第5話 理不尽
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第5話
いつも通り猫カフェが開く。
真壁はパソコンに向かい。
ブランは店の奥で昼寝。
クロウは常連の女性の膝の上で、気持ち良さそうに喉を鳴らしていた。
いつもの平和な日常。
それを壊したのは、閉店間際だった。
客もいなくなり、クロウが店の奥へ向かおうとした時。
カラン、カラン。
「すみません、まだ大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声だった。
秋山恒一。
依頼は遂行しなかった。
だが、それ以来、彼との縁が切れた訳ではない。
真壁が顔を上げた。
「あら、秋山さん」
「どうされたんですか?」
秋山は困った顔をしている。
「すみません……相談がありまして」
「真壁さんしか頼れなくて……」
真壁とブランは僅かに警戒する。
依頼の話なら断るしかない。
この店は、誰でも裏の仕事を頼める場所ではない。
だが。
「実は……この子が困ってまして……」
秋山が横へ避ける。
その後ろには、子猫を抱いた女子高生が立っていた。
今にも涙が溢れそうな顔。
「すみません……」
「助けてもらえませんか……?」
「この子が……」
言葉にならない。
涙がこぼれた。
真壁は慌てて駆け寄る。
「大丈夫!」
「どうしたの?」
しかし女子高生は泣いてしまい、上手く話せない。
代わりに秋山が説明する。
「この子が路地で見つけたんです」
「でも家で飼えなくて……」
「しかも、この子猫、動かないんです」
「助けてほしいって言われたんですけど、うちは飲食店で……」
「頼れるの、真壁さんしか思いつかなくて……」
真壁の表情が変わる。
「……そう」
「とりあえず、この子は預かります」
女子高生が顔を上げる。
「ほ、本当ですか……?」
「ええ」
「まずは病院ですね」
「まだ助かるかもしれません」
女子高生は涙を流しながら何度も頭を下げた。
「ありがとうございます……!」
「ありがとうございます!」
秋山も深く頭を下げる。
「すみません、急に……」
「助かります」
2人は店を後にした。
そして閉店後。
店の奥。
真壁が子猫の様子を見る。
その横で。
ブランが真剣な顔で体を調べていた。
そしてクロウは。
子猫の顔を優しく舐めている。
「……」
ブランの笑顔が消えた。
「これはケンカじゃない」
真壁も表情を曇らせる。
「そうですね……」
「足が折れてます」
ブランの目がクロウへ向く。
「クロウさん」
クロウは子猫から顔を上げる。
「調べろ」
短い一言。
真壁へ視線を送る。
真壁は小さく頷いた。
「この子は私が病院へ連れて行きます」
クロウは答えない。
ただ。
もう一度だけ、子猫の顔を優しく舐めた。
真壁が子猫を抱き上げる。
「行ってきます」
ブランは静かに立ち上がる。
「任せて」
「こういうの、嫌いなんだよ」
店の裏口から夜の街へ消えていく。
猫カフェに静寂が戻る。
クロウは一匹。
暗い店内で座っていた。
やがて。
その耳が静かに後ろへ倒れる。
ブランの言葉だけが残っていた。
「……最低だ」
「人間だよ」
「しかも」
「足が折れてる」
クロウは目を閉じた。
「ブラン……」
短い沈黙。
「頼む」
店内には誰もいない。
返事もない。
だが。
夜の街を駆ける白黒の犬には、
きっと聞こえていた。
今後もよろしくお願い致します。




