瑞翁院② 蒼ノ京いずみ登場!
時を同じくして、ここは柊太が先程まで飲んでいたバー「パープルナイト」。
「ちょっとマスター!起きてよ!」
マスターのヒロさんの肩を揺さぶりながら若い女性が言った。
「うーん。誰か私に御用ですか?」
ヒロさんは目が覚めたらしく、寝ぼけながら言った。
「いったいどうしたのよ!柊太がここにいるかなって思って来たら、バーの扉は空きっぱなしだし、お店の中にはお客さんは誰もいないし、マスターはカウンターに突っ伏して寝ているし!何がどうなっているのよ?」
その女性は少し興奮気味に一気にまくし立てた。身長はやや低めで150~155cmぐらいで、髪型は少し色を抜いたうら若き少女のようなショートカットである。服装は白いロングスカートに水色のショートカーディガンといった感じの女性だった。
「なんだか眠たくなってきたところまでは覚えているんだけどね、私にも何がどうなっているのかよく分からないよ。」
ヒロさんはまだ眠たそうな感じで言った。
「惚けないで!柊太は来てたの?来てなかったの?ちゃんと私に分かるように説明して!マスターが何か隠していることくらいすぐに分かるわよ!」
その女性は少し怒ったような感じで言った。
「いずみちゃんにはかなわないな。分かった分かった。ちゃんと説明するから一杯お水を、いや、景気づけにマルガリータを一杯くれないか?」
マスターはそう言ってカウンターに腰を掛けなおした。
「分かったわよ。マルガリータね。グラスの淵に塩はつけないわよ。」
「ああ、それでいいよ。」
マルガリータとは、テキーラの濃い味わいにレモンジュースの爽やかさ、ホワイトキュラソーのリキュールの甘さがマッチした少しアルコールが濃いめカクテルである。
「いずみちゃんも何か飲むかい?」
「そうね、私はゆるめでカシスオレンジをいただくわ。勝手に作るわよ。」
「ああ、いいよ。今日はタダでいいから。」
穏やかにヒロさんはいった。
「ありがとう。」
手際よく、いずみちゃんと呼ばれた女性はカクテルを2杯作り上げた。それをカウンターに並べて、彼女自身もヒロさんの横の椅子に移動してきて腰かけた。
「じゃあ、じっくりと説明してもらおうかしら。」
いずみちゃんと呼ばれた女性は真剣な眼差しでヒロさんを見つめていった。
「それじゃあ、話をしていくけど少し長くなるよ。いいかい?」
「時間は大丈夫だから、納得のいくお話をお願いするわ。」
舞台は移って、ここは瑞翁院の本堂の中である。
「さて、何から話し始めようかな。」
寂明さんはそう言って少し上を見上げた。
「そうだな。まずは、祈仙術のことから話をしようか。柊太君は祈仙術って聞いたことはあるかな?」
寂明さんは視線を下げ、俺の方を見て聞いてきた。
「ついさっき、知りました。なんだか呪術みたいなもので、神様や精霊などの力に働きかけて、いろいろな願望を叶えようとする行為のことらしいですね。」
俺はさっき、バーで聞いた知識を思い出しながら答えた。
「随分とざっくりとした答えだけど。だいたい合っているよ。それは、誰かに教えてもらったのかな?」
「はい、そうです。さっき、バーで知り合った女性から教えてもらいました。名前はなんだったかな?少し待ってくださいね。」
俺はカバンの中から、バーでもらった名刺を取り出そうとした。
「若駒由美。という名前の女性じゃないのかね?」
寂明さんは少し笑いながら言った。俺は、驚きながら名刺を取り出し、名前を確認した。
「ええ、そうです。若駒由美さんというお名前でした。寂明さんはこの女性のことをご存じなのですか?この女性はいったい何者なのですか?」
俺は少し気味が悪くなりながら聞いた。
「まあ、それはもう少し後で種明かしをしよう。まずは、祈仙術についてだ。概要的にはさっき、柊太君が言ったとおりで合っているが、もう少し詳しく見ていこう。その前に、何か飲み物を用意しようか。」
そう言って寂明さんは本堂奥の脇間の方へ行った。そこには段ボール箱がいくつかおかれていた。寂明さんはその段ボール箱を開きながら言った。
「お茶とリンゴジュースがあるがどっちがいいかな?」
「そうですね。そしたらお茶をいただきましょうか。」
薄明りの中、俺は答えた。
「私もお茶をいただくことにしよう。」
寂明さんはそう言いながら、ペットボトルのお茶を2本持ってきた。
「こんなものしか用意できなくて申し訳ない。」
そういいながら、寂明さんはお茶を俺の前に置いてくれた。
「いえいえ、お気遣いありがとうございます。いただきます。」
俺は恐縮しながら言った。
「えーと、まだ話は入り口部分だったな。祈仙術について、詳しく見ていくところだったね。祈仙術とは奈良時代に端を発し、平安時代に発展していった呪術や仙術、天文学や暦学の要素が複合的に混ざり合い、民間信仰や自然信仰と融合して発展した学問・思想の体系のことなんだよ。平安時代には、それなりの影響力を持っていたらしいのだが、徐々に衰退していって今に至るわけなんだよ。」
「へえ、そうだんたんですね。今日、初めて聞くことばかりです。で、その祈仙術と僕に何の関係があるのですか?」
俺は、今一番疑問に感じていたことを寂明さんに聞いてみた。
「そう。そこだよ。柊太君からしてみれば当然の疑問になるわけだね。」
寂明さんは、にっこりと頷きながらそう言い、さらに言葉を続けていった。
「祈仙術には6つの階級があるんだよ。これは、聖徳太子が制定した冠位十二階制度の色から取ったものらしんだけれど、紫・青・赤・黄・白・黒の六つの色に分かれて継承されているんだよ。」
「そうなんですか。」
そのとき、俺はふと思った。




