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金洛堂再び!豊原の陰謀

「ああ、疲れた!あの人、無茶苦茶頭が切れるから話の持って行きように苦労したわ。」

いずみが歩きながら伸びをして言った。

「そうなの?俺には気のいい上品な男の人にしか見えなかったけど。」

俺は、先程の清長さんがそんなに奥の深い人には思えなかった。

「相変わらず柊太は気楽でいいわね。あの人は、こちらの人柄や技量を見極めようとしていたのよ。私たちが信用に値するかどうかとかね。「刀」のくだりといい、節々に感じたわよ。」

「そうなのか。それで、いずみはあんなに際どい質問をしたわけだね。」

「ご名答!あまりにストレートに行き過ぎてもダメだし、婉曲に過ぎると、はぐらかされるだけだからね。」

「それで、いずみ的には何か収穫はあったの?」

何も収穫を感じられなかった俺は聞いた。

「そうね。あの常磐教授よりはいろいろと真実を教えてくれたと思っているわ。「霧の社」のことも本当だと思っているわよ。あと、小雪さんのことも間違いなく知っているけど、「言えない」とはっきり言ってくれたわ。言い回しの中で、「黒祈仙術」一派の一人であることは確信が持てたわ。」

「それは、何故かな?」

「私の勘だけど、翠風院様は祈仙術の継承者や眷属を守ろうとしている節があるの。話の内容で、「術具」が何者かに悪用されているというくだりがあったと思うけど、その「何者か」については全く興味がなさそうだったものね。金洛堂の名前も実にあっさり言っておられたしね。」

「ああ、なるほどね。」

 俺は妙に納得した気分になった。あのやりとりの中でそこまで読んでいるとは、さすがはいずみだと思った。

「じゃあ、これから「霧の社」に向かうんだね。えっと、住所は・・」

俺は先程、清長さんから聞いた住所を確認しようとした。

「ちょっと待って、柊太。その前に、行きたいところというか、しておきたいことが2つあるの。」

いずみが俺を制止して言った。

「それは何だい?」

俺は、「霧の社」に行くことよりも先にすることが2つもあるとは思えなかった。

「それはね。一つはお腹が空いたから、まずはお昼ご飯を食べること。食べながら状況の整理もできるしね。もう一つは、昨日のカラスさんにナッツのお礼をしに行くこと。もしかしたら、新しい情報をくれるかもしれないからね。」

いずみが言った。

「そうか。そしたら、まずはお昼ごはんでいいのかな?」

「残念!まずは、カラスさんのところへ行きましょう。情報収集が先よ。」

 いずみはそういって歩き出した。車の出し入れが億劫だったので、俺といずみはもったいないがタクシーを使うことにした。ここは、京都市内の中心部に近いところである。タクシーはひっきりなしに通っている。大通りに出て、ものの2分とかからないうちに、俺といずみはタクシーの乗員になっていた。

「お客さん、どちらまで?」

「近くてごめんなさい。金洛堂本社までお願いします。」

「分かりました。」

近いといっても、ここから金洛堂までは比較的距離はある。運転手は喜んで出発した。

「金洛堂さんって最近も元気ですよね。」

いずみがそれとなく運転手に水を向けた。

「そうねえ。京都では老舗の大企業だからねえ。」

運転手は当たり障りのない返事をした。

「私たち、金洛堂さんに取材に行くんだけど、何か新しいお話は知らないかしら?」

いずみが少し趣向を変えて聞いた。

「聞いた話によると、近々、新しい健康食品を大手食品会社とコラボして発売するみたいですよ。なんでも、金洛堂の若手社員の発案だとか。」

運転手が車を走らせながら言った。

「ありがとうございます。いろいろと調べたのですが、なかなかこれといいたネタがなくて困っていたのです。参考にさせていただきますね。」

そうこう言ううちにタクシーは金洛堂の近くに来た。

「ここで結構です。」

「ああ、ここでいいの?」

いずみがスマホで決済をして、タクシーから降りた。

「さて、その自販機の辺りだったわね。」

いずみは、俺が昨日カラスと話をした自販機周辺に近づいて行った。

「この辺りの植え込みでいいかしらね。」

 そう言っていずみはカバンから小さなポーチを取り出した。中にはナッツが入っていた。そのナッツを分からないように植え込みに少しずつ落としていった。その作業が終わり、俺といずみは少し距離を置いた。すると、どうだろうカラスが数羽舞い降りてきてナッツを啄んでいた。その様子を俺といずみはしばらく見ていた。

「さて、柊太。昨日の『皆話の術』を使ってみてよ。」

いずみが頃合いを見計らって言った。

「分かった。やってみるよ。」

俺は「術」に専念した。「術」はすぐに完成した。

「やあ、兄弟。よく来てくれたな。ナッツありがとうよ。まさか本当に持ってきてくれるとは思わなかったぜ。美味しくいただいたよ。さては、あのお姉ちゃんの差し金だろ。」

カラスが何となく核心を突いたことを言った。

「なぜ、そう思ったんだ?」

俺は少し引っかかってカラスに聞いてみた。

「すまんが、お兄ちゃんはそんなに気が回るように見えなかったからだよ。もちろん、悪い意味ではないぜ。」

フォローになっているような、なっていないようなことをカラスは言った。

「ところで、昨日の今日といい、俺たちに何か用があって来たんだろ?言ってみろよ。」

「そうでもないんだよ。一番は昨日のお礼さ。」

俺はそんなに聞くこともないと思ったので、率直に言った。

「これはこれは、この世知辛い世の中に随分と律儀な若者がいたもんだ。」

カラスたちは驚いた感じで言った。

「それこそ、昨日の今日で何だけど、何か新しい情報があったら嬉しいな。」

「そうだな。こうして律儀に来てくれたんだし、俺たちもタダで君らを返すわけにはいかないな。少し待ってくれよ。」

 そう言って、カラスたちは相談を始めた模様だった。傍から見ても、カラスが電線の上で、キョロキョロしているようにしか見えないだろう。

「おお、そうだ!近日中、早かったら今日にでも新商品発売の発表があるかもよ。なんと!その商品の発案者が、あの豊原らしいぜ。どうだ!驚いたか!」

カラスは得意満面で言った。

「おお、これは知らなかったな。ところで、どんな商品なんだ?」

俺は、カラスが気を悪くしないように、全く初めて知った体で聞いた。

「何でも、新しい健康食品を大手食品会社とコラボして発売するらしいぜ。」

これも、さっきタクシーで聞いて情報だが、きちんと裏付けが取れた。俺は知らない体で話を進めた。

「この話に、豊原は発案者としてどんな具合に関与しているか分かるかい?」

「そんなに詳しくは分からないが、実は元はこの話は、営業部の吉山補佐が発案だったらしいという噂があるんだ。」

「吉山さんって・・。あっ!確か体調不良で休職されている方ではなかったかな?」

「ご名答!よく覚えていたな。あくまでも、噂の段階だが、豊原が吉山さんの企画を奪ったのではないかと取り沙汰されているんだよ。もちろん、事ここに至っては表立っていう者はいないがね。」

カラスは忌々しそうに言った。

「それは、かなり正鵠を突いていると思うよ。やっぱり、豊原は油断ならない奴だったんだな。また、来るから何か情報があったら頼む。」

「ああ、分かったぜ。その時は、ナッツをよろしく頼むぜ。」

「もちろんだとも。ありがとうな。」

俺は怪しまれないように術を解いた。


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