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チートもスキルも使えないアラフォーオヤジの俺、5S活動で異世界ライフを満喫する  作者: 渉一号
第一章

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第二話:魔法だぁ!

ご覧いただきありがとうございます!

第2話、お届けします。

魔法を目撃し、オヤジが一服を終えて立ち去るまで、興奮する自分を何とか抑えた。

姿が見えなくなった瞬間、声を抑えながらも、


「……魔法だぁ!!」


と叫んだ俺を、誰も咎める事は出来ないだろう。

魔法とは、すなわち男の浪漫だ。誰もが一度は「俺にも魔法が使えたら」と思ったことがあるはずだ。


子供のころ、誰しもが「かめはめ波」を撃とうとしたことがあるだろう。もちろん俺も、その一人だ。異世界に来た当初、一縷の望みをかけ「かめはめ波」を試し、何も起こらず、「やっぱり魔法なんて無いんだ」と自分に言い聞かせてきた俺にとって、何気なくオヤジが使った小さな種火の魔法であっても、それは世界をひっくり返すような出来事だった。


ただ残念ながら、少し距離があったため、オヤジが何と言ったのか(呪文?)を聞き取る事が出来なかった。


そもそも、食堂でお世話になり始めて半年ほど経っても、女将さんが話す言葉をほとんど聞き取れておらず、何はともあれ言葉の壁を越える事が第一だと目標を立てる事にした。


ただ、こちらの世界に語学の先生がいる訳でもなく、女将さんに教えてもらう訳にもいかない。

そこで俺は現世で小型のICレコーダーを購入。食堂の整理整頓をする傍ら、こっそり女将さんと客のやり取りを録音することにした。


何を言っているのか分からないなりに、来店時の挨拶や注文、それに対応する料理名を覚えていく。現世に戻ってから、録音データをPCへ取り込み、相棒AIである「ランディ(昔実家で飼っていた犬の名前)」に音声データと関連する言葉を次々と読み込ませ、異世界の言語解析を行ってみた。


世界を救うような大層な目標があるわけでもなく、趣味の範囲と割り切って進めた言語解析だったが、パズルの様で結構面白かった。

単語や簡単な動詞・形容詞は2か月ほどで判明。ランディに発音してもらい、俺が後に続く形で語学勉強を続け、1年経つ頃にはある程度の日常会話を話せるようになっていた。

ちなみに、女将さんの名前は「シシリィ」という名前だった。



1年経ったある日、片言で女将さんに話しかけてみた。


「シシリィさん」


俺は初めて、こちらの言葉で名前を呼んでみた。シシリィさんの動きが止まった。


「…今、私の名前を呼んだ?話せるの?」


「うん。少し」


手にしていた皿が傾く。慌てて持ち直したシシリィさんは、俺と皿を何度も見比べ、次の瞬間、俺を力いっぱい抱きしめた。


「すごいじゃないか、タクロー!」


涙ぐみながら言葉をかけてくれるシシリィさん。


アラフォーになると、人から純粋に褒められる事も怒られる事も少なくなる。ここまでストレートな称賛と愛情は、正直言うと面映ゆくて照れくさい。

だが、地道な努力が成果に繋がった事が素直にうれしく、「ありがとう」と返した。


それがまた女将さんの琴線に触れたらしく、その日の夜は普段と違って大きな肉が入ったご馳走を用意してくれた。

その場にいた常連さんたちも、俺がこちらの言葉を話したことに驚きつつ、「これ食べるか」「これ旨いぞ」と料理を勧めてくれた。そのたびに「ありがとう」と返すと、みんな満面の笑みになった。


ちなみに、とあるオヤジがこちらのお酒(たぶん地ビール)を勧めてくれたので、是非にと口を付けようとした瞬間、シシリィさんに首根っこを掴まれ、あえなく断念した。あとちょっとで本物の地ビールを飲めるところだったのに、実に残念である。


俺は素知らぬ顔でスンとしていたが、ビールを勧めたオヤジはシシリィさんからこっぴどく怒られていた。


ご馳走を頬張りながら、改めて思う、こちらの料理は総じて味が薄い。

不味い訳ではなく「素材の味を生かした料理」と言えば聞こえは良いが、そもそも塩や調味料が高価なため、味付けを素材に頼らざるを得ないのが現実だ。


こちらでは塩一つ取っても貴重品だ。現世から大量に持ち込めば、どこで手に入れたのかと必ず問われる。金儲けが目的ならともかく、俺が欲しいのは週末の快適な異世界ライフだ。


面倒事の種を、自分から持ち込む必要はない。目立たず、騒がず、ほどほどに。

それが俺の、「異世界快適ライフ」における、基本方針となった。


なので現世から持ち込んだICレコーダーも、極力人の目につかない超小型のモノを選び、余計なリスクを負わないよう細心の注意を払う事とした。

また服については、シシリィさんから貰ったこちらの古着を数着、大木の空(うろ)の中に隠しておき、こちらに来た際に必ず着替える事を徹底した。


言葉が話せるとなると、異世界ライフが一段階ステップアップした。

シシリィさんだけでなく店の常連さんとのコミュニケーションも取れるようになるだけでなく、食堂における俺の5Sの成果を、実はシシリィさんが常連客に自慢していたらしい。


言葉が話せると分かると、「うちの店もやって欲しい」という人が現れ、異世界生活開始から2年が経った時には、俺の職場はシシリィさんの店を含めて3カ所に増えていた。


現金を貰う訳にもいかないので基本は物々交換とし、食材などはシシリィさんに渡す事としていたが、この結果、毎日の俺の食事に一品追加される事となり、ますます異世界ライフが充実する事となった。


しかし、俺は忘れていなかった。

森の中で木こりのオヤジが使った、あの小さな種火の魔法の事を。


異世界ライフが2年も経つと、分かってきたことがある。

魔法は超常的なモノではなく、ごく当たり前の便利な技能として、この世界では認識されているようなのだ。木こりのオヤジだけでなく食堂の常連客も自分の煙草に魔法で火をつけるし、シシリィさんも竈(かまど)の火付けに使っている。


また、暗い夜道には薄ぼんやりとした街灯がともっているが、どうやら中には魔法で作られた光の塊が入っているようで、毎日夕方になると街灯の中に光を灯すため、若い兄ちゃんがせっせと町中を巡回していた。


俺はこれ幸いと、常連客が唱える呪文を録音し、若い兄ちゃんに子供然とした態度で魔法を唱えることを賛美しつつ光の魔法を見せてもらい、その呪文も録音してみた。


しかし、2年が経ち、ある程度こちらの言葉を理解したはずなのに、呪文の内容は全く分からなかった。


言葉の意味もそうだが、例えば火種を作る呪文なら「炎よ」とか「火よ灯れ」のような短い一文になるはずだ。なのに、録音された呪文は何を言っているのか分からない上に、感覚的に長かった。短い一文を一小節とすれば、三から四小節あるように聞こえたのだ。


とはいえ、2年をかけこちらの言葉を学習した大きなキッカケとなった魔法の呪文。何を言っているのか分からなくても、同じように発音すれば魔法が使えるかもしれない。


俺は録音データが擦り切れるほど聞き直し、現世のお隣さんから苦情が来ると困るので「一人カラオケ」にも通い何度も練習したが、まったく魔法を使えなかった。


それでも、と諦めきれず――。


俺はランディに呪文の録音データを読み込ませ、さらに俺の練習音声を比較して、何が違うのかを検証させた。


結果、異世界の人たちの呪文には、俺には聞き取れない、そして発音できない「高音域」の発声が含まれている事が分かったのだ。


つまり――今の俺では、魔法が使えない。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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