「霧の社」① 「紫」対「黒」一触即発!
「備えって、何をどうするんだ?」
「そうね。この場合は結界を張っても仕方がないから、術に対する備えをしておきましょう。確か、あったわよね。「術」に対してバリアを張る「術」が。」
「ああ、あるよ。『守盾の術』だね。」
「そう、それね。少し奥に入ったら使いましょう。」
俺といずみは、通りを逸れて雑木林の方に入って行った。確かに、道なき道を行くような感じだった。こんなところに何かが祀られているとは誰も思わないだろう。うまい、目くらましになっていると思った。「霧の社」はもうすぐのはずだが、正確な位置が分からないので、ここで『守盾の術』を使っておくことにした。俺は、巻物を取り出し確認してから「術」を唱えた。「術」はすぐに完成した。
「こんな感じになるのね。ボワーとした何かに覆われている感じがするわ。」
いずみが感心しながら言った。
「確か、この辺りだと思うんだけど・・。」
俺は周りを見渡しながら言った。そうは言っても周りは薄暗い雑木林の中だ。見たところは何の変化もない感じだった。
「ここからはもっと用心してゆっくり進んでいきましょう。」
俺といずみは、そこからさらに速度を落とし、周囲をじっくりと見ながら進んで行った。5分程進んで行ったら、少し開けたスペースに出た。そのスペースの右奥の方に傾きかけて苔むした古い鳥居が立っていた。
「いずみ、あれじゃないかな?」
「きっとそうね。知らなかったらなかなかここまでは来ないわよね。仮に迷い込んだとしても、古ぼけた鳥居があるっていうぐらいにしか思わないもの。」
俺といずみは鳥居の方に近づいていった。すると、なんと鳥居の中から一人の男性が出てきた。
「ここは、立ち入り禁止だよ。関係者以外は帰った帰った。」
その男性は、両手でバツマークを作りながら、「こっちに来るな!」というような感じで、ぶっきらぼうに言った。年のころは30代後半ぐらいか、身長は高めで170cm後半で髪は短めに切りそろえられていた。服装は黒色のジーンズに白色系の長袖Tシャツを着用していた。
「関係者だから入るわね。警備員さん。それとも、密陀僧さんって呼んだ方がいいかしら?」
いずみが、その人物に向かって言い放った。密陀僧って誰だ?いずみの知り合いか?いや、違う!こいつは、いずみの車に細工したり、悪質なビラを渡してきたヤツだ。言われた方の男性はかなり驚いた様子で目を見開いていた。
「貴様!どうして分かった!誰に聞いたんだ!さては、貴様は蒼ノ京の娘だろ!そして、そっちの小僧は紫王院の小せがれだな。いったいここに何しに来たんだ!」
男性は大きな声で喚いた。驚きすぎて、自分が密陀僧であることを否定しなかった。これは、この男性が密陀僧とみて間違いないだろう。
「何しにも何も、私たちは「術具」を作りに来たのよ。あなた達と同じようにね。でも、あなた達と違って、悪用はしないけどね。」
いずみが口元に微笑を浮かべて言い返した。この状況に全く動揺せずに、なおかつ皮肉まで返すとは!さすがはいずみだなと俺は感心した。
「何だと!いわれなき侮辱!許さぬぞ!今ここで叩き切ってやる!」
密陀僧が何やら「術」を唱えようとした。すると鳥居の中からもう一人、人物がこちらに向かって歩いてきた。
「何か騒々しいの。密陀僧、何か起こったのかえ?」
悠然とした口調とともに、その人物が姿を現わした。芸妓風の着物に身を包んだ女性だった。
「おや、これは今朝逢うた、紫色のお兄ちゃんに、青色のお嬢ちゃんどすか。いったい、こないなところまで、なんかご用どすか?」
妖艶に笑いながらその女性、小雪が言った。
「やっぱり、小雪さんは「黒祈仙術」の一派だったのね。」
いずみが、小雪をキリっと睨みながら言った。
「また、そんな怖い顔して。せっかくのかわいらしいお顔が台無しどすえ。」
まだまだ、余裕たっぷりといった感じで小雪が言った。
「静音お嬢様、こいつらのこと、知っていたのですか?」
密陀僧が驚いた様子で小雪に聞いた。
「今朝、逢うたさかいに、ご挨拶しただけどすえ。またお目にかかるかとは思うておったけど、こないに早うお目にかかろうとは、思わしなかったどす。」
「左様でございますか。お嬢様、こいつらの始末、どうしますか?」
「そうじゃのう。おや、青色のお嬢ちゃん。あきまへんで。こんなところで、抜くつもりどすか?」
小雪がいずみを見て言った。いずみは、巾着袋を取り出し、袋の口を開けていた。小雪のいう通り、刀を取り出そうとしているように見えた。
「小娘!正気か!こんなところで抜いたら大騒ぎになるぞ!」
密陀僧が慌てて言った。
「そうよ。大騒ぎにしてやるのよ。そうしたら、あんたたちが作ろうとしている「術具」も作れなくなっちゃうもんね。」
いずみが不敵に笑いながら応じた。
「これはこれは、なかなかに恐ろしいことを言いよるの。さて、どうしたものかのう。」
一触即発のピリピリとした雰囲気の中で、小雪だけは全く動じていない様子だった。この場は、小雪が支配しているかのようでもあった。すると、鳥居の中から、3人目の人物が現れる気配がした。
「密陀僧、静音。騒がしいぞ。何かあったのか?」




