若駒由美の独白
「さて、何からお話していこうかしら?紫の坊やは先日、私と会ったわよね。」
「はい、お会いしました。お名刺もいただいています。」
俺は一言一句注意深く言った。
「蒼ノ京のお嬢ちゃんも私のことを知っているようね。改めまして自己紹介しておこうかしら。私の名前は若駒由美っていうの。」
そう言って俺が先日貰った名刺と同じものを取り出していずみに渡した。
「これはご丁寧にどうも。私の名前は蒼ノ京いずみよ。もう、あなたは知っていると思うけど。」
いずみが名刺を受け取りながら軽い口調で言った。そこにマスターが抹茶ラテを3つ運んできた。表面には京都らしくお寺をかたどったラテアートが彩られてあった。
「はい、お待たせ!抹茶ラテ3つね。熱いから気を付けてね。」
マスターが何か話をしたそうだったが、俺たちが何か込み入った話をするんだろうかと察知してそのままカウンターへと下がっていった。
「あら来たわね。せっかくだから熱い間に召し上がってね。」
俺といずみは言われるがままに抹茶ラテを口にした。なるほど、由美が迷わず進めてくることはある。ほろ苦い上質な宇治抹茶の味わいにミルクの甘い味わいがほどよくマッチしていて深い味わいが楽しめる一品になっていた。
「なるほど。とても美味しいですね。これにテキーラやジンを入れていただいても美味しいでしょうね。」
俺は素直に美味しいと思って感想を言った。
「また、柊太はお酒ばっかり!」
「ほんとにお酒が好きなのね。」
いずみの怒った声と、由美の少し呆れたような声が見事にハーモニーした。
「ごめんなさい。」
俺は反射的に謝っていた。何だか少し雰囲気が和やかになったような気がした。
「さて、お話を進めていくけど、私の本名も実は「若駒由美」なのよ。」
由美が少し真剣な表情になって言った。
「あら?「若草由美」さんじゃないの?」
いずみが不思議そうに聞いた。
「そうなのよ。「若草家」は江戸末期までは存続していたらしんだけど。そこからいつの間にか「若駒家」に姓が変わってるの。私の家にも何も記録が残っていないし、いろんな歴史文献を調べてみても載っていないのよ。おそらく江戸末期に何かの事態が出来したのかとは思うのだけれど、それが何であるかは今となっては調べる術はないわ。」
由美がうつむき加減で首を振りながら言った。
「そうなのね。でも「術具」を作成できる「錬金壺」は受け継いでいたわけよね。」
「そうよ。さっきも少し言ったけど、私には全く訳が分からなかったので、母の言いつけにあった通り、常磐教授を訪ねて行ったわ。常磐教授も「若草家」のことは全く知らなかったみたいで、必死になって調べてくれたわ。そしたら、さっきも言った通りに江戸末期まで「若草家」が存在していたことが分かったの。」
「常磐教授は本当に「若草家」のことは知らなかったんだ。」
いずみが少し驚いて言った。
「そうよ。さっきはあなた達に少し噓をついていたけど、それは私を庇うための嘘よ。常磐教授はそんなに悪い人じゃないわよ。」
由美が笑いながら言った。
「そしたら、あなたは「術具」を作れるという訳ね。」
いずみが確認するように言った。
「その通りよ。作れるわよ。一応、戒律が存在していて一つの「術」あたりに、三つまでしか「術具」を作成できないけどね。でも、戒律は破ろうと思えば破れるの。破ったら、どういったペナルティがあるかは分からないけどね。」
由美が首を振りながら言った。
「それで、あなたはその戒律を破ったの?」
いずみが真剣な眼差しで聞いた。
「破っていないわ。私も自分の身が大事だもの。呪術的なものでどんなペナルティを食らうか不気味だもの。なんか罰が当たるような感じがしてできないわ。」
「それを聞いて安心したわ。今まで何個ぐらい「術具」を作ったの?」
「そうね。軽く10個以上は作ったわよ。」
「作った「術具」はどうしたの。全部あなたが持っているの?」
「うーん。「持っているわよ」と嘘をついてしまうのは簡単なことだけど、残念ながらそうじゃないのよ。私が原因で、「術具」が流出してしまっていて少し騒動になっているの。それは申し訳なく思うわ。」
由美がうつむき加減で言った。
「どういうことなの?少しずつでいいから説明してくれるかしら?」
いずみが今度は落ち着いた感じで由美を促した。
「お気遣いありがとう。今から話すことは今回の「黒幕」や「根幹」に関わってくることだから、順を追って少しずつ説明していくわね。」
そう言って由美は抹茶ラテを一口含んだ。
「常磐教授に会って、「祈仙術」や「術」、「術具」について知ったの。そしたら、いつの日か「若草家の秘密について教えてあげようか?」と言って接触してきた人物があったの。私も、自分の家系や生い立ちに興味があったから、少し胡散臭いと思いながらも、その人物と接触して話を聞いたの。それが間違いの始まりだったわ。」
ここまで話して由美は一呼吸置いた。いずみは真剣な表情で聞いていた。決して先を促したりはしなかった。俺もそれに倣って黙って聞いていた。少し間を置いてから由美はまた話し出した。
「その人物は私に向かって「君は「紫祈仙術一派」に騙されている。私は、その一派と戦っている「黒祈仙術一派」の者だ。」と名乗ったの。そして、「この状況を打破していくためには君の作る「術具」が必要になってくるのだ。もちろん無償で作ってくれとは言わない。それ相応の対価は支払う。これは君自身のためでもあるんだ。」と言って説得してきたの。」
「それであなたは簡単に騙されて「術具」を作ったの?」
「そうなるわね。今思えば「黒祈仙術」のひとつの呪いをかける「術」の『怨呪の術』をかけられていたのだと思うわ。その時の私は、自分の生い立ち等を知りたい一心で、少しは警戒してはいたけど「術」に対するバリアを張ったりはしていなかったものね。それで簡単に相手の言いなりになったんだと思うわ。」
由美が少し悲しげに言った。
「そうっだたのね。それは辛かったわね。まだいろいろ聞いても大丈夫かしら?」
いずみが由美の状態を確認するように聞いた。




