翠風院家③ 古の輝きを再び!「妖刀 紫野」降臨!
「構いません。」
「それでは、話を進めていきましょう。今日、私を訪ねてきたのは、祈仙術絡みのお話ですよね?」
「その通りです。翠風院様はこと「術具」について精通されているとお聞きいたしております。」
「そうですねえ。精通しているといっても、「術具」の作成はもとは、わが翠風院家一家で担っていたのですよ。常磐家や若草家が興ったのは、室町時代以降なのですよ。それで、歴史がやたらと長いためにそう言われているのかもしれませんね。」
口調は打ち解けた感じになっているが、言葉遣いは丁寧に清長さんは言った。
「そうなのですね。本日はお願いしたいことが、二つございます。一つは、若輩者のわたしたちに次に行くべき道標をお示しいただくこと、もう一つは、誠に心苦しいのですが、「妖刀 紫野」をこちらの紫王院柊太に暫時御貸しいただくことをお願いに参りました。」
いずみは、丁寧に言った。
「分かりました。それではまず、そちらの柊太君に「妖刀 紫野」をお返ししましょう。少しお待ちください。」
清長さんは呼び鈴のようなものを鳴らして、それに向かっていった。
「先程お願いしていたものを、こちらに持ってきてください。」
しばらくも待たないうちに、部屋の扉がノックされ執事が入ってきた。両手に刀袋に入った刀を持っていて、それを机の上にそっと置いた。執事は礼をして部屋を下がって行った。
「これが、「妖刀 紫野」ですよ。」
清長さんが机の上に置かれた刀を見て言った。刀袋もおそらくは西陣織だと思われる、紫色を基調とした房付きの上等なものだった。
「この刀は、紫祈仙術の継承者にしか使いこなすことはできないのですよ。私は故あってお預かりしていただけです。「御貸しください」ではなく、ここに「お返し」させていただきますよ。」
悠然とした笑みを湛えながら清長さんは言った。同じ所作や言葉でも、こんなに優雅になるものなんだなと俺は思った。
「ほら、柊太君。刀袋から取り出してみてごらん。」
「はい、分かりました。」
俺はそう言って恐る恐る刀袋に手を伸ばした。持ち上げてみると、ずっしりとした重みが感じられた。そして、刀袋から刀を取り出してみた。長さはだいたい1メートルぐらいかと思われ、鞘の部分は薄めの紫色を基調として青色で紫王院家の家紋が綺麗に施されてあった。柄の部分は濃いめの紫色を基調としたおそらくは「平巻」と言われる造りの物だった。柄の部分にも美しい装飾が施されてあった。
「さあ、柊太君。抜いてみなさい。ここは大丈夫だから。念のために「術具」を使った結界を張ってありますから、安心して。」
清長さんがそう言って俺を促した。躊躇していても仕方ないので俺は刀を向いてみることにした。それは、何とも言えない神秘的な雰囲気だった。銀色というか何というか、鮮やかな色合いの刀身だった。なんとなく、紫色に光っているように感じた。
「それは、平安時代に打たれた刀剣ですよ。祈仙術の妖気をはらんでいるので、経てきた年数よりもきれいに見えます。すでに、1000年以上もの歴史をほこる名刀です。柊太君は、巾着袋を持っていますよね。確認ができたら、その刀を巾着袋にしまってください。」
俺は、再度、刀をじっくりと眺めてから、巾着袋に収納した。
「そんなもの、抜かないでいれれば一番いいんですけどね。刀を巾着袋から取り出すときは『懐刀の術』を使ってください。もう、知っているよね?」
「まだ知らないです。」
「私が知っていますので、早いうちに彼に伝授します。」
いずみがすかさず言った。
「それは良かった。取り出せなかったら意味がないですからね。他の術具は簡単に取り出せるのに、刀だけは厳重にされていますからね。物騒なものですから、無理もないですけど。」
清長さんは一旦そこで言葉を切った。
「あと、その刀はお値段がつけられないほど価値のある刀です。もし、値段を付けるとなると億単位の値段になるでしょう。くれぐれも、欲に目がくらんで手放さないようにしてくださいね。手放したら最後、紫祈仙術は終焉で、紫王院家もそこでお終いと考えてください。」
さっきとは打って変わって真剣な面持ちで清長さんは言った。そこには、金に目が眩んで刀を売り払うような輩とは一切付き合いはしないという強い意志も感じられた。
「分かりました。」
お金に換えるつもりはないが、くれぐれも紛失などに注意しようと思った。
「そういえば、いずみお嬢ちゃんも「術」の継承者になられたそうですね。今朝、お父様からお聞きしました。」
「はい、その通りです。」
これは予想以上にいずみのお父様と翠風院家には繋がりがあるんだなと思った。
「そうすれば、いずみお嬢ちゃんも「惑刀 蒼炎」を持っているのですね。」
「はい、そうです。私もこの刀の取り扱いにはくれぐれも注意するように父から申し付かっております。この刀の持ち主に恥じない行動を心がけたいと思います。」
「そうですか。それは良かったです。それでは、もう一つのお願いについてお話していきましょう。この後、あなた達は「霧の社」に行ってもらいたいと思います。」
「?」




