第六話:5Sは大事
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第6話をお届けします。
『異界の門』――言い得て妙な題名である。
それでは本の内容は? とランディに解析させてみたところ、シシリィさんに貰った文字表の文字(近代文字と呼ぶ事にした)だけで記載されている訳ではないらしい。
魔法で使用する文字(古代文字)も多く使われており、ランディ曰く「古代文字の記載内容を、近代文字で解析・解説しているように見えます」とのことだった。
併せて現時点での解析率(識字率)を確認すると、ランディの回答は「10%」であり、内容について理解するにはまだまだ時間がかかりそうだ。
表紙の題名も、デカデカと書かれていたのは古代文字で、その下に副題のように近代文字で『異界の門』と記述されていた。
現世から異界に渡るための重要アイテムではあるが、何が書いてあるのかさっぱり分からないのも、それはそれで怖い。使用制限が実はあって、それを超えると『重いペナルティ』がある、なんてのは困るのだ。
ランディに更なる解析をお願いしたところ、「古代文字の解析には、新しいサンプルが必要です」と至極もっともなリクエストを頂いた。
確かに、古代文字のサンプルは種火の魔法のそれだけだ。とは言え、種火魔法もかなりグレーな方法で入手しており、そう簡単に新しいサンプルを手に入れるのは難しい……と、思うだろう?
俺には、新しいサンプル入手の当てがあった。しかも、その目的地には近々行く予定があるのだ。絶対に手に入れてやると、少し悪い顔で「ぐふふっ」と笑ってみた。
……横目で鏡に映る自分の姿を見て、我ながら心底引いたので、もう二度としない。
◇
俺はその日、5Sのために教会に来ていた。前回、二日もかけて綺麗にしたが、残念ながら数ヶ月で早くも色々と煩雑に物が置かれ、教会内が乱れ始めていた。
5Sには、最後に『躾』が入る。これは「いかに整理整頓が重要で、どうすれば維持・管理できるのか」という教育と仕組み作りまで含めて、初めて5S活動と呼べるためだ。
5Sの重要性について、司教様や巫女の皆さんにもしっかり伝えたはずであったが、この現状を見ると俺自身の実力不足を嘆くばかりである……。
一筋縄では行かない難敵を前に、腕まくりをして、いざ行かん!
前回ほどではないが、丸半日をかけて教会内を徹底的に整理整頓していった。そして最後の半日をかけ、司教と巫女の皆さんを集めて「いかに整理、整頓、清潔、清掃が必要で重要なのか」を、しっかり、みっちり、骨身に刻むよう丁寧にお伝えした。
最後は司教御自らが俺の熱弁に対して感謝の言葉を送り、「もう二度と教会内を乱すことはない」と強く誓ってくれた。その時の司教様の顔がやつれ、若干涙目であったが、俺の丁寧な説明に深く感動したのだと、司教の真意をしっかりと理解した。
――甚だ脱線してしまったが、新しい古代文字のサンプル入手場所の当てとは、そう、この教会である。
前回「種火の魔法」を手に入れた時と同じく、「光の魔法」も教会にあるだろうと考えていたが、実際にそれは存在した。
清掃のためという名目でおこなった灯籠の掃除中に、ハンドボールくらいの球体が入っており、その表面に刻印バトンと同じく古代文字らしきものが刻まれていたのだ。
球体であるため刻印バトンのようにはいかないが、こっちは5Sの一環として灯籠内を清掃中の身である。
誰に憚ることなく、こっそり持ち込んだ小型カメラで、光の魔法の刻印を完璧に写し取ることに成功した。
ちなみに、後学のためと称して司教様に質問したところ、光の魔法は種火の魔法のように「下賤」という扱いではないらしい。ただ、シンとは別の神様の力を借りているそうで、教会内で直接唱えることを避けるため、光の魔法を刻印した道具を使っているそうだ。
俺も、光の魔法がシンの能力でないなら、種火の魔法と同じく、古代文字が刻印された道具があるのではないかと考えたのだが、予想が当たったようで満足である。
また、こういった魔法を刻印した道具(魔道具)は、広く一般的に流通しているらしい。ただ、俺の実験と同じく「使うたびに消耗する制限」があるため、教会のようによっぽどの理由がない限り、魔道具を使って火をつけたり光を灯したりする人はいない……とのことだった。
このことから、この世界において俺が前科者になるリスクが格段に下がった。司教様に気づかれないよう、静かに胸を撫で下ろしたことを付記しておく。
◇
現世に帰り、早速撮影した画像をPCに取り込むとともに、ランディに画像解析を始めるよう依頼。
俺は俺で、種火の魔法と同じく「単純な印刷」「銀ナノ粒子導電インク」「魔導インク」を使った手製の魔道具をせっせと作り、空の中で魔法が発動することを確かめた。
結果は前回同様、単純な印刷では初めの一文字が焼き切れて魔法の発動には至らず、銀ナノ粒子導電インクと魔導インクを使った魔道具では、薄らとした光の玉が魔道具を包むように出現した。
出現した光の玉――ふと気づくと、魔道具を持つ俺の手も光の玉に包まれていた。
しかし、種火の魔法とは異なり全く熱を感じない。熱どころか、光の玉がそこに「物質として存在している」という感覚すらなく、ただ光るという現象だけがそこにある。そんな感じだった。
熱くもなく、ただ優しい光をぼんやりと見ていると、「LEDみたいだなぁ」と呟いていた。
触れても、叩いても、息を吹きかけても微動だにしない光の玉。発動した位置から動かないのか? と思いつつ、光の魔道具を持つ手を動かすと、光の玉は手の動きに合わせてスッと移動した。
どうやら光の玉は魔道具を起点として発動しているようで、反射鏡でも付ければLEDライトを作れそうだ。モノづくりの虫が疼くが、光の魔道具の流通状態を確認するまでは、種火の魔法と同じく、使用する姿を見られないよう気をつけることとした。
一通りの実験を終えて現世に帰ると、ランディから解析結果について報告があった。
『光の魔法は、種火の魔法よりも1小節長いです。記載位置および内容に若干の相違はありますが、類似した記述を検知しました。この類似記述は、魔法の発動に向けた基本関数(座標、サイズ、原単位など)を定義していると推測されます』
ランディからの報告は、俺の推測を強力に後押しするものだった。
魔法の呪文が、もし「魔法というプログラムを実行するためのコード」であるならば、無意味な言葉の羅列ではないはずだ。どこかに魔法の発動条件を定義する共通したコードがあるはず――と考えていたのだ。
であるならば、種火の魔法と光の魔法で共通する記述は「魔法の基本関数(座標、サイズ、原単位など)」であり、それに続くのが固有の発動パラメーターであると考え、ランディに詳細な解析を依頼。さらには、解読した古代文字のパターンを使って『異界の門』の更なる解析も依頼した。
未知が既知へと変わる、この快感。
難問を解き明かした時の、脳が痺れるような興奮。
今になって思う。俺はその快感と興奮に、溺れていたのだ。
漫画やアニメから得た魔法というイメージが、魔法の本質に対する恐怖感や忌避感をすっかり薄れさせていた。
初めて種火の魔法を発動させた時に感じた、あの「怖れ」を忘れていた。
その時の俺は――巨大な弾薬庫の前で、何の装備も準備もせず、火遊びしながらアホ面下げて笑っているガキと同じだ。
お読みいただきありがとうございました!
光の魔法の解析と、構造特定が進む一方で、ラストに不穏な予感が……。
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