「黒祈仙術」一派の横顔及び決戦の準備
「では、次の話にいくとしよう。次は君たちが接触した「黒祈仙術一派」についてだね。私の知っている限りで話をしていこう。まずは、山吹タクシーについてだが、この人は君たちの見立ての通り、「黒祈仙術一派」の一味だよ。」
寂明さんはあっさりと認めた。
「彼は「黒祈仙術系山吹流」の継承者でもあるんだよ。黄色系の家系になるね。でも、彼は一派の中でも異端な存在で、信じられないことだろうが「紫祈仙術一派」との親交もあるんだよ。それに、結構まとまって動くことが多い「黒祈仙術一派」のなかでも、ほぼ単独行動を貫いているらしいからね。」
「それは驚きですね。」
俺は正直に驚いて言った。
「色については、それぞれの代表色である「紫」や「黒」から遠くなるにつれ、関りや忠誠心が薄れる傾向にあるんだよ。「黄色」は「黒祈仙術」では一番「黒」から離れた色だからね。」
「でも、密陀僧なんかはものすごく忠実でしたけど。」
「あいつは別だよ。そういう傾向がある、というだけで必ずしもそういうことではないからね。で、この山吹さんは、さっきまで話をしていた太公望さんと仲がいいんだよ。年のころもそんなに離れていないからね。いったい、どこで知り合ったのやら。」
寂明さんもその辺の成り行きは知らないみたいだった。
「それで、太公望さんにさっきの由美さんの話を振ったわけなんですね。」
横からいずみが言った。
「そうだよ。太公望さんの判断で、この山吹さんに話が入ることも想定してね。山吹さんは現役の「個人タクシー運転手」だから、いろいろと情報を持っていらっしゃるし、行動範囲も広いからね。」
「少し話に出た密陀僧ってヤツは何者なんですか?」
今度は俺が聞いた。
「こいつは質が悪いヤツだな。黒焔院隼と雪ヶ岳静音に盲目的な忠誠を誓っておるからな。普段は祇園の花街で男衆の仕事をしておるよ。」
「男衆って何ですか?」
「男衆っていうのはね、舞妓さんや芸妓さんの着付けの手伝いや、外出時の付き添い、荷物持ちや警備などを担うスタッフのことだよ。」
「そうなんですね。こいつに車にイタズラされたり、悪質なビラを渡されたりしたんでどんなヤツかなと思って。実際に霧の社で遭いましたけど、無愛想な感じの背の高い男性でした。」
俺はさっきの邂逅を思い出しながら言った。
「私は会ったことがないからよく分からないが、まっすぐな性格らしいよ。融通は効かないとは思うが、その分単純で扱いやすいとは思うね。」
「では、小雪さんはどんな方なんですか?私が一番気になる人です。」
いずみが、これこそ一番聞きたかったことだといわんばかりの勢いで聞いた。
「小雪さん、いや、雪ヶ岳静音のことだね。見ての通り、祇園で芸妓さんをしているよ。名前の「雪」のとおり、彼女は「白色」の家系だよ。」
「そこではなくて、性格とか人となりとか何かご存じですか?」
「うーん。私は会ったことがないし、お座敷にも言ったことがないから何とも言いようがないな。彼女に関しては、これといった噂も聞こえてこないしね。それこそ、君たちは彼女に会っているのだから、その感じた直感を大事にしたらいいと思うよ。」
寂明さんが申し訳なさそうに言った。
「分かりました。私は、なんか憎めないのよね。これも直感かしら?」
いずみが、半ば独語的に言った。
「では、もう一人、黒焔院隼に話を移そう。この人物こそ、「黒祈仙術一派」のボスであり、今回の黒幕でもある。でも、実態はほとんど謎に包まれている。どこに住んでいるのかは勿論のこと、何の仕事をしているのかなど、そのほとんどが謎に包まれている。君たちが今日会ってみた感触はどうだった?逆に教えて欲しいんだが。」
寂明さんが言った。
「そうですね。カリスマ性はとてもあると思いました。あの密陀僧や小雪さんが直立して言うことを聞くような感じでしたから。僕も、油断すると持って行かれるなと思いましたから。」
「私も同感ね。全て持っていかれそうになったから、あえて挑発してみたんだけど、全く動じてなかった感じです。」
俺といずみはほぼ同様の所感を持っていたようだった。
「それでは、「黒祈仙術一派」とは、この4人でいいのですか?」
俺が確認するように言った。
「いや、もう一人いるよ。萌黄原尋和さんといって、「黄色」の家系の人だよ。普段は、老舗の仏具店で働いている人で、黒焔院などから、「じい」と呼ばれている存在の人だよ。厳格な人だが、争いは好まない。私は実際に会ったことはあるが、密陀僧と違って、全く好戦的ではなく、温和な感じの紳士だったよ。」
そう言って寂明さんは1回言葉を切った。
「それはそうと、今夜8時に霧の社で「黒祈仙術一派」と対峙するようだね。そこには、私も参戦することにしよう。君たちの足手まといにならないように注意するよ。」
寂明さんが少し笑いながら言った。
「足手まといなんてとんでもありません。ぜひ、お願いいたします。」
俺といずみは真剣にお願いした。
「豊原についてだが、太公望さんたちも動き出すと思うし、そのうち尻尾を出すだろう。それまでは、太公望さんたちに任せて、放っておくこととしよう。さて、後は、「術」の伝授と整理だね。いずみちゃんは「術」を使える状態になったんだね。」
「はい、そうです。この騒動が落ち着くまでは、ということで私が継承者になっています。その代わり、今は、父と兄は「術」を封印して使えない状態です。」
この後、俺たちはお互いに「術」の伝授をした。俺の知っている「術」をいずみに教えて、いずみが知っている「術」を逆に教えてもらったりしていた。あと、寂明さんが必要に応じて手助けをしてくれた。
こうして、俺たちは、全てではないが、ほとんどの「術」を身に着けることができた。咄嗟に使えと言われれば、なかなか難しいとは思うが。
さて、「術」の詳細について、やけに端折って書かせていただいたが、これは、文章がダラダラと長くなることを防ぐ意味からである。決して、筆者がサボったわけではありませんので、予めご了承をお願いいたします。「術」についていろいろ知りたい方は「続編望む!」という熱いメッセージや、本作の感想などをお願いいたします。という、作者のケチな思惑は置いておいて、話を本筋へと戻すとしましょう。
「ふう、だいたいはこれで良しかな。」
俺たちはお互いにやり残したことがないか確認しながら言った。




