第9話 家族
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブランが散歩をしていると、一組の親子が脇を足早に駆け抜けていった。
母親の顔は険しい。
娘は泣いていた。
「ごめんね、でも急いで!」
「うわぁーん!ママ、痛いよー!」
ブランの耳が動く。
「虐待?」
「それなら、ちょっと許せないかな」
ブランは気付かれないように後をつけた。
親子が入ったのは古いアパート。
そして。
「ごめんね……」
「ごめんね、ゆあ……」
母親は何度も娘に謝っていた。
ブランは目を細める。
「これは違うな」
「……」
何も見なかったことにする。
ブランは優しい。
だが、厄介事に首を突っ込み、クロウや真壁を巻き込む訳にはいかない。
それでも。
帰る足取りは少し重かった。
―――
「ただいまぁ♪」
猫カフェに戻る。
「お帰りなさい」
真壁が笑顔で迎える。
クロウは片目を開け、ブランを見た。
「クロウさん、どうしたの?」
「あー、お腹空いたんでしょ?」
ブランは明るく振る舞う。
だが。
クロウは目を閉じようとはしなかった。
―――
数日後。
食事の前。
真壁が少し暗い顔で口を開いた。
「明日、依頼人が来ます……」
「真壁さん、どうしたの?」
「なんか元気ないよ?」
「そ、そんなことありませんよ」
「あー」
「依頼人が可愛い人で、クロウさん取られると思ってる?」
「ち、違います!」
「ご飯にしますよ!」
「あはは♪」
「もしかして当たったかも」
クロウは終始目を閉じていた。
―――
翌日。
猫カフェはいつも通り営業していた。
常連客。
初めてのお客様。
穏やかな時間。
だが。
閉店間際になっても依頼人は来なかった。
「真壁さん、依頼人は?」
「どうしたんでしょう……」
「ちょっと内容が内容なので、心配です……」
閉店後。
真壁が話し始めた。
「元旦那さんが執拗に追い掛けてきているそうなんです」
「逃げても逃げても……」
ブランの表情が曇る。
「それは……辛いな」
その時だった。
ガン!ガン!
シャッターを叩く音。
「すみません!」
「遅れて申し訳ありません!」
「開けてもらえませんか!?」
真壁が慌ててシャッターを開ける。
そこに立っていたのは、かなり若い女性だった。
「遅れてすみません……」
「真っ直ぐ来る訳にはいかないと思いまして……」
女性は深々と頭を下げる。
そして。
その後ろには。
泣きそうな顔をした小さな女の子。
「とりあえず中へ」
真壁は二人を迎え入れる。
シャッターを閉めようとした時。
真壁はふと振り返った。
誰もいない。
「気のせい……?」
真壁はそのままシャッターを閉めた。
―――
「奥へどうぞ」
「娘さんはどうしますか?」
「こちらで見ていましょうか?」
「お願いしてもいいですか?」
「もちろんです」
真壁は笑顔を向ける。
「お名前は?」
「ゆあ」
「ゆあちゃんね」
「ゆあちゃんは、ねこちゃん好きかな?」
「好きー!」
真壁が微笑む。
それを見て、女性は店の奥へ入っていった。
―――
ソファーには黒猫。
その横には白黒の犬。
女性は立ち止まる。
誰かを探すように周囲を見回した。
「依頼内容を話してください」
【虐待を疑った人だ、良かった……】
「……!」
「しゃ、喋った!?」
「話せ」
クロウの一言に、女性は一歩下がった。
「クロウさん!」
「ごめんね」
「話は僕が聞くから」
「依頼内容を話してください」
「は、はい……」
女性は震える声で話し始めた。
「別れた夫が……」
「しつこく付きまとってきて……」
「このままじゃ……」
「私も、この子も殺されます……」
女性は俯く。
「見てもらった方が早いと思います」
「信用してもらえないかもしれないので……」
震える手で上着を脱ぐ。
袖をまくる。
紫色の痣。
赤く腫れた傷。
ブランは思わず目を逸らした。
クロウだけが静かに傷を見つめる。
そして。
「判った」
女性の目から涙が溢れる。
「依頼を受けていただけますか?」
クロウはブランを見る。
「最短でも一日は欲しい」
「でも、このまま帰すのは危険だ」
「真壁さん、ちょっといい?」
真壁がゆあと一緒にやって来る。
ゆあは母親にしがみついた。
真壁はブランの話を聞き、静かに頷く。
「桜井さん」
「今日はここに泊まってください」
「依頼を受ける前に調べることがあります」
「ですが、このまま帰すのは危険です」
「申し訳ありませんが、今夜はここにいてください」
「ご迷惑では……?」
クロウ。
「ない」
その一言で。
全てが決まった。
今後もよろしくお願いいたします。




