第8話 怨恨の清算
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夜になるまで、ブランは男を見張っていた。
その頃、猫カフェでは珍しくクロウと真壁が口論していた。
「私も何か手伝いたいです」
真壁の言葉に、クロウは静かに視線を向ける。
「今回は……許せないんです」
「危険だ」
「判っています」
「でも……今回は私も行きます!」
真壁がここまで感情を表に出すのは珍しかった。
きっと、田辺の話に感情移入してしまったのだろう。
クロウはしばらく真壁を見つめていた。
そして、ゆっくりと目を閉じる。
再び目を開き、一言。
「判った」
真壁の顔が少し明るくなる。
「ありがとうございます」
「準備してきます」
―――
ブランと合流すると、ブランは呆れたように尻尾を振った。
「クロウさん、何してるのさ」
「真壁さんに何かあったらどうするの?」
真壁が微笑む。
「大丈夫です」
「相手は危険だよ?」
「ブランが守ってくれるでしょ?」
「そりゃ……守るよ」
「クロウさんも守ってくれます」
クロウは2人の会話に参加しない。
ただ静かに目を閉じていた。
―――
日が落ちる。
男が動き始めた。
未成年という立場を盾に、計画的に犯行を繰り返す。
ただのクズだった。
男の後を追う。
向かった先は駅。
「物色中だね」
ブランが呟く。
そして振り返る。
「あれ?」
「2人は?」
その時。
駅の構内から真壁が現れる。
バッグを肩に掛け、男の前を通り過ぎた。
男の視線が真壁を追う。
そして、そのまま後ろを歩き始めた。
ブランの目が細くなる。
「掛かった」
ブランは決して真壁から目を離さない。
いざとなれば、いつでも飛び出せる。
やがて真壁は公園へ入る。
人気のない場所まで来たところで、男が前に回り込んだ。
「ねぇちゃん、金ないんだ」
「恵んでくれよ」
真壁が一歩下がる。
「な、何ですか……」
「警察呼びますよ!」
男は笑いながらナイフを取り出した。
「呼べよ」
「もう1人殺してるし」
「未成年だしな」
真壁の顔が強張る。
男はニヤニヤしながら近付く。
「金出せよ」
「いいバッグ持ってるじゃん」
「それより、いい女だな」
「体も貰おうかな」
真壁は怯えたようにバッグを差し出した。
男は何の疑いもなく受け取る。
その瞬間。
真壁は走った。
ブランも同時に動く。
だが男は追い掛けない。
笑いながらバッグを地面に置いた。
「さて、何が入ってるかな」
バッグを開いた、その瞬間。
黒い影が飛び出した。
「なんだ?」
「何か飛び――」
最後まで言葉は続かなかった。
首元から鮮血が噴き出す。
男は喋ることも。
動くことも出来ない。
クロウは男を見ることすらしなかった。
ただ静かに着地すると、何事もなかったように夜の中へ消えていく。
その後を、ブランと真壁が追った。
―――
翌日。
田辺は新聞を見ながら泣いていた。
「ありがとう……」
「ありがとう……」
何度も。
何度も。
お礼の言葉を口にしながら。
―――
仏壇の前。
田辺は涙を流しながら、笑っていた。
「和子」
「仇は討ったよ」
「お前は怒るかもしれないな」
「優しいからな」
「怒られても、仕方ない」
田辺は小さく笑う。
「それとな」
「凄い話があるんだ」
「向こうで会ったら話すよ」
「きっとお前も驚くぞ」
「楽しみに待っててくれ」
病院の封筒が、静かに横に置かれている。
田辺は今まで見せたこともないような穏やかな笑顔で、仏壇の写真を見つめていた。
今後もよろしくお願いいたします。




