大団円① 戦いを終えて
次の日の夕方、ここはバー「パープルナイト」。入り口のドアには「貸切」の札がかかっていた。
「柊太のやつ遅いわね。まさか、ここに来るまでにすでに飲んでいるのかしら?」
カウンターに座ってそう言ったのは蒼ノ京いずみである。
「それはないと思うけどね。いくら柊太君がお酒好きと言っても、乾杯の前に飲んでくることはないと思うよ。」
今日は珍しく私服を着用している寂明さんが言った。ジーパンに長袖のTシャツというカジュアルなスタイルだった。
「そうだといいけど。心配だわ。飲んだくれてるか、寝坊しているかのどっちかだわ。」
溜息をつきながらいずみが言った。
「まあ、いいじゃないか。柊太君は今回、かなり頑張ったんだからね。もちろん、いずみちゃんもだけど。」
カウンターの中からヒロさんが言った。今日はカウンターの中に椅子を用意していて、その椅子に座っていた。
「まあ、気楽に待つがええ。遅れたら遅れたときじゃ。その時は、わしらで坊ちゃんの分まで飲めばええんじゃ。」
太公望さんも笑いながら言った。
そのとき、入り口のドアが「カラン」と音をたてて開いた。我らが、紫王院柊太の登場であった。
「あら、もうみんな来てたんだね。何か遅れたみたいですみません。」
俺は、慌てて空いている席に着いた。
「遅いから、飲んだくれてるのかと思ったわよ。」
「ひどいなあ、いくらなんでもそれはないよ。今日、ここで飲んだくれるかもしれないけど。」
俺は笑いながら言った。
「いいよ。今日は飲みたいだけ飲みなさい。会費は貰っているから気にせずに飲んでくれたらいいよ。」
「ありがとうございます。それでは心ゆくまで堪能させていただきます。」
今日は、ヒロさんのバーを貸切にして今回の件の打ち上げをしようという企画である。今日の総員は、俺といずみ、寂明さんに太公望さん、それにマスターのヒロさんの5人だ。
由美さんも誘ったのだが、「私は遠慮しとくわ。」と言って断られた。「紫祈仙術」に属さないので遠慮されたのだろう。このあたりも、いずれは取っ払っていきたいとは思っている。
各々がそれぞれオーダーして、ドリンクをヒロさんが作ってくれた。料理やおつまみは予めヒロさんがたくさん用意してくれていた。カウンターの中にはいるが、今日はヒロさんにも飲んでもらうつもりでいた。だから、カウンターに半ば強引に椅子を用意させてもらったのだ。
「まずは、乾杯と行こうか。ここは「紫」の宗家の柊太君に乾杯の音頭をお願いしようか。」
全員にドリンクが行き届いたことを確認して寂明さんが言った。
「では、若輩者ですがさせていただきます。えー、今日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。今回の件では、みなさまにお世話になりましてありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。では、乾杯!」
俺は緊張しながらも用意してきた台詞を口にした。
「乾杯!」
全員が唱和して、グラスを口に運んだ。
「まあ、美味しい!」
「マスターの入れてくれるお酒は最高だね。」
それぞれが思い思いの感想を口にした。また、用意してくれた料理も口に運んだ。こちらも絶品だった。
「でも、今回は息の付く間もない目まぐるしさだったね。」
寂明さんがグラスを傾けながら言った。寂明さんは「ウーロンハイ」を飲んでいた。これは、ウーロン茶と焼酎を合わせたお酒だ。俺はというと、一杯目は「バイオレットフィズ」と決めているので、それを飲んでいる。いずみはというと、可愛らしい「キティ」を飲んでいた。これは、赤ワインとジンジャエールを合わせたカクテルだ。お酒の紹介をしていくと長くなるのでここら辺にしておこう。ヒロさんと太公望さんも思い思いのお酒を楽しんでいた。
「本当にそうですね。数日前までは「祈仙術」のことは全く知りませんでしたから。」
俺が同意するように言った。
「これを機会に、何か事件がなくても定期的に集まることにしようか。」
寂明さんが言った。
「賛成!みんないい人ばかりだから楽しいわ。いずれ、由美さんが参加してくれたらいいと思うし、いずれは、「黒祈仙術」の人たちとも交流できたらいいと思うの。」
いずみが言った。
「それができれば一番いいと思うけど、まだ先方にはそのつもりはないみたいだね。まずは、我々だけでも交流を深めていって、まずは若駒由美からかな。」
カウンターの中からヒロさんが言った。
「でも案外「黒祈仙術」の人たちは、思ったほど悪者ではなかったように思うけど。俺だけかな?」
俺は黒焔院や静音さんのことを思い浮かべながら言った。
「私もそう思うわ。本気で静音さんのお座敷に遊びに行こうかと思っているの。」
いずみも俺に同調するように言った。
「まあ、こちらも向こうも代が変わって少し変わったかな。以前はそうでもなかったからね。お座敷に行くのはもう少し様子を見てからにした方がお互いのためにいいと思うよ。」
ヒロさんが少し苦々しい表情になって言った。寂明さんも同じような表情だった。
「以前に何かあったのですか?」
俺は気になって聞いた。
「まあ、年数を重ねるといろんなことがあるんじゃ。その話はまた、追々していくとしようではないか。」
太公望さんがその話題を一旦切るように口を挟んだ。俺もいずみも気にはなったが、今は深追いしない方がいいなと思ってそれ以上は追及しなかった。




