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チートもスキルも使えないアラフォーオヤジの俺、5S活動で異世界ライフを満喫する  作者: 渉一号
第一章

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第一話:異世界ライフ開始

初めまして、またはこんにちは!

本作を開いていただき、誠にありがとうございます。

このお話は、チートも特別な才能もないアラフォーオヤジが、日本の製造現場で培った『5S』や『カイゼン』、そして現世の道具を駆使して異世界を生き抜く(+快適な居場所を作る)お話です。

派手なチート無双はありませんが、おじさんのリアルな苦労と試行錯誤を楽しんでいただければ幸いです!

「肉喰いてぇ」……はっ?! 知らんがな。


今を遡る事5年前、俺は知らない空の下にいた。

本当に知らない空の下だ。俺は太陽が三つある空を知らない。


あぁ、なんか聞いた事がある。これが異世界転生ってヤツか。参ったな、明日は大切な会議が――と頭を抱えようとした時、自分の手が妙に小さくスベスベしている事に気付いた。


意味が分からず慌てて周りを見渡し、見つけた小さな水たまりに映っていたのは、見たこともない10代そこそこの外国の子供だった。


混乱する頭を落ち着かせるには、しばらく時間がかかった。

だが、異世界転生と言えば、少ない知識ながらも知っているあの言葉!


「ステータス・オープン!」


何も起こらなかった……。

発音を変え、音量を変え、空中でスワイプしてみたりと色々試してみたが、「アブラカタブラ」あたりで諦めた。


ならばチートアイテム!と考え、こちらに来た時にいた大木の空(うろ)の中を隈なく探してみた。

たかだか半畳に満たない空間を隅々まで探したが、あったのは小汚く、何が書いてあるかも分からない本が一冊あるだけだった。


こちらに来るキッカケにもなったその本を、俺は恨めしげに睨むしか出来なかった。



俺、大澤拓郎(おおさわ たくろう)、40歳独身。

製造業界に身を置く、いわゆる中間管理職。

それなりに忙しいものの過労死するようなブラックでもなく、死ぬほどゲームにハマっていたわけでもなく、趣味は釣りやソロキャンプ。友人がいない訳ではないが、ボッチ活動を愛する、ごくごく普通の会社員だ。


35歳という、うちの会社でも若い年齢で役職となり、やりがいを感じる以上に妙なプレッシャーを感じていた。さらに手当と共に残業代がなくなる事で「実質減給」という現実を受け入れられず、憂さ晴らしに呑んだ帰り道、ふと立ち寄った路地裏の古本屋で不思議な一冊の本を手に取った。


何が書いているのか全く分からない、英語でもない、象形文字に見えなくもない。ただ何となくカッコいいというだけで買った古本を、家に帰って開いたところ、世界……いや、空間がグニャリと捻じ曲がり、気がついたら大木の空の中にいたのだ。


その後はご存知の通り、大声を上げたり、何もない空間をなぞったり、果ては木の中に頭を突っ込んで「ない、ない」と嘆く、誰かが見ていれば通報間違いなしの不審行動を数時間続けた。


そして、ふと気付いた。


(あれ?! 俺、帰れるの?)


非常に嫌な予感を感じつつ、これまでの人生で見知った神様全てに祈り、跪き、恐る恐る例の古本を開いてみた。


結論から言おう。全く何の影響もなく、気付くと俺の部屋に戻っていた。

そして、翌日の会議は若干の炎上と共に無事に終わった。


それから、俺の趣味に「週末の異世界探索」が加わった。


初めの数ヶ月はビビりながら大木を中心に、少しずつ行動範囲を広げていった。幸いにも大木周りにいわゆるモンスターはおらず、最初に手掛けたのは空(うろ)の内部の生活空間確保である。


ぼっち……もといソロキャンプの経験を活かし、かつ万が一誰かに見つかっても「ちょっと手の込んだ子供の秘密基地」と思われる程度の外観にしつつ、内部は100均グッズをベースに構築した。

虫除けスプレーによる衛生確保や、隙間に隠したLEDによる間接照明。半畳ながら俺が立てる程度の高さがあったため非常食なんかも持ち込み、いつしか職場でのストレスを解消する「完璧な異世界快適スペース」を確保するに至った。


完成した夜は、一人その功績をたたえるために、ひっそり持ち込んだ、350mのスパーなドライで乾杯した。


俺は完璧なセカンドスペースを確保する傍ら、異世界の植物や昆虫を観察していた。元の世界(現世と言う)では見たことのない植物や昆虫ばかりではあったが、食人植物や人ほどの大きさのカマキリなどはおらず、現世に近しい生態系のようにも感じた。


