初めての接触及び黒幕再び
「ああ、退屈だったわ。柊太は「術」が使えるからいいけど、私は使えないから何にもできないじゃない。いっそ、お父様が私の封印とやらを解いてくれないかしら?」
いずみが大きく背伸びをしながら言った。俺といずみは深泥池を後にして車を停めてあるコインパーキングまで歩いている途中だ。
「それは難しいんじゃない。いずみのお父様はそもそも祈仙術の存在自体に否定的な考えをお持ちのようだからさ。でもよく今日出てこれたね。」
「そりゃ大丈夫よ。もう子どもじゃないんだから行き先をいちいちお父様に言ったりしないわよ。」
いずみが笑いながら言った。
「でも、この成り行きを知ったら止められるかもしれないわね。」
「どうする?そろそろお昼時だし、どこかでお昼にしてから向かおうか?お昼時にいきなりお伺いするのもどうかと思うんだけど。」
俺はどうしたものかと思案を巡らしながらいずみに聞いた。
「そうね。少しお腹も空いてきたし、どこかでランチをしてからお伺いしよっか。」
コインパーキングに着いたとき、いずみの動きが止まった。表情がいつになく険しくなっている。
「いずみ、どうしたの?何かあったの?」
俺は心配になっていずみに聞いた。
「うん。車が少し変なの。」
いずみが真剣な表情で言った。
「どう変なの?」
俺の見た目に何も変なところが分からなかった。
「私の車は、停めてロックをしたときにドアミラーは自動的に閉じるはずなのに、今見たらドアミラーが開いているの。そんなこと絶対にありえないのに。」
「ロックをかけ忘れたんじゃないの?」
俺は呑気に言った。
「そんなことないわ。確かめてみましょう。」
俺といずみは車の傍まで行った。
「ほら見なさい。ロックはちゃんとかかっているわ。でもミラーは開いている。こんなのありえないわ。」
いずみがイヤイヤをするように首を振りながら言った。
「これが太公望さんが言ってた相手方からの「接触」というやつかな。」
「多分、そうでしょうね。」
「それにしても、随分地味なことをやってくるね。俺たちが気がつかなかったら意味がないのにね。」
「とりあえずは、相手方からの「ごあいさつ」といったところじゃない。「お前たちの動きは分かっているぞ」といったところでしょうね。少し気味が悪いわ。」
「確かにそうだね。でも、まだ相手方について何も分かっていないし、直接の被害を被ったわけではないので、あまり気にせずにいようよ。」
「柊太はお気楽でいいわね。その神経を少し分けてほしいわ。」
いずみが俺の方をチラッと睨んで憎まれ口を叩いた。
「でも、そうよね。今のところはあれこれと考えても仕方ないし、気を取り直してランチに行きましょう。柊太は何が食べたい?」
「そうだね。少しゆっくりできる喫茶店でも行こうか。少し状況を整理したいしね。」
「そうね。そしたら、東王路大学の近くに喫茶店にでも行きましょう。」
行き先が決まった俺たちはパーキングの料金を精算してその場を後にした。
ここは株式会社金洛堂の財務部。そこに豊原の姿があった。
「失礼します。営業部の豊原です。中藤君に用があるのですが、お手空きでしょうか?」
豊原はこの上なく丁寧に尋ねた。
「はい。大丈夫ですよ。」
中藤と呼ばれた青年が少しおどおどした感じで言った。
「少し、込み入った打ち合わせがあるから、場所を改めてお話しましょう。」
豊原が、有無を言わせない感じで言った。
「分かりました。少し席を外します。」
こちらは、中藤と呼ばれた青年が言いい、豊原と中藤の二人が連れ立って財務部の部屋を後にした。そのまま、食堂の喫茶コーナーへ向かい、コーヒーを注文して向かい合って座った。
「豊原さん、もうこんなことは勘弁してくださいよ。」
中藤が懇願するように豊原に言った。
「いいのか?これで終わりにしたら全て会社にバラすぞ。そうすれば、お前はクビだよ。それどころか、損害賠償も請求されるぞ。それでもいいなら終わりにするがね。」
豊原が相手を見下したような感じで言った。
「それだけは勘弁してください。次は何をしたらいいのですか?」
中藤がおびえるような感じで豊原に聞いた。
「そうだな。今回は会社の会計システムに不具合が出たことにする。その修理代で80万円を計上して例の会社に修理代として振り込んでくれ。振り込まれたら全額下ろして俺に現金で手渡しするんだ。」
豊原が声を落として中藤に言った。
「実際に故障していないのに、そんなことしたら流石にバレてしまいますよ。」
焦りの色を隠せずに中藤が言った。
「それは大丈夫だ。俺が故障したように見せかけてやる。業者が入った後にすぐに元に戻してやるから安心しろ。」
「豊原さんは何でそんなことできるのですか?」
「余計な詮索は無しにしてもらおうか。お前の身の安全も危なくなるぞ。」
豊原が中藤を鋭い目つきで睨んで言った。
「わ、分かりました。言われたとおりにします。」
「分かったらいいんだ。悪いようにはしない。今回も80万円の一割、8万円は取っておくがいい。謝礼分だ。」
「あ、ありがとうございます。」
「では、よろしく頼むぞ。くれぐれも勘繰られたり、ヘマをしないようにな。」
豊原はそう言い放ちその場を後にした。
「ああ、僕はどうなっていくのだろう・・。」
中藤が虚空を見つめて力なさげに言った。




