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翠風院家② 若き当主登場

「どちら様ですか?」

インターホン越しに声がした。多分、執事かマネージャー的な存在の人だろう。

「私は、蒼ノ京いずみと申します。こちらは紫王院柊太です。本日、10時にお約束をいただいております。ご当主様にお目通り願えますでしょうか?」

いずみは丁寧にかつ淀みなく答えた。

「蒼ノ京様に紫王院様ですね。主人から承っております。今、そちらに向かいますので、少々お待ちくださいませ。」

声の主は丁寧に言った。

しばらく待っていると、奥から黒いスーツを着用した中年の男性が姿を現した。

「ようこそ、翠風院家へ。主人がお待ちかねです。どうぞ、こちらへ。」

 重たそうな門が開いて敷地の中へと誘われた。玄関までの庭には石畳が敷き詰められており、丁寧に手入れされた紅葉や松などの木々が植えられてあった。しばらくして、玄関に辿り着いた。玄関の扉もものすごく豪華なものだった。先程の執事と思しき男性が玄関を開けた。玄関も驚くほどの広さだった。

「さあ、お履き物を脱いでお上がりください。」

俺といずみは靴を脱いで、用意された履物に履き替えた。

「どうぞ、こちらへ。」

 俺といずみは「鳳凰の間」と書かれた部屋に案内された。その部屋は縁側に面しており、障子は開けられていて庭が一望できた。部屋の中ほどに高級木材を使用していると思しき長めの平机が置かれており、背もたれ用の座椅子の上に座布団が用意されていた。2つ並びで合計4人分が用意されていた。床の間には、大き目の花瓶に綺麗に花が生けられていた。俺といずみは入り口に立っていた。

「どうぞ。中へ入って楽になさってください。」

先程の男性が声を掛けてきた。

「失礼します。」

 いずみは答えて中へ入って行った。俺も慌てていずみについて行った。俺といずみは下座へと腰掛けさせてもらった。

「それでは、主人をお呼びいたしますので少々お待ちください。」

 そう言って男性は部屋を後にした。しばらくして、時期的には袷と思しき紺色系の着物に羽織を羽織った、思ったよりかなり若い男性が姿を現わした。その男性は扉で軽くこちらに一礼をして中に入ってきた。そして、悠然と腰を下ろした。

「ようこそ、翠風院家へ。私はあなた方を歓迎しますよ。」

にっこりと笑ってその男性は言った。

「では、お茶のご用意をお願いしますよ。」

その男性は、先程の執事に対して丁寧に言った。

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」

そう言って執事は下がって行った。

「なかなか景色がいいでしょう。私はこの部屋が気に入っているのですよ。だから、お客様が見えられると嬉しくてね。」

 そう言いながら男性は縁側から見える風景に見入っていた。俺といずみもその景色を眺めていたが、緊張しすぎて言葉が出てこなかった。ほどなくして、執事が人数分のお茶とお茶菓子を運んできた。いい香りのする煎茶に、お茶請けは蓬餅だった。それらを、配り終えて執事が下がろうとしたところに、男性が声を掛けた。

「後ほど、声を掛けるから「例の物」の準備をしておいてくださいね。」

「かしこまりました。」

執事が丁寧にこちらにお辞儀をして部屋を出て行った。

「さて、お茶の準備もできたし、お話をしていきましょう。そちらの女性が蒼ノ京さんの娘さんで、そちらの男性が、紫王院家の現当主さんですね。さて、私は翠風院清長(すいふういんきよなが)と言います。どうぞよろしくお願いいたします。」

男性はそう名乗ってこちらに頭を下げた。

「ご丁寧なごあいさつをありがとうございます。おっしゃっていただきました通り、私は蒼ノ京家現当主信親(のぶちか)の娘のいずみと申します。そして、こちらは紫王院柊太です。本日はお忙しい中、お時間を賜りましてありがとうございます。」

いずみが緊張しながら応対した。

「これはこれは、こちらこそご丁寧なご挨拶、痛み入ります。」

「さて、こちらは本日、翠風院様にお渡しするようにと、父からお預かりした品物です。心ばかりのもので恐縮ですが、お納めいただけましたら幸いです。」

そう言っていずみは大きな紙袋から大き目の箱を取り出し、また、風呂敷を開いて桐箱を取り出し、それぞれを清長さんの前に置いた。

「これはこれは、ご厚意痛み入ります。あなたのお父様には私もたいへんお世話になっております。拝見してもよろしいですか?」

「ぜひ、ご覧くださいませ。」

 清長さんは優雅な仕草で、箱を開いた。いずみの言っていたとおり、ひとつは有名な伏見の酒蔵の日本酒であった。もう一つの桐箱の中には古めかしい茶碗が入っていた。

「これはこれは、この茶碗は「古蒼天(こそうてん)茶碗」ではありませんか。いけません。こんな貴重な家宝を手放してもうたら。」

最後の方は半ば独語的になりながら清長さんは言った。

「いずみお嬢さん。お父様のお気持ちは確かに頂戴いたしました。でも、この茶碗はいただくことは出来ません。この茶碗は蒼ノ京家にあって然るべきものです。お飲み物の方は頂戴しますが、こちらの茶碗はお返しいたします。」

清長は、丁寧に茶碗を桐箱に納めていっていずみに返した。

「ありがとうございます。」

いずみはこの展開を半ば予想していたのか、比較的すんなりと受け取っていた。

「さて、堅苦しいご挨拶や儀式は済んだことだし、少し軽く話をさせてもらいますよ。いいですか。」

先程と違ってすっかり打ち解けた感じで清長さんは言った。


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