とは言え、見たことのない野草やキノコに手を出すほどの蛮勇は持っておらず、また現世への生態系影響(特定外来生物のお持ち帰り)も考え、帰宅の前の全身虫除けスプレーと衣服のチェックは必須事項になった。



それから、少し離れた場所に町を見つける事が出来た。


ただ、「第一村人発見!」とか「初めまして!」とか気軽に話しかけるタイプでもないため、そこから町に入るにはさらにしばらく時間がかかった。


初めて出会った異世界人は、町で食堂をしている女将さんだった。町外れの森をウロウロしていた子供(俺)を見かねて放っておけず、一緒に町に入り、食事までご馳走してくれたのだ。しかし――


(全く言葉が分からん……)


異世界転生でよくある翻訳機能や言語スキルなどは無く、何を言っているのかさっぱり分からず、ただ身振り手振りでコミュニケーションを取るしかなかった。


この時ばかりは、子供の姿で転生したことを感謝した。もし元のアラフォー親父の姿だったら、警備兵か憲兵に即座に連行されていたであろうことは想像に難くない。


どこに住んでいるのか分からない子供が定期的にやってくる事に思うところはあっただろうが、女将さんは何も言わず、毎回のように温かいご飯をご馳走してくれた。

見た目はともかく、中身はアラフォーのオヤジである俺だ。タダ飯を貰い続けるわけにもいかんと、できる恩返しを探していた。


ちなみに、こちらは現世と異なりガスコンロや電気加熱器などは無く、薪を燃料として使っていた。興味本位で食堂裏の薪小屋を見に行ったところ、俺は愕然とした。


積み上げられた薪は、専用の小屋があるもののサイズや種類がバラバラで、乾燥状態や取りやすさ、作業動線など全く考えられていなかったのだ。

俺はそれほど神経質な方ではない。むしろ雑な部類と自覚している。しかし、薪を燃料として日常的に使う環境下でこれは無い。効率が悪すぎる。


出来れば乾燥状態や薪の種類でも分類したいところだが、まずは大きさだけでも揃えるべしと、子供の体の俺には少々広すぎる薪小屋の中、半日かけて整理を実行。満足げに整頓された薪達を眺めていたところ、背後で女将さんの声が聞こえた。


(たぶん、「何やってんだい」的な事を言われた気がする)


最初は俺が何をしていたのか理解できない様子の女将さんだったが、その意図を理解するのにそれほど時間はかからなかった。


必要なサイズの薪がすぐに見つかり、さらに足りなくなったサイズが一目瞭然。これぞ、製造現場で養った「5S」と「カイゼン」というヤツだ。


ちなみに5Sとは、諸説あるが俺の職場では、整理、整頓、清潔、清掃、躾、の頭文字に全て「S」が入ることから、5Sと呼ばれている。また、カイゼンは、日本が誇る「TOYOTA」の伝統芸であり、余計な説明は野暮だろう。


危険と隣り合わせの製造現場において、整理・整頓をはじめとする5Sは、見た目を整えるだけでなく「現場の異常や変化をいち早く見つけること」こそが真骨頂である。


その真髄の一端に触れ、尊敬の眼差しを向けてくる女将さんに、「ふんす」と鼻息荒く胸を張って答えてしまったことは、致し方ないと思ってもらおう。


その日から、食堂における5S活動は俺の担当になった。

ちなみに、薪小屋の次の獲物として、食材や調味料の整頓、さらには「在庫管理」にまで手を伸ばし、女将さんから改めて称賛を得たことも付言しておこう。


完璧な異世界快適スペースを得て、職場まで確保し、異世界生活がどんどん充実していく中で、それは起こった。


いつものように、快適スペースでこっそり過ごしていると、近くを木こりのオヤジが通り、切り株に座ったと思うと、懐から出した紙巻きのタバコを口に咥えて、モゴモゴと何か呟いたと思ったら、オヤジのゴツい指先に、赤い光が灯り、さも当然という顔で、その光をタバコに近付けて火をつけたのだ


魔法だ!


この世界に魔法がある事を知った

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

モンスターと戦う前に、まず「薪小屋の片付け」から始まる異世界生活です(笑)。

5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は異世界でも裏切りません。

「面白そう」「薪小屋のカイゼンわかる」と思っていただけましたら、

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