31:神様みたい
何を食べるか悩んだが、結局全部、食べることになった。
木の器に入った野菜スープはそれぞれ一人前を頼んだ。
それ以外のサーモンとほうれん草のキッシュ、キノコのパイ、窯焼きの野菜、フライドポテトは、シェアして食べることになった。
これは……私がどれを食べるか決めかねているのを見たランスが、笑いながら提案してくれた結果だ。この配慮には本当に感謝だった。おかげで食べたいと思ったものはすべて……。
「アリー様、甘い物はいいのですか? ここに来る途中で白樺の森を見ましたよね? あの白樺を使ったスイーツが、沢山あるそうですよ」
広場にはマーケットで買ったものを食べられるよう、沢山のテーブルと椅子が用意されていた。その一つにランスと私は腰を下ろし、ひとまず夕食を食べ終えたところだった。そしてランスは、食後の飲み物とスイーツを提案してくれた。
「まずは白樺のシロップを使ったドリンク。これはたっぷりのレモン果汁が加わり、さっぱりとした甘さで飲みやすいそうです。ローズヒップティーに白樺のシロップを加えたものは、温かい飲み物として人気と聞きました。白樺のジュースは、シロップにたっぷりの蜂蜜を加えた、デザートワインのような飲み物だそうです」
どれも飲んでみたいものばかり。でも今は外だから白樺のシロップ入りのローズヒップティーかしら。
「白樺のシロップで作った透明なゼリーは粉糖がかけられ、見た目がとても美しいですよ。白樺のシロップを練りこんだマドレーヌ。これは蜂蜜を使ったマドレーヌより、うんと甘いとか。白樺シロップが入ったキューブチョコレートもあるそうです。シロップの甘さがダイクレトに楽しめると聞きました」
どれも屋台のお店を回り、夕食を調達している時、前後で並んでいる貴族に教えてもらったり、屋台の店員さんに聞いたりした情報だ。ランスはそういった情報収集活動が、秀逸だった。
「どうされますか、アリー様」
ニッコリ微笑むランスに促され、その結果……。
ランスは白樺のジュース、私は白樺のシロップ入りのローズヒップティー。スイーツは、ゼリーとマドレーヌはシェア、チョコレートは一人一粒ずつ購入した。
一番美味しかったのは……白樺のシロップ入りのチョコレート。白樺の樹液の味をダイレクトに楽しめ、さらにチョコレートも実に上品な味わい。しかもサイズも小さいのでパクリと食べることができた。
「お腹は満たされましたか?」
「はい。ランス様のおかげで、食べたいと思ったものは、全部いただくことができたので、大満足です」
「それは良かったです」
ニコニコと微笑むランスが、なんだか神に思えてしまう。私の願いを全部叶えてくれる!
「食べ物や飲み物を扱う屋台はほぼすべて見ましたが、それ以外の屋台もあります。見てみますか? 満腹なので、少し動いた方がいいでしょう」
これには大賛成。
食事を終えた貴族たちは宿へ戻り、さっきまでと比べ、人出も減っている。これなら歩きやすいだろう。
あ、でも、そうなると、もう手は……。
「行きましょうか」
ランスが私の手を取る。
人出は減った。でもこうすると手が温まるから。
不安になる必要なんてなかった。
ちゃんとランスは、私と手をつないでくれる。
その事実に嬉しくなり、チラリとランスを見ると。
ランスの頬は、食後だからだろうか。少し赤い。そしてやはりぽわっと優しく光っている。
こんな風に輝いていると、魔物も迂闊にランスには近寄れないわね。
もしこの世界に聖女が現れたら……。
ランスは聖女の護衛確定だ。
彼の生命力があれば、聖なる武器だって不要なのだから。
考えるだけ無駄なのに。
もし私が聖女だったら、ランスとずっと一緒にいられた。
そう、夢想してしまう。
「アリー様、見てください。これは何でしょうか?」
ランスの声に顔を上げると、なんだか不思議なものが、店先に並べられている。
「いらっしゃいませ、お客様。これはスノードームというもので、隣国の万国博覧会で誕生した置物です。詳しい仕組みを話したら……夢がなくなってしまうので、秘密です。ですがこのドームの中で舞う雪は、大変綺麗でしょう。こうやって逆さにして、ポンと置くだけで……。雪が舞い散ります」
スノードームの中にはお城だったり、教会だったり、森だったり。いろいろな模型のようなものが入っている。そして回転させると、その建物や森に雪が舞い散り、幻想的だ。
「これは近くでやっている芸術祭の限定品です。贈り物としてとても人気で、残り二個しかありません」
それは他とは違いスノードームの中に模型はない。白い雪が底に溜まっているだけだ。ただ、土台は陶器でており、ゴールドで飾られとても美しい。読むことができない不思議な文字も刻まれている。
「どうしてこれがそんなに人気なのかしら?」
「この土台が豪華だから……でしょうか」
ランスと私が真剣に話し込んでいると、店主の女性はクスクスと笑う。そして何やらランスに内緒話をする。ランスは店主の話を聞き「!!」となり、その顔はキラキラと輝き、さらに全身がぱあぁぁっと輝いた。
「一つください」
ランスは購入を決めていた。






















































