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チートもスキルも使えないアラフォーオヤジの俺、5S活動で異世界ライフを満喫する  作者: 渉一号
第一章

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第四話:魔導インク

ご覧いただきありがとうございます!

第4話、お届けします。

小さな種火が灯った棒(刻印バトンと呼ぶ事にした)を、ぼんやりと眺める俺。司教が孫を讃える祖父のような温かい目をしていたが、取り合えず無視。


異世界に来て3年、職場のストレス解消くらいの軽い気持ちで週末ライフを楽しんでいたが、まさか俺に魔法を使える日が来るとは……。


胸の奥が震える感覚があったが、同時に少し怖くなった。特別な訓練もスキルも持っていない俺が、指でなぞるだけで魔法を使える刻印バトン。


おそらく、他の魔法でも同じ事が出来るはず。いや、そもそも呪文をコードと捉えたならば、希望する魔法を「作る」事だって不可能ではないはずだ。もっと便利な魔法も、人を傷付ける魔法すら。


刻印バトンを持って立ち尽くす俺を、司教は教会の神秘に触れて感動しているとでも思ったのか、一人納得顔で俺から離れて行った。


その隙を見逃さなかった。煤で黒くなった刻印バトンを、服の裏地に強く押し付けた。たまたま白地の服を着ていたため、刻印バトンに刻まれた文字がクッキリと服に写し取れた事を確認して、すぐに居住まいを正した。


魔法の可能性と危険性について理解しつつも、知的好奇心を抑えきれない自分の性に呆れつつ、その後は信心深く、好奇心旺盛な子供を演じきった。


現世に戻った俺は、早速写し取った呪文の文字(今後『古代文字』と言う)をPCに読み込み、ランディに解析させるとともに、写し取った画像をそのままプリンターで印刷し、魔法が発動するのかを確かめた。


結果、現世ではそもそも古代文字が発光すらしなかった。やはり、魔法には魔力やマナといった発動に必要なエネルギーがあり、現世の俺にはそれが無く、向こうの俺の体にはそれがあるのだろう、と結論付けた。


では、と古本を開けて向かった空(うろ)の中で、ドキドキしながら印字された古代文字を指でなぞってみたところ――発光はした。


しかし、発光と同時に「ジュッ」という音とともに、印字された古代文字自体が焼き切れて消えてしまった。


ショート……?


電子基板がショートした時のような反応に、思わず声に出して、初めの一文字が消えた印紙をジッと見つめ、心底こう思ってしまった。


(おもしれぇ)


魔法が発動しなかった事を嘆く? まさか!?

刻印バトンを写し取った画像を印刷しただけの印紙に、光が灯ったのだ。これは呪文の古代文字が正しかった事と、魔法を発動させるマナを印紙に伝えることができた証左だ。急遽実施した簡易テストとしては、百点満点の出来とも言えよう。


その後は自分の知的好奇心の赴くまま、仕事が終わった後は自宅に直帰。久しぶりに誘われた職場の上司との懇親会も、一身上の都合と断る徹底ぶり。


相棒ランディの協力も得て分かった事は、プリンターで使うインクは成分を見ると殆どが水で、そこに水溶性の着色剤、浸透剤、乾燥防止剤などが含まれているという事だった。


魔法で使うマナが電気的特性を持つのかは不明であったが、物は試しと、電子回路などにも使われている「銀ナノ粒子導電インク」を使ってみた。


銀ナノ粒子導電インクとは、液体の中にナノサイズの銀粒子を均一に分散させたインクであり、印字して加熱処理する事で電子回路として使える優れものだ。


早速購入、と調べたところ、お値段が可愛くない。

一つ四万円くらいする。しかもウチのプリンターで使えるわけでもない。独身貴族とはいえ、成果が出るか分からないモノに四万円は、決して安い買い物ではない。


しかし……今俺を突き動かす知的好奇心は、そんな冷静かつ一般的な金銭感覚を抑え付け、即ポチを敢行するほどには高まっていた。


プリンターで印字できないならと、刻印バトンよろしく、ホームセンターで買った円筒状の木に、御用達の100均で買った彫刻刀で古代文字を刻み付け、できた溝に銀ナノ粒子導電インクを流し込み、普段使わないドライヤーで加熱処理をし、手製刻印バトンの完成である。


次の週末、ワクワクが止まらない俺は異世界に赴き、いつもの空に着くなり、手製の刻印バトンを片手に魔法の発動を試みた。結果、小さいが美しい種火が、刻印バトンの上に現れた。


蝋燭の炎とは異なり、揺らめきの無い種火をジッと見ながら、確かな達成感を感じた。


ポケットに入れていた、ホームセンターで購入した木片を種火に近づけると、木片が焦げ始め、すぐに赤い炎が立ち上がった。こちらの炎は揺らめき、煙を立ち上らせながら、新たな木片を餌食に燃焼範囲を拡大している。


一方で、種火はいつまでも刻印バトンの上、発動した時と変わらない大きさと色で、ふわりと浮かんでいた。


どういう原理だ?


どんどん炎が大きくなる木片を振るって火を消し、刻印バトンの上の種火に指を近づけると、確かな熱を感じる。しかし、なんとなく「そこに物質として存在している」という感覚が無い。不思議だが、熱というエネルギーだけがそこに浮遊しているように感じた。


実験は成功! これで種火の魔法を使えるようになったが、これで終わり? まさか、これは第一段階だ。


そもそも、銀ナノ粒子導電インクではコスパが悪すぎる。刻印バトン一つに、購入したインクの三割程度を使用してしまったのだ。


また、何度か種火をつけたり消したりしていると、溝に流し込んだインクが、僅かながら減っていた。


導電性が高いとはいえ、魔法を使うとインク自体も消費されるのだろう。種火の魔法は使い勝手が良いが、使用制限のある一万円超のライターを使うくらいなら、向こうの世界で火打石を探した方が何倍もコスパが高い。


しかし、今回のことでマナが電気的特性を有していることが分かった。そうとなれば――。


それからは、銀ナノ粒子導電インクに代わる安価なインク探しが俺の日課になった。


結果として、調達しやすく安い素材として、導電性も高いカーボンブラック――つまり「墨」が良さそうという結論に達した。


ただ、普通の墨汁だと紙や木材に浸透して拡散してしまうため、細かく砕いた鉛筆の芯(グラファイト)と膠(にかわ)を混ぜて粘度と定着力を上げることで、銀ナノインクに代わる『魔法用インク(魔導インク)』を完成させた。


さらに、いちいち木片へ彫刻刀で古代文字を刻むのは時間も手間もかかるので、お馴染みの100均でゴム版を購入。種火魔法の古代文字をハンコよろしくスタンプ出来るようにした。


これを使って、コピー用紙に魔導インクで種火の古代文字を写してあげれば、あら不思議。低コストかつ短時間で量産できる『種火魔法カード』の完成だ!


しっかり種火魔法が発動することを確認した瞬間、俺はいつもの空(うろ)の中で勢い良く立ち上がり――思いっきり天井に頭を強打してしまった。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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