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「霧の社」③ 千年の時空を超えて

 今度こそいずみは鳥居に向かって歩き出した。俺もそれに追随した。鳥居は石で造られていた。すでに塗装は完全に剥げており、傾きかかっていた。周りは雑草でいっぱいだった。俺といずみは鳥居の端っこあたりを通ってお社の中に入った。お社の中は、やや雑草が刈られていて思ったより広かった。古びた石畳が敷かれており、少し進むと、左右に分かれていった。右側に黒色をした小さなお社があり、左側には何となく紫っぽく見えるお社があった。

 俺といずみは、左側の紫色っぽい色をしたお社に近づいて行った。本当に小さいお社だった。観音開きの扉があり、中は人が一人はいるのがやっとというような広さだった。俺といずみは、作法にしたがってお参りを済ませた。それから、恐る恐る観音開きの扉に手をやった。それは、思ったより簡単に開いた。内部は、神棚が置かれていたであろうという名残はあったが、ご神体はおられなかった。おそらく神棚の名残であろうはずの木の枠組みの下部に古ぼけた木箱が無造作に置かれてあった。おそらくこれが、翠風院様がおっしゃっていた紫色の壺が入った木箱だと思った。確か、この木箱は「紫」の宗家にしか開けることができないんだったっけ?俺は、外に出ていずみに、内部の様子を伝えた。そして、いずみに試しに木箱を開けてみるように言った。

「分かったわ。やってみるね。」

 いずみが俺と入れ替わりに内部に入って行った。ほどなくして、いずみが戻ってきた。

「やっぱり、開かなかったわ。開きそうなんだけど、開かないって感じなの。持ち上げようとしても持ち上がらなかったわ。」

「やっぱり、そうなのか。今度は俺がやってみるよ。」

 いずみと替わって、今度は俺が内部に入って行った。まずは、木箱を持ち上げてみることにした。うん?重そうには見えないが、持ち上がらない。力を入れているつもりが、その力が伝わっていないようなもどかしい感じがした。今度は、開けてみることにしよう。俺は木箱の蓋の部分に手を持っていった。なかなか開かないのかなと思ったら、いとも簡単にそれは開いた。開いた蓋を箱の横に置いて、俺は箱の内部を覗いてみた。そこには、とてもキレイな紫色をした壺が置かれてあった。壺には模様が彫り込まれており、紫王院家の家紋が彫られていた。俺は壺を持ち上げようとした。ダメだ。ビクともしない。そこには現代科学では説明がつかない摩訶不思議な力が介在しているようだった。木箱の内部をもう一度よく観察してみると、底の部分に羊皮紙的な紙が置かれていた。木箱の色と似ていたので、危うく見過ごすところだった。俺は、その羊皮紙を手に取ってみた。開いてみると、そこには「術具」の作成方法が書かれていた。「術具」を作る必要性に迫られたら、必要な物を持ってくれば、ここで作ることがでるわけだ。俺は、ふと気になることがあったので、羊皮紙を持っていずみのところに戻った。

「どうしたの柊太?その羊皮紙は何?」

 俺は箱が開いたこと、中には壺と羊皮紙が入っていたこと、壺は持ち上がらなかったことなどをかいつまんで説明した。

「ああ、それで、この羊皮紙に書かれていることが私に読めるかどうか試しに来たわけね。」

 いずみは、すぐに俺の意図を察知して羊皮紙を開いた。しばらく眺めていたが、

「ダメね。私には全く何が書かれてあるのか分からないわ。」

 やっぱりそうかと俺は思った。「祈仙の羊皮紙」と同じで、これは部外者が見たら読めないようになっているのだなと思った。俺は、羊皮紙を木箱の底に戻して元の通りに蓋をして戻ってきた。

「さて、この後どうする?夜の8時にはここに戻ってこないといけないから、それまでにいろいろと準備をしなくてはいけないと思うんだが・・・。」

「そうね。ひとまず、ここを出ましょう。」

 俺といずみは、雑木林の外に出て、タクシーを降りたあたりまでやってきた。

「この後ね、私、思うんだけど、寂明さんのところにお邪魔しようかなと思って。もちろん、寂明さんがいいと言われたらの話だけどね。」

「どうしてかな?」

「うん。柊太に聞いた話によると、寂明さんのお寺の本堂では、結界も張ることができて集中してお互いに「術」の伝授ができると思ったの。あと、この成り行きを聞いてもらって、力になってほしいとも思うのよ。」

「ヒロさんのところでもいいんじゃないかな?」

「それも思ったけど、ヒロさんはだいぶんとご高齢だし、バーの営業もあるからね。同じ理由で太公望さんも外したわ。戌の刻に私と柊太の2人ではキツイもの。」

「それもそうだな。分かったよ、寂明さんに連絡を入れてみるよ。」

 俺はスマホを取り出し、某SNSアプリでなるべく端的に成り行きと要件を伝えた。ものの5分としないうちに、寂明さんから返信があった。

「そういうことなら、すぐにいらっしゃい。私も君たちの力になろう。」

 心強い返信だった。その間、いずみもスマホを取り出していじっていた。

「ダメね。由美さん、まだ反応がないわ。少し心配になってきた。」

「気にし過ぎだったらいいけど、成り行きが成り行きだけに心配だよな。」

 そこから、少し早足でいずみの車を停めてあるコインパーキングまで戻った。清算して、車を出し、瑞翁院へと車を走らせ始めた。ほどなくして、瑞翁院の山門前に車は到着した。

「柊太は先に降りて寂明さんにご挨拶と説明をしておいてね。私はおうちに車を置いてから来るわね。」

 そう言っていずみの車は走り去った。俺は山門を開いて、中に入り居住部分のインターホンを押した。


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