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聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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30:魔法のような言葉

「アリー様……食事に行きましょうか。クリーニングをお願いした際、宿のレストランで食事を出るか確認したところ、あいにく満席でした。どこの宿も満室で、レストランも満席と言われ、どうしたものかと思ったのですが……」


 手にクリームをつけ終えると。

 ランスからは輝きが消え、彼の呼吸が乱れているように感じたが、それもなくなってしまった。おかげで私の気持ちもすっかり落ち着いてくれた。


「ホリデーシーズンが近いので、マーケットが出ているそうです。この宿場町の中央広場には、沢山の屋台が出ているとのこと。そちらで食事をするのはいかがですか?」


 この提案には嬉しい気持ちが高まり「ぜひ、マーケットへ行きましょう!」と答えていた。村でもこの季節、村の中央の噴水広場には、小規模ながらマーケットが出る。平日の昼間だけのマーケットだが、修道院で作ったお菓子も販売していた。


 村では舞踏会やオペラなんてない。娯楽が少ないので、マーケットが出ると、村人はみんな、大喜びだった。


「宿のレストランや、飲食店であれば、貴族が食べるような料理を楽しめます。マーケットの屋台の料理で、よろしいのですか?」


 ランスにそう言われると、自分が平民丸出しであることに気づき、顔が赤くなる。


「そ、そうですよね……。マーケットであれば、村でもありますし、屋台なんて……。伯爵家のご子息であるランス様は、利用されませんよね」


「アリー様、そう言った意味で言ったわけではありません。普段、食べないようなものを楽しめたら、アリー様が喜ぶのではと思っていたので……。ついレストランではなくてもいいのか、そう聞いてしまっただけです」


 真摯な声でそう言うと、ランスは私の手を取り、甲に口づけをする。

 いきなりだったので、腰が抜けそうになった。

 さらにぽわっとランスが輝き、また彼がキラキラして見えた。


「自分はアリー様と一緒であれば、どんな食べ物でも構いません。あなたが『美味しい』と笑顔でいてくだされば、どんな物でも美味しく感じられると思います」


 ランスの言葉がとても嬉しく、そして……不思議に感じる。

 どうしてこんなにも私を喜ばせる言葉を、口にしてくれるのだろうと。


 私が知る孤児院や修道院にいる男性は、こんな言葉は口にしない。


 そこでああ、そうかと気づく。


 聖騎士ではあるが、ランスは伯爵家の次男。

 社交界に顔を出していた日々もあるはず。


 きっと女性慣れしているのね。


 どんな言葉を口にすると、女性が喜ぶのか。

 ランスはよく分かっている。


 もしかすると髪飾りの件も、リップサービスに過ぎないのかな。


「美味しいものは売り切れてしまうかもしれません。行きましょう、アリー様」


 私が考え込んでいる間に、ランスはシリルがプレゼントしてくれたロングケープを、私の肩に羽織らせてくれた。


「ありがとうございます」


 もうランスと一緒にいられる時間は少ないのだから、余計なことをうじうじ考えるのは止めよう。彼が女性慣れしていようと関係ない。どのみち平行線で交われない二人なのだから。


 微笑んだランスにエスコートされ、部屋を出た。


 ◇


 さすが宿場町のマーケット。

 村のマーケットとは、全然違う。

 まず、屋台の数が多い!

 広場も広いし、それに客層が……。


 毛皮のローブやケープ姿の貴婦人が沢山いる。

 レストランもいいだろうが、普段食べることのない料理に興味があるのだろう。

 マーケットには沢山の貴族、その貴族がつれる護衛の騎士がいた。


「アリー様、お肉料理以外ですと……サーモンとほうれん草のキッシュ、キノコのパイ、窯焼きの野菜、フライドポテト、野菜のスープなどがありますが、どうされますか?」


 本当に。どうしましょうかと悩んでしまう。どれも美味しそうに見える。


「まずはそれぞれの屋台を、のぞいてみていいですか?」


「勿論ですよ。……ただ、混雑しているので、エスコートでは離れ離れになる可能性があります。もしお許しいただけるなら、手をつないでもよろしいですか? 盗賊の件もありますので、アリー様のおそばを離れたり、見失ったりすることがないようにしたいのです」


 ランスは少し頬を赤くし、そしてぽわっと輝きながら、私に尋ねた。


 人出は多いし、はぐれると困る。何より迷子になりそう。手をつないでもらえるなら、つないでほしいと思っていた。だから快諾すると……。


 革製のガントレットをつけていたのに。

 ランスはそれを外した。


「え、なぜ、ガントレットをはずすのですか?」と聞きたかったが、何か理由があるのだろう。聞かずにいると、私に手を差し出しながら、ランスは自身のホワイトブロンドの髪をかきあげた。その瞬間、とても明るく彼は輝いている。そのうえで尋ねてもいないのに、こう教えてくれた。


「外は冷えますよね。アリー様は手袋をお持ちではないので、直接手をつないだ方が、手も温まるかと思ったのです」


 防寒対策を考えてくれたのだと分かった。


「お気遣いありがとうございます、ランス様! 確かに手袋はないので、助かります」


 そう応じて、ランスの手に自分の手を重ねると。


 眩しい!


 ぎゅっとランスが私の手を握り締める。

 思わずドキッとした瞬間。


 ランスが輝いた。

 あまりにも眩しくて、目を開けていられない。


 ランスと手をつないでいるドキドキより、眩しさに気を取られ、必要以上に興奮せずに済んでいる。


「行きましょうか、アリー様」「はい」


 輝くランスと手をつなぎ、歩き出した。

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