002_再生数取れんのかよ!クソったれ!
私の名前は卯月すみれ、年齢は25。
性別は女……この情報、要る!?
どこにでもいる普通の会社員だ。
普通の高校に通って普通の大学を出て……
今は奨学金の返済に追われている。
私の人生はいたって平凡なものになると確信していた。
まず見た目が地味ですし?視力わるいからメガネかけてますし。
最近共感した言葉は「人生送りバント」だ。
野球の事はあまり知らないんだけど……
自分の打席が回ってきたときに1塁ランナーがすでに出ていて、
しかもアウトカウントは0。
次の打席にはほぼ確でヒットを打てる打者が控えている。
……これははっきりいって物凄く幸運なのでは?と最近思うんです。
そう、私は物凄く幸運なのかもしれない……
「お姉ちゃん、起きて。」
こうやってめちゃくちゃ可愛い幼女に毎朝起こされるなんて……
しかも某有名声優の声で。
ちょっと待て。私の平凡な人生にとんでもない異物が入ってきたな!?
この子の名前はリンネヴェール。愛称リンネ。
スマホゲー「ぷちモン☆だんじょんず!」の登場キャラにして、
私の推しキャラだ。尊い。
何を言ってるかわからないかもだけど、そのリンネが現界したの。
「はいはいはいはい、いま起きるから。」
こうやってリンネに毎朝起こされているのは理由があるの。
召喚されてきた翌日の朝に、リンネが目覚まし時計を破壊したから。
まさかあんな巨大な剣を軽々とぶん回して時計を12等分するとは。
彼女いわく、睡眠を妨害する悪質なトラップ、だそうだ。
魔界では睡眠は何より大事なリソースらしい。
はあ、私も魔界に行きたいよ。
こうやって毎朝寝ぼけながら会社に行くなんて最低だ。
「お姉ちゃん、今日もカイシャに行くの?」
「うん、今日も行くよ。」
「私も行きたい。」
いや無理だからね?小さい女の子連れて行ったら守衛に弾かれる。
「暇だったら私のパソコンいじってなさい。」
「やだ。」
「おりこうに待っててくれれば、週末遊びに連れて行ってあげるから。」
「終末?この世界はもう滅ぶの?」
「終末じゃなくて週末。1週間って7日あって、そのうち1日が休みなの。」
「聖書の記述をちゃんと守ってる。人類、えらい。」
悪魔が聖書の記述に言及するの!?
まあとにかく行ってきます!
私は食パンをくわえながら部屋を出た。
「センパイー!聞いてくださいよー!」
「またリンネヴェールの話?」
「そーなんす。もう大変で大変で!」
「ゲーマーとしては嬉しいポイントしかないんだが?」
この人は私の先輩。歳は27か28で、男。
「センパイは誰か現界させたんですー?」
「いや、どこのニュースにもぷちモンが現界したという情報は無い。」
「そういうのあったらSNSで話題になりますよね?」
「確実になるだろ。マイナー感あるが注目タイトルのひとつだから。」
「はあ。リンネちゃん……大丈夫かな……」
「あ、新着ニュースだ。」
「なんかあったんです?」
こうして情報収集を先輩に丸投げしているのは、私がスマホを失ったから。
「……ダンジョンが出現した、らしい。」
「はっ!?」
「今日のニュースだが……2か月前からすでに現れていたと。」
「2か月前って言うと……」
「ちょうどぷちモン☆だんじょんず!のリリース日だな。」
ええー、そんな情報。にわかには信じられないんですけど。
「今週末から一般開放されるらしい。」
「ちょっと待って。どこのニュース?フェイク系メディア?」
「……共同通信社とSNSの特務機関NERVだ。」
「うっわ。それガチのヤツじゃないですか……」
今週末……一般開放、今週末……
「うわー、これがダンジョンかー!」
私はリンネと東京メトロ銀座線の新橋駅……の、
幻のホーム、旧新橋駅のホームに来ていた。
「すごい。この世界のカボチャの馬車、速い。」
初めて電車を見たリンネは電車をカボチャの馬車と表現してた。
「ダンジョンは見ても驚かないんだ?」
「多分だけど、いっぱい見た気がする。」
入り口には全身カーキ色の女性が立っていた。
うっそ。本物の自衛隊員じゃん!生で見るのは初めてだな……
「参加をご希望でしたら、まずこの誓約書にサインをお願いします。」
一枚ずつ紙を渡される。
[私はダンジョン内で命を失っても文句を言いません]
とデカデカと書いてある。
「これにチェック入れて名前を書けばいいですね?」
「はい。あんまりおすすめはできないのですが……」
その女性の後ろから悲鳴が聞こえた。
「た、たすけ……うわー!!!」
「誰か!戦える者は!」
「ダメだ!強すぎる!」
私の隣にいたリンネはいつの間にか消えていた。
「リンネ!」
私は内部へと駆ける。
「……ひとつ目巨人。」
およそ3メートルを優にこえる一つ目の巨人一体と、リンネが対峙していた。
リンネは私のおさがりのぶかぶか服を着ていて防御力ゼロ。
あの大剣も部屋に置いてきてある。攻撃力ゼロ。
……入り口付近は制圧してあるから安全じゃなかったの!?
リンネは飛び上がるとひとつ目巨人の首をぐるぐるんと3周ひねった。
ひとつ目の巨人は倒れる。あの首の形……まあ即死ですよね。
「す、すごい!助かった!」
「ありがとう!」
周囲には10人くらいの人がいて……
そのうち一人はスマホのカメラを向けていた。
「やられた……」
家に帰り確認すると、その配信は鬼のようにバズっていた。
戦闘シーンの切り抜きショート動画もがっつり作られていた。
ふざけるなよ……他人の作ったチャンスでホームラン打ちやがった……
私が……私が配信するから!リンネちゃんを撮っていいのは私だけ!
今週中に!スマホ!買い換えます!
絶対にだ……!




