謎の美女 若駒由美
「あー疲れた!なんか大事なことを隠してるわね。あの教授は。」
いずみが大学のキャンパスを後ろに見ながら言った。
「あら、そうなのかな。俺には何にも分からなかったけど。」
俺はあの教授が嘘をついていたり何か隠しているとは感じられなかった。
「もう!本当っにあんたはお気楽でいいわね!いいこと、まず一点、『若駒由美』についてだけど、随分とこちらの出方を窺ってから話をしたわよね。いろいろと教えてはくれたけど、ひょっとしたら、あの教授と『若駒由美』につながりがあるかもしれないわよ。」
いずみが憤然としながら言った。
「そうなのかなあ。」
俺はそんなことがあるのかなと思いながら言った。
「あと、もう一点。これは肝心なことになってくるのだけど、あの教授はこの件の「黒幕」を知っているわよ。」
いずみが鋭い目で確信を持って言った。
「ご名答!さすがは蒼ノ京のお嬢様ね。」
おもむろに後ろから女性の声がした。俺は驚いて後ろを振り返った。いずみはというと、こちらは悠然と迎え撃つ感じでゆっくりと振り向いた。
「紫の坊やは本当に気付かなかったみたいね。蒼ノ京のお嬢様はさすがね。いつから私に気付いていたの?」
その女性はにこやかに言った。そこにいたのは俺の知っている人物だった。そう、バー「パープルナイト」で出会った謎の女性『若駒由美』その人だった。
「そんなの、常磐教授の研究棟を出てしばらくしてから気付いていたわよ。どこまで付いてくるのかなと思ったけど、面倒くさいから少し大きな声で話題を振ったのよ。」
いずみが由美を少し睨みながら言った。
「あら、そうなの。それならばもっと早く声を掛けてくれたらよかったのに。」
これまた由美が不敵に笑いながら言った。
「柊太と違って私はあんたと初対面だから遠慮したのよ。あんたの目的は一体何なの?」
いずみも負けじと好戦的に言った。
「あら、随分と嫌われたものだわね。それじゃあ、まずはお近づきのしるしにさっきお嬢ちゃんが言っていたことの答え合わせをしてあげるわ。まず、私と常磐教授だけど、会ったことがあるわ。もう一つ、あの常磐教授は今回の件の黒幕を知っているわ。これでいいかしら?」
由美が妖艶な笑みを湛えながら言った。
「ふーん。分かったわ。それを私に言ってどうするつもりなの?若駒由美さん?それとも若草由美さんと呼んだ方がいいかしら?」
いずみが険しい顔のままで言った。
「どっちでもいいわよ。確かに私は「若草家」の流れを汲む者だわ。私は貧しい母子家庭で育ってきて、母が亡くなった時に遺品整理をしていた時に、古びた桐箱に入った不思議な壺を見つけたの。そこには母の字で簡単な添え書きがされてあったわ。」
「なんて書かれてあったの?」
「「由美、困ったことがあったら、この「壺」を使いなさい。詳しくはこの「壺」を持って東王路大学の常磐教授を訪ねなさい。」と書かれてあったわ。」
なんと、若駒由美と常磐教授は「会ったことがある」どころか、もっと懇意な間柄だったみたいだ。いずみの指摘した通りだった。俺は己が不明を恥じ入るばかりだった。
「それで、あんたの望みは何なの?若草由美さん?」
相変わらず挑発的な口調でいずみが言った。
「本当に嫌われちゃったみたいね。私を「敵」かどうか判断するには話を聞いてからでも遅くはないんじゃないかしら?」
こちらは相変わらず悠然としながら言った。
「分かったわ。話を聞こうじゃないの。」
いずみが少し表情を和らげて言った。
「少し長くなりそうだから場所を変えようかしら。さっきあなた達が昼食を食べたあの喫茶店に行きましょう。」
そういって由美は歩き出した。
「あら、由美ちゃん。いらっしゃい。」
喫茶店のマスターが由美を見るなり言った。
「マスター。席は空いてるかしら?」
由美が店内を見渡しながら言った。時間は4時少し前で、学生客と思しき客が数組入っていた。
「今の時間は比較的空いているから好きな席に行きなよ。」
マスターが由美に言った。
「ありがとう、マスター。そしたら奥の方の4人掛けのテーブルをお借りするわ。」
そう言って由美は我が家のように奥のテーブルの方へとスタスタと歩いて行った。俺といずみも慌ててそれに倣った。4人掛けのテーブルに俺といずみが並んで座り、その対面に由美が一人で座るという構図になった。
「さあ、何か飲む?お腹が空いていたら何か食べてもいいわよ。ここは私が奢るから。」
少し妖艶な笑みを浮かべながら由美が言った。
「それじゃあ、素直にご馳走になろうかしら。何がおススメなの?」
さっきと打って変わって素直な笑顔でいずみが応じた。俺は、ここはいずみの対応に倣っておこうと思った。きっと何か意図があってさっきと態度をガラッと変えたのだろうと思った。
「そうね。挽き立てのコーヒーはもちろん美味しいけど、ここの抹茶ラテは絶品よ。マスターがこだわりぬいた宇治抹茶にコクのあるミルクで仕上げた上品な味わいよ。良かったら味わってみる?」
由美がメニューを見ることもなく流暢に勧めてきた。さっきのマスターの反応といい、きっと由美はこの喫茶店の常連客なんだろう。
「そしたら、それをいただくわ。柊太はどうする?」
「僕も同じのをいただきたいと思います。」
俺は少し緊張しながら答えた。
「分かったわ。マスター、抹茶ラテを3ついただけるかしら?」
由美がカウンターの中にいるマスターにオーダーした。
「抹茶ラテ3つね。了解!」
明るくマスターが応じてオーダーされたドリンクを作り始めた。




