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瑞翁院① 黒衣の僧「寂明」

 外に出ると、陽はどっぷりと暮れて辺りは暗かった。4月下旬ということもあり、陽が落ちると肌寒いというよりもむしろ、寒く感じる。俺は歩き出しながら、ヒロさんのメモを開いた。実は、さっきの紙にはもう一つ言葉が添えられてあった。


『京都市北区〇〇 瑞翁院(ずいおういん) に行きなさい。』


 こちらは黒色のマジックペンで丁寧に書かれてあった。住所的にはここからそんなに遠くないので、俺は歩いてこの「瑞翁院」に向かうことにした。俺は歩き出したが、先程の成り行きなので何かに追われているような気がして、何度も後ろを振り返った。

 時間にしておそらく20分くらい歩いたと思うが、俺は「瑞翁院」に辿り着いた。今、俺は山門の前にいる。当然この時間だから山門はしっかりと閉ざされている。俺はどうしたものかと思案していると、突然に俺のスマホが光り出した。

 慌ててスマホを取り出すと、某SNSのアプリに着信があった。俺の知らない相手からのメッセージだった。差出人の名前は、「寂明(じゃくみょう)」とあった。


「山門の中に入りなさい。」


 山門とはお寺の入り口に設けられた門のことである。単なる出入り口としてだけでなく、仏教の教えに基づいた精神的な区切りを示す重要な意味も持ち合わせている。そういった意味も含めて、俺は何だか違う世界にはいいていくような気がして、周囲を見渡しながら少し躊躇していた。すると、そこにまたメッセージの着信があった。


「警戒しなくていいから、中にお入りなさい。私はあなたの味方ですよ。」


 今度は先程のメッセージとは違って柔らかい文体だった。いつまでもここで佇立しているわけにもいかないので、俺は意を決して山門を開いて中へと足を踏み入れた。中に入ると、石畳の道が数歩続き、突き当りには住居と思われる建物があった。左方向へ目を向けると、石畳が続いた奥の方に本堂と思しき建物が見えた。今、俺は住居と思われる建物の前にいる。

 インターホンがあり、それを押そうかどうか思案していると、またまたメッセージの着信があった。


「本堂へお回りなさい。」


 今度のメッセージは一回目のそれと同じで、命令口調のメッセージだった。他にやりようがないので、俺は本堂へ向かうことにした。すると本堂の扉が音もなく開いていき、中から黒いシルエットが姿を現してきた。それは、だんだんと大きくなり、黒色の僧衣を着用した人物だとはっきりと分かるようになった。

「ようこそ。瑞翁院へ。」

 黒色の僧衣を着た人物が言った。それは、髪の毛を短くした男性のものだった。身長は平均的(おおよそ170㎝を超えたぐらい)で中肉中背、年の頃は40代から50代くらいかと思われた。

「ようこそ」と言われても俺は好きで来たわけではないのにと思いながら、「はい」というふうに曖昧な返事で答えた。

「こちらにお入りなさい。ここは結界を張っているので大丈夫だよ。」

少し柔らかい表情になって、その人物は言った。

 なんとも意味の分からないような、少しおっかないようなことをサラッと言ってくれるものだなと思いながら俺は靴を脱いで本堂へ入っていった。そんなに広くない建物で、外陣部分には畳が引かれており、奥の内陣部分には金色のご本尊様がご鎮座されている。ご本尊様一体で俺の給料何か月分何だろうか?などと無粋なことを考えながら俺は本堂の中を見渡していた。

「警戒するのも無理はないが、緊張せずにそこに座って楽にしてくれたらいいよ。」

その人物はそういいながら、置いてある座布団を指し示した。

「ありがとうございます。失礼します。」

 俺はそう言って、座布団の上に座り込んだ。その人物は本堂の扉を閉めて、こちらも置いてある座布団の上に座った。ちょうど向かい合うような形になった。明かりは本堂上部についてある少し古びた照明のみなので少し薄暗く、不気味な感じがした。

「私のことは寂明(じゃくみょう)と呼んでくれたらいいよ。」

その人物こと、寂明さんは言った。

「君のことは、先程、緋里(ひざと)さんから聞いたよ。ちょっと失礼するね。」

そういって寂明さんは足を崩して胡坐を組みながら言った。

「緋里さんって誰ですか?」

俺には聞き覚えのない名前だったので、すかさず寂明さんに聞いた。

「ああ、彼は本名を名乗っていなかったのだね。緋里さんとは、さっきまで君が飲んでいたバーのマスターのことだよ。」

「そうなんですか。」

 なんだか、分からないことに分からないことが加わり、ものすごく消化不良な感じがした。

それを見抜いたのかどうか分からないが、寂明さんが続けた。

「なんだか、訳が分からないような顔をしているね。今から少しずつ説明をしていこう。少し長くなるけど、最後まで聞いてほしい。」

「分かりました。俺も訳が分からないままは嫌なのでお話をよろしくお願いします。」


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