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【連載版】全力でドアマットヒロインを演じてみたところ、いつの間にか父親が社会的に詰んでた件について  作者: 逢月 悠希


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04.王太子が来てしまった。

 朝。

 コンコンコン、とドアがノックされた。


「何……?」


 ミラー子爵家に来て、5日くらい経った。

 ちょっと気が抜けてきたものだから、昨夜は義母&義姉とビジュアルの大切さについて語り明かしてしまった……そのせいで、眠い。もうちょっと寝かせて欲しい。


 そして流石は母娘というべきか、オリビアも割と顔は気にする方なのだと判明した。

 ……とはいえ彼女はやらかした過去を持つメリッサから「嫌かもしれないけれど、顔以外もちゃんと見るのよ」と教わって育ってはいるようだが。


 でも、やっぱり『好み』というものはある。仕方がない。

 そしてある程度は男らしさを求める私とは違って、オリビアは中性的なアイドル系が好みらしい——()()()()の危険性は無いと分かったから、私は安心していた。


 コンコンコン、と再びノックの音が響く。

 二度寝を許してもらえる空気ではないらしい。


「はーい」


 うっかり不機嫌そうな返事をしてしまった。

 いけない、ちゃんとドアマットしなきゃ!


 私はベッドから飛び起きて、ドアを開いた。

 ドアの向こうで、ミラー子爵家のメイドがびっくりして目を見開いている。

 そろそろ慣れて欲しい。ドアマットは身支度してもらえるのが当たり前じゃないんだから。


 私はしおらしくメイドに話し掛ける。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません」


「い、いえ! お嬢様が謝ることでは……ただ、その、お手伝いしますので、早急に身支度をしていただけますと……」


「どなたかいらっしゃったのですか?」


「セドリック王太子様がいらっしゃいました」


 ……は?



 〇



「やあ、アリシア嬢。無事で何よりだ」


「……」


 本当にセドリックがやって来てしまった。

 まさかの『王太子が来る』という異常事態に対して、ミラー子爵家に仕える人たち——どころか、当主を含めた関係者各位が慌ただしくなっている。


 セドリックは自分の立場をちゃんと理解して行動して欲しい。

 困らせるのは良くないと思う。


 巻き込み事故的なノリでオリビアとメリッサ、そしてメイド数名も同席させられている。

 当たり前なんだけど、ガッチガチになっている。

 特にオリビアとメリッサに関しては、小説で発揮していた屑っぷりは一体何だったのかと問いただしたくなるレベルでガッチガチになっている。


 そんなことは知らんと言わんばかりに、セドリックは私に微笑みかけた。


「フォーサイス公爵に関しては噂話が絶えないからね。どこまで本当なのかは分からないのだけど……ひとまず君たちが公爵邸から逃走したこと自体は事実みたいだったから、確認に来たんだ」


「王太子様ご自身が来られなくても……」


「様子を見たくて」


 様子を見たくて、という雑な理由で、片道3日の長距離移動をしないで欲しい。

 私の考えを察しているのかいないのか。セドリックは眉尻を下げる。


「……。すまない、追い掛けるような真似をして」


 これは——ドアマットだな。

 ドアマット案件だな。私は、カイル君のことを考えた。


「い、いえ……公爵家の人間でありながら、逃げ出すような真似をした私が悪いのです。ですのでどうか、お義母様とお姉様には……そして、ミラー子爵家には、どうか……」


 私が悪い。

 だから、何もしないで。

 その代わりに、何でもするから。


 全力でそんな空気を出すと、完全に騙されているオリビアとメリッサが「アリシア……」と声を震わせる。

 何なら、揃って「アリシアではなく、私に罰をお与えください!」と言い出しそうな勢いだ。……とんでもなく騙されている。


 ついでにメイドたちも「連れ戻されるかもしれないと、怯えているのですね」、「やはり公爵家と王家は切っても切り離せない繋がりがあるから……」と謎の解釈をしている。


 式典中もそうだったけれど、レイモンド・フォーサイスが『公爵』であるがゆえに、勝手に終わる。

 全然可哀想じゃないけど、可哀想に。


 皆の様子を見て、セドリックは柔らかく笑ってみせた。


「大丈夫、何もしないよ」


 好みではないけれど、華奢で綺麗な男だ。

 どこか妖精のような可愛らしさもある。俗に言うアイドル系だ。

 ……完全にオリビアの好みだ。やっぱり押し付けたい。


「怖がらせるつもりはなかったんだ。無理矢理何かをしようという意思はない。安心して欲しい」


 そうしてセドリックは、私からメリッサへと視線を移した。


「……ただ、噂がどこまで本当か確認させて欲しいんだ。面白いから訂正する気はないけれど、事が大きいから」


 おい、()()()()()って言ったな!?

