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そんなことよりカレーが食べたい。  作者: すけさん
第五章 異世界はカレーを超える料理を生み出せるか?
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「何を考えている! イタミ卿!」控えの間に下がった途端に、浩二の元へとリリム将軍が詰め寄ってきた。「最初に決めていた手順と全く違うではないか! 陛下にあのような勝手な約束など取り付けて、これでは会談の予定がめちゃくちゃだ!」


魔王軍四天王の一人、サキュバスのリリムは今回の停戦交渉にあたり、魔王側の調整役を買って出てくれた影の功労者の一人である。

彼女はこの場においてもオスの性欲を刺激する蠱惑的な容姿を惜しげもなくさらしつつ、その中身は生粋の武人であるとともに、身勝手な同僚たちに振り回されてばかりの苦労人だったりもする。

だいたい交渉事などは本来は事務方レベルで粗方の合意は澄んでおり、今回の会談は最終確認のための儀式的な意味合いが殆どであったはずだった。

その事務方の魔族側の一方として前日まで徹夜で調整に当たっていた当人がこのリリム将軍である。

そしてそんなリリム将軍の苦労を先ほど台無しにしてくれたのが目の前にいる浩二であった。


すっかり涙目となったリリム将軍が「貴様あっ!」などと奇声を上げ、浩二の胸倉を両手で掴み、グラグラと浩二を揺さぶってくる。


遅れて駆けつけてきた成美もまた浩二に向かって怒鳴り声をまき散らす。

なお調整役のもう一方として口内炎に苦しみながら人族を取りまとめた第一人者が、誰あろうこの成美であった。

「なに考えてるの! 浩二くん! 勝手な思い付きで話をめちゃくちゃにして! 勝算はあるんでしょうね!? 万一の事があればあなただけじゃなくて私たちの命も危ういのよ! 大丈夫なんでしょうね!?」

「勝算などない!」浩二が即答すると、「浩二ぃっ!!!」激昂した成美はリリムと二人して浩二の胸倉を掴んでは激しくゆすり出す。


魔族軍幹部と召喚勇者は不倶戴天の怨敵であるはずが、まったくもって実に息のあったコンビネーションプレイであった。


あまりの激しさにシャツが千切れて吹っ飛ばされるように床に転がった浩二の元に、眉をハの字にしたハイエルフのタリアがスッと近寄り、支えるようにして浩二を抱き起す。

「いつもの事ながらご無理を為されます、コージ様。どうかご自愛ください。」潤んだ瞳で訴えかけるように浩二を覗き込むタリアに、さすがに浩二も思うところがあったか、「済まなかった。」と頭を下げた。


そんな二人の様子に「あざといなぁ」と成美がジト目を送り、「タリアトーレ殿はわたしと種族を逆にしたら良いのではないか」とリリムが一人呟いた。


すっかり毒気が抜けた様子の成美がため息とともに、「それで、これからどうするの?」と声を掛ける同じタイミングで乱入してくるものがあった。


「コージ・イタミ! コージ・イタミはどこにいる!?」

控えの間に飛び込んできたのは少年の格好をした美しい容姿の子供であった。短く切りそろえらえた見事な銀髪をたなびかせ、必死の形相で浩二の名を連呼しつつ辺りをきょろきょろと見回している。


「……殿下!」その場で素早く臣下の礼を取るリリム将軍。これを目にした浩二たちも慌てて同じように跪く。


魔王には老いてから竜人族の姫との間に儲けた一粒種があるという。竜の血と魔の血を等しく引き継いだその子供は生まれながらにして強力な力を有するとともに、とても利発な見目麗しい皇女であると噂に上っていた。


なれば目の前の少年の格好をした子供こそがリシャーナ姫その人であるに違いなかった。


敵地魔王城に交渉のため乗り込むにあたって、いかに地の利は魔族側にあると言えど、最強戦力の一角である聖女・柿野坂 成美などが随行している人族陣営に対し、魔王のアキレス腱とも言えるリシャーナ姫とお目通りする機会などないはずであったが、その皇女がまさか向こうから浩二の前に転がり込んできた。


何やら思いついたらしき成美の瞳がキュピーンと光り、どこから取り出したかメリケンサックを手に嵌めて戦闘の準備をする。

対外的には聖女の中の聖女と名高い成美であったが、その実は回復魔法をおのれに掛け、たとえ全身が砕けようとも物理で殴り続けるバリバリの武闘派であった。


対するリリムも周囲のオスどもから精気を無理やりに吸い上げつつ即座に臨戦態勢に入る。



だがそんな緊迫する空気に気付く素振りもなく、涙目となった少年のような姫が「コージ・イタミはだれか!?」と声を上げるので、浩二は「ここに!」と、顔を伏せたまま返答をした。


すると姫は慌てた様子で駆け寄ってきて、浩二の足元に膝をついて訴えかけてきた。

「お前のせいでお父様の容態が芳しくないのだ! 人族たっての願いだというからお父様は無理を押して交渉の席についたのだ! それを更に延長するだと! 更にひとたび会食の席を設けるだと! これ以上お父様に無茶をさせるな! 何様のつもりか!」


だが浩二はそんな皇女の悲痛の訴えを気に留めるでもなく、ガバリと顔を上げると、嬉しそうに一挙にまくし立てた。

「これは良いところにお越しいただいた、皇女殿下よ! まさにその会食の席について相談があるのです!

魔王陛下のお身内とあらば色々とご存じでありましょう! 陛下の事、色々お聞かせいただきたい!


このオレはぜひとも次の晩餐を成功させねばならぬのです! お体の具合が悪いのであればなおの事失敗は万に一つも許されぬ!

さあ協力していただきますぞ!」


「えっ!?」思わず後ずさる皇女殿下。にじり寄る浩二。「えっ? えっ?」

こうして愛くるしい少年のようなリシャーナ姫は浩二に捕えられた。



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