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東王路大学② 緑色の家系

「それはだね。私の苗字に表れている『色』に由来していることなのだよ。私の苗字の『常磐』は『緑色』を表しているのだよ。祈仙術において『緑色』は特別な色なんだよ。」

そこで、常磐教授は一呼吸置いた。

「いいかね。ここでいう『緑色』は紫王院君の『紫』祈仙術にも属さないし、また、対立する『黒色』の『黒』祈仙術にも属さないんだよ。」

「そしたら、『緑色』とはいったい何なんですか?」

「『緑色』とは「術」は使えないが「術具」を作ることができる窯元的な存在なんだよ。祈仙術において、『緑色』を継承する家系は2つしかないんだよ。でも、もう一つ滅びたはずの家が再興しているかもしれないが・・。」

常磐教授が最後の方は独語的になり少し迷いながら言った。

「なんだか複雑そうですね。一つずつご教授いただいても構いませんか?」

いずみが場を取り持つように丁寧に言った。

「ああ、そうだな。まず、『緑色』の家系についてだが、私の常磐家ともう一つ、翠風院(すいふういん)家が存在するんだ。今のところこの2つの家系が「術具」を作り出すことのできる家系なのだよ。」

常磐教授がゆっくりとした口調で言った。

「そうなんですか。「術具」を作り出すとはいったいどういうことなのですか?「術具」は簡単に作れるものではないのですか?」

「そうなんだよ。簡単に作れたらそれこそ社会の秩序が崩壊してしまうからね。例えば、結界を張る『銀紐(ぎんちゅう)の術』の「術具」は「香炉」なんだが、誰でも彼でも「香炉」を用意したからといって『銀紐(ぎんちゅう)の術』を使えるわけではない。用意した「香炉」に念を込めるというか、魔力を宿らせるというか、とにかく儀式的な方法にのっとって初めて「術具」が完成するわけなんだよ。それに、「術具」を造り出すためには専用の「錬金壺」が必要になってくるのだよ。この壺は『緑色』の家系に一つずつしか存在しないんだよ。」

「そうなんですね。そしたらその壺さえあれば、「術具」は作り放題と言えばそういうことになるんですね。」

俺は半ば独語的に言った。そしたら、この世の秩序はあったものじゃないなと思った。その思いを察してか、常磐教授が言った。

「そう簡単に濫発するものではないから安心しなさい。戒律的には一つの家系について一つの術につき三つまでしか「術具」を作り出せないことになっているんだよ。」

「そうなんですね。そうしましたら今は『緑色』の家系は2つとおっしゃっていましたので、一つの術につき六つまでしか世の中には存在しないということなのですね。」

俺は少し安心して言った。

「そのはんずなんだがね・・。」

常磐教授が少し困惑気味に口ごもった。

「それは、先程言われた「もうひとつ滅びたはずの家」のことですか?」

こちらは遠慮なしにいずみが聞いた。

「これはこれは独語のつもりが聞こえてしまっていたか。その通りなんだよ。『緑色』の家系にはもう一つの家系があるらしいんだよ。」

「らしいとはどういうことですか?」

いずみが間髪を入れずに追撃した。

「これは私も最近、調査と研究を重ねて知ったことなんだが、『緑色』の家系にはもうひとつ「若草家」という家系があるという結論に至ったんだよ。古い文献や民間伝承などを渉猟して、文献などを照合してみて「若草家」という家系が江戸末期までは存在していたことが確認できたんだよ。だがそこからの文献や伝承などが全く見当たらないのでその地点で断絶したものとして扱われていたみたいだな。」

「なんだか随分曖昧な感じですが、断絶ではなく「家系がある」、「現在も存在している」という結論に至った根拠的なものは何かあるのですか?」

俺は教授の気を悪くしないように少し遠回り気味に聞いた。

「ときに、君たちは『若駒由美』という名前に心当たりはないかね?」

俺といずみは思わず顔を見合わせた。お互いに驚いた表情をしていたと思う。その表情を見て常磐教授が我が意を得たという感じで言った。

「その表情だと二人とも心当たりがあるようだな。そう、その『若駒由美』がひとつ噛んでいるんだよ。」

『若駒由美』はこの件が始まってから頻頻と聞く名前だが、どう絡んでいるのかはわからなかった。その思いを見透かしたかのように常磐教授が言った。

「この『若駒由美』こそ、「若草家」の家系を引き継ぐものだと私は思っているのだよ。」

「それはどうしてですか?」

「いろいろと附合はあるが、この『若駒由美』なる人物が自らを祈仙術研究家と名乗っていること、また、どうやら祈仙術を使いこなしていること、ここにきて『黒』祈仙術一派の動きが活発になってきていることなどを考え合わせると、『若駒由美』が実は『若草由美』である可能性が高くなってくるんだよ。」

常磐教授が一気にまくしたてた。そこからさらに言葉を続けた。

「祈仙術というのは各流派の継承者か、もしくは「術具」を持つ者しか使いこなせないんだよ。『若駒由美』が流派の継承者ではない以上、「術具」を使っているとしか考えられない。それも、複数の「術」を使いこなすとなれば、自ら「術具」を造り出していると考えることが一番妥当なのだよ。」

そこまで話して常磐教授は一人納得したかのように頷いた。

「それはそうですね。では、『若駒由美』はいったい何の目的で動いているのでしょうか?」

これこそが核心とばかりに俺は聞いた。

「うーん。そこは判断しかねるところだね。本人に聞けば一番いいんだろうが、そうもいかないしね。俗な考え方をすれば「お金のため」ということになるんだろうが、そう簡単に断じてもいいかは分かりかねるところだね。」

常磐教授がじっと考え込むように言った。

「私の話できることはこれぐらいだね。何か聞きたいことはあるかい?」

常磐教授が俺といずみを交互に見て言った。

「そうですね。私は今は「術」を使えない状態です。私に何か「術具」をいただくことはできませんか?」

いずみが遠慮がちに言った。

「そうだな。それは私も悩んだところではあるが、結論として君には「術具」を渡さないことにした。」

「それはどうしてですか?」

「理由はいろいろとある。「術具」の拡散を防ぐことであったり、今はいざこざの気配はあるがまだ何も事件が起こっていない状態であること、それに、君は蒼ノ京流の継承者であり、場合によっては「術」の使用が可能であること、こういったことを考え合わせたときに「今ではない」と考えたからだよ。」

常磐教授がいずみを諭すように言った。

「分かりました。」

いずみが残念そうに言った。

「私としてもこのまま君たちを手ぶらで返すのは申し訳ないと思う。そこでだ。君たちに翠風院家への紹介状を(したた)めようではないか。私からも連絡を入れておいたから、明日の10時に翠風院家を訪ねてくれ。そうすれば、新たな道が開かれるであろう。」

「ありがとうございます。翠風院家とはいったいどのような方なのでしょうか?」

「ものすごく由緒正しき平安貴族の末裔だよ。普段、なかなかお目通りは難しい方だよ。決して気難しいという訳ではないが、くれぐれも粗相のないようにな。こと、祈仙術や「術具」作成に関しては右に出るものはいない存在だよ。翠風院様と比べたら私など足元にも及ばないよ。」

常磐教授が自嘲気味に言った。そんな人に会うのは気が引けるなと思いながらも、事態を進展するためには前に進むしかないかなと思った。

「本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございました。」

俺といずみは丁寧に常磐教授に礼を言ってその場を後にした。


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