 この王太子、さては腹黒いな!? 腹黒フェアリーだな!?


 メリッサは困惑しながらも、口を開く。


「アリシアの殺害に関しては、本当に口にはしていました。……ただ、お酒が入っていたので、どこまで本気なのかは分かりません。それでも『アリシアを殺せば、オリビアを王妃にできる』とかなりはっきり言っていたのと、『アリシアと王家の結びつきが強くなれば、私はおしまいだ』と何度も呟いていました」


「なるほどね?」


 まあ、実際問題『おしまい』だろうね。

 間違いなく若い子爵令嬢に手を出してること以外も色々やってるだろうし。


 私が王家に嫁いだら、その辺を豪快に暴かれちゃう可能性あるし。

 そういう意味でも、アリシアを王家に近づけるのは嫌だろうね。


 メリッサは、話を続ける。


「お酒が入っているとはいえ、何度も繰り返すような状態となっていた上に、私に『お前は味方だよな?』と繰り返し言うような事態になっていまして……途中で侍女が薬を混ぜた飲み物を持ってきてくれたので……少々大げさではありますが、逃げだすことにしました」


「泥酔状態だったせいで変なことを口走った可能性はあるけれど、普通に危ういからね。誤った判断だとは思わないな。特に『私はおしまいだ』の方が相当に気になる。本題はそっちな気がするし」


「そうですね。オリビアの名前を出せば、私を味方にできると思っていたのでしょうし」


 私は随分と呆れかえった様子のオリビアと顔を見合わせる。

 さらっとアルコール入りまくってる状態で侍女に薬を飲まされた事実が判明したけれど、それ一歩間違ったらアレだったぞ。大丈夫か?

 そういうことをされている辺り、本当にレイモンド・フォーサイスにはお金しか味方がいないかもしれない。


 ふむ、とセドリックは深く頷く。


「まあ、放置しよう。真相不明な時点で噂の火消しをする必要性は感じないね」


 ……とか何とか言ってるけど、()()()()()でしょ、本音は!

 セドリックは「次は」と前置きをして、少し申し訳なさそうにメリッサを見た。


「言いたくなければ無理強いするつもりはない。あなたが無理矢理連れ去られた、というのは?」


 とんでもない噂が流れている。

 愉快な噂が流れている。メリッサはすっと、目を伏せた。


「その……実際のところは、無理矢理、というほどでは……」


「無理矢理ってことにしとこう。良いね?」


「えっ」


「こっちも事情があるんだよね。ちょっと面白いことになってるんだよね。だから多分、そうしといた方が良いと思う。フォーサイス公爵以外はみんな幸せになれるからさ」


「あ、はい……」


 ……王太子の一声でメリッサがフォーサイス公爵に無理矢理連れ去られたことになってしまった。


 まあ、ここまでの事態になっちゃうと、フォーサイス公爵を庇う方がリスクあるもんね。

 王家的にも庇いに行くメリットが全く無いんだろうな。仕方ないよね。


 腹黒フェアリーの口からしれっと「ちょっと面白いことになってるんだよね」っていうとんでも発言が飛び出してたけど、それは聞かなかったことにしよう。


 とりあえず私はまだ何かしら話したそうにしているセドリックの方に、集中することにした。



 セドリックの話は、まだ続く。

 続く——が、この時点でフォーサイス公爵的には相当によろしくない状況と化していた。

 何しろ『王太子が直々に話を聞きに行った』という状況が爆誕してしまったからだ。


 わざわざ遠方の子爵家に出向いてまでアリシアたちに会いに行った王太子セドリックが、その後、()()()()と言い切っても良いほどにフォーサイス公爵の噂を訂正しなかった——既に(社会的に)相当に終わっているレイモンド・フォーサイスは、容赦なく死体蹴りされた。

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