業……まさに天職!


今回の薪小屋の整理で、薪の乾燥状態の仕分けも少し行っておいた。火が付きやすく煙が出にくい薪を選別し、竈の横に積み上げておく。今の時間は15時。食堂の夕飯準備が始まるのは16時過ぎだ。1時間あれば十分すぎる。


竈の中、下から上にゆっくりと炎が燃え広がるように薪を組み上げ、最後に胸元に隠し持っていた種火魔法カードを取り出した。


二本の指でマナを通すと、うっすら古代文字が光を放つ。かるく印紙を振るうと、紙の上に種火がふんわりと出現した。それを見届け、魔法カードを薪の下にそっと差し入れる。


しばらくすると、パチッ、パチッという薪が小さくはぜる音とともに真っ赤な炎が立ち上がり、上に積まれた大きな薪へゆっくりと燃え移っていった。


どれくらい経ったであろうか。ゆっくりと育つ炎を眺めていたところ、シシリィさんが慌てた様子でやってきた。おそらく火付けのタイミングが遅れた事に気づき、慌ててやって来たのだろう。


しかし、竈にはすでにしっかりと火が入っており、料理の開始に向けて準備万端の状態であった。その様子を見たシシリィさんは何が起こったのか分からない風であったが、竈の前で少し誇らしげに(そしてちょっと照れくさそうに)立つ俺を見て、


「これ、タクローが……?」


と聞いて来たので、小さく「頑張った」と答えると、感無量といった感じで最大級の賛辞とともに、力一杯、だけど優しい抱擁で称えてくれた。


その夜からは、俺の食事には具沢山のスープ(今夜はクラムチャウダー?)までつくようになり、ますます俺の異世界ライフが充実していった。


お客さんが帰っていった後、色々と手伝える事が増えている中で、シシリィさんから、賄いだけだと申し訳ないとのことで、何か希望はないかと聞かれた。


俺が「読み・書きを教えて欲しい」と答えたところ、シシリィさんは今日二度目となる目を丸くした驚きを見せ、そののち大声で爆笑し始めた。


どうやら、オヤツやお金を欲しがると思っていたようで、まさかの「勉強」というリクエストに驚いたとのことだった。


「人に教えたことはないよ」とは断られつつも、俺が手伝いをすることで多少時間の余裕が出来たため、仕事の合間ならという条件付きで了解してもらえた。


仕事も終え、さて現世に帰ろうというタイミングで、こちらの50音表のようなもの(『文字表』と呼ぶ事にした)を手渡され、「次来る時までにできる限り覚えておいてね」と、しっかり宿題も頂いてしまった……。人に教えたことないって言ってませんでしたかね?


現世に帰り、まずはランディにシシリィさんからもらった文字表を画像データとして読み込ませ、さて取りかかろうとしたのだが……。


思考が柔軟な子供ならまだしも、40歳を目の前にした俺のカチコチに固まった頭脳では、文字表をそのまま、丸暗記するのはほぼ不可能。覚えようとしても、拒絶反応のように猛烈な眠気が襲ってくる。


これではダメだ、なんとかせねばと考えていると、文字表の解析を終えたランディが面白い解析結果を教えてくれた。


『読み込んだ文字列から、筆者特有の揺らぎと傾きを検知しました。以前画像として解析した、メニュー表に記載された文字の特徴と一致します』


手書きの文字表である事は分かっていたが、あのメニュー表もシシリィさんが書いていたんだなと思うと、クスッと笑えてしまった。


と同時に、メニューとは自分の働く職場(シシリィ食堂)における重要な製品名の一覧である。これを読み、書くことは従業員として必須のスキル。


しかも日々取り扱い、目にしている料理名でもある。その名前の読み書きであれば、単に無味乾燥な記号を暗記するよりも興味も湧くし、目的意識を持てる。


「これだ!」と考え、食堂メニューに書かれた文字を片っ端から読み、書くことだけに集中した。またあのシシリィさんの驚く姿が見たいがため、そして褒めてもらうため。


久しぶりに睡眠時間を削って努力した結果、食堂のメニューであれば全て読み、書くことができるようになっていた。……しかし冷静になって考えると、シシリィさんに褒めてもらうために必死に勉強するアラフォーオヤジ。墓場まで持ち帰るべき極秘事項がまた増えた気がする。


次の週末、シシリィさんに努力の成果として食堂のメニューを全て読み、書き出してみせたところ、満足のいく最高のリアクションを頂きました。


ちなみに、この努力は別の形で大きな成果に結びつくことになる。


異世界に渡る際に使う古本――そこに書かれた文字の中に、一部だけだがシシリィさんに教えてもらった文字表の文字が記載されているように見えたのだ。


ランディに改めて画像データを読み込ませて解析させた結果、表紙に記載された題名は……


『異界の門』だった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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