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「霧の社」② 黒焔院隼、ついに登場!

 その人物が姿を現わしながら言った。身長は170~175cmぐらいで、さらっとした少し長めの黒髪をした男性だった。服装は黒いスーツにワイン色のシャツを着ていた。ネクタイはしていなかった。

「若!申し訳ありません。こいつらはすぐに排除いたします。」

 密陀僧がその人物に謝りながら、巾着袋の口を開いた。どうやら、剣を取り出そうとしているようだった。

「密陀僧、待て。ここで抜くと騒ぎになる。こいつらは、紫王院の小せがれに、蒼ノ京の小娘であろう。」

「はい。左様にございます。お申しつけいただけば、排除いたしますが・・。」

密陀僧は剣を抜きたくて仕方がないという感じで言った。

「よせ。騒ぎになるといっておろう。予定の「術具」は手に入った。もう、ここには用はない。もう一度言う。捨て置け。どうせ、そいつらには何も出来やしない。」

 その人物が冷たく言い放った。こいつが、由美さんが言っていた黒焔院隼で間違いないだろう。すごい威圧感だなと思った。油断すると持って行かれるなと思った。

「それは良かったわね。隼さん。また、豊原にでも売りつけるつもりなの?ボスのくせに随分と小さいことするのね。」

 いずみが、バカにしたように言った。おい!いずみ!こいつを挑発するのはよせ!俺は、心の底から思った。今、2対3で戦っても勝ち目はないとも思った。

「調子に乗るなよ、蒼ノ京の小娘。今ここで貴様らを叩き潰すことは造作もないことだ。騒ぎになるのが面倒だから大目に見てやっていること、忘れるなよ。」

黒焔院隼がいずみを睨みつけて言った。

「お嬢ちゃん。少し戯れの度が過ぎたようじゃな。若様を愚弄したこと許さぬ。わらわを本気にさせた報い、とくと受けるがよい。」

 小雪がさっきまでとは打って変わった口調や言葉遣いで言った。どうやら怒ると口調や言葉遣いが変わってしまうタイプらしい。こちらも、巾着袋を開けている。刀を抜こうとしているように見えた。

「静音!待て!お前らしくもない。」

黒焔院隼が鋭く制した。

「若!このままでは、わらわの気が収まらんのじゃ。」

小雪が、いずみを睨んだまま恨めしそうに言った。

「このまま、捨て置いてもいいが、早めに排除してしまおうか。陽が高いうちは騒ぎになる可能性が高い。陽が落ちてから片付けてやる。お前ら、今日の戌の刻の正刻、再び相まみえることとしようか。こっちは、俺と静音と密陀僧の三人で来る。そっちは、何人でも構わないが、祈仙術関係者以外は連れて来るなよ。連れてきた時点で、即皆殺しにしてやる。」

黒焔院隼が手早く言った。

「分かったわよ。今日の戌の刻の正刻ね。あんたたちが思っているようにはさせないわよ。」

いずみも負けじと言った。

「よし、お前ら、引き上げるぞ。」

 黒焔院隼、小雪、密陀僧の三人はその場から引き揚げていった。あの格好で怪しまれなかったのだろうか?ああいう服装でここら辺をうろついていたら「霧の社」の所在が特定されるのも時間の問題だなと思った。案外、タクシーの運転手が言っていたことは正鵠を得ていたのではないかと思った。

「さて、柊太。私たちはお社の中に入りましょう。」

「そうだった。このまま帰ろうとしていたよ。」

 俺は、ここに来た目的を半分忘れかかっていた。この後、今日の戌の刻に向けてのことで頭がいっぱいになっていた、ここに来たのは、お社様にご挨拶することと、紫の壺がきちんとあるかどうかを確認することだった。

「もう、大事なことなんだから忘れないでよね。確かに戌の刻のことは気になるけど、一つひとつ片付けていきましょう。まずは、お社よ。」

そう言っていずみは鳥居に向かって歩き出そうとした。

「ちょっと待って、いずみ。」

「何よ?」

「ひとつ確認したいことがあるんだけど・・・」

俺は遠慮がちに言った。

「何なの?」

「戌の刻っていったい何のことだ?」

「・・・・。」

 いずみは呆れたような、バカにしたような表情で俺を見た。読者のみなさま、ちょっと待ってください。筆者からすれば、これをもって柊太をバカだというのは少しかわいそうな気がします。読者のみなさまにおかれましては、「戌の刻」と聞いてすぐに答えが出た方はどのぐらいいらっしゃいますか?

「あんたねえ、そんなことも分からずに、よく平然とあの場をやりすごしてきたわね。」

「だって、あの場でそんなこと聞けないじゃないか。」

 あのシリアスな場で、「すみませーん。戌の刻って何のことですか?」とは、いくら俺でも聞いたりはしない。

「あのね、戌の刻っていうのは夜の7時~9時のことよ。それでね、戌の刻の正刻っていったら、ちょうどその真ん中だから、午後8時ということになるの。あいつは、今夜8時にもう一度ここに来いって言ったの。分かった?」

「分かったよ。ありがとう。」

 俺は分かってスッキリした。これは、俺がバカなのかいずみが賢いのかどっちかなと思ったが、いずみがとても賢いということにしておこう。

「いい?じゃあ、お社に行くわよ。」


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