第4話 調査
いつも読んでいただきありがとうございます。
1日目
朝早く。
まだ店も開いていない時間。
ブランが裏口へ向かう。
「それじゃ、行ってくるよ♪」
真壁が見送る。
「ブランさん、気を付けてくださいね」
「大丈夫だよ♪」
「僕を誰だと思ってるのさ」
真壁が微笑む。
「はい。でも気を付けてください」
「私はハッキングを試してみます」
「うん♪」
「そっちこそ、バレないようにね」
「気を付けます」
クロウはソファの上で丸くなったまま。
目を閉じている。
だが、耳だけが僅かに動いていた。
2日目
夜。
「銀行の方は限界かな」
「今度は部長の家だね」
ブランが地図を眺める。
真壁もパソコンから目を離さない。
「私の方も、少し気になることがあります」
「部長のパソコンを調べてみます」
「了解♪」
ブランは軽い足取りで店を出て行く。
一方クロウは——
いつもの常連の女性の膝の上。
満足そうに眠っていた。
3日目
秋山恒一が来る日。
ブランと真壁の表情は、どこかいつもと違っていた。
2人は小声で話している。
クロウは常連の女性の膝の上で喉を鳴らしていた。
だが、その耳は2人の会話を聞いていた。
カラン、カラン。
店のドアが開く。
「すみません……」
秋山恒一だった。
表情は固い。
周囲の常連達が不思議そうに見る。
だが、
「こちらへどうぞ」
真壁が店の奥へ案内すると、誰も気にしなくなった。
真壁が店内へ戻る。
「クロウさん」
黒猫がゆっくり膝から降りる。
明らかに足取りが重い。
女性客が少し寂しそうな顔をする。
クロウは振り返りもせず、店の奥へ消えた。
「……やらない」
部屋に入るなり、クロウが言った。
秋山が立ち上がる。
「えっ!?」
「何て言ったんですか!?」
「敵を討ってくれないんですか!?」
真壁が静かに言う。
「落ち着いてください」
「落ち着けるか!」
「父を殺されてるんだぞ!」
「敵を取ってくれよ!」
秋山の声が部屋に響く。
クロウが目を細めた。
「……うるさい」
その一言で空気が凍る。
秋山は思う。
いや、感じる。
やはり、この猫は普通じゃない。
ヤバい。
秋山も真壁も黙った。
クロウは真壁へ視線を向ける。
真壁は小さく頷いた。
「結果からお伝えします」
「銀行も、部長も、お父様を殺してはいません」
秋山の顔から血の気が引く。
「そんな……」
「そんなはずない!」
「あいつが!」
「事故に見せかけて……!」
真壁は静かに首を振る。
「お父様は事故で亡くなられました」
「事故に関与した証拠はありません」
「ですが」
「銀行の強引な営業」
「部長の命令」
「精神的に追い込まれていたことは事実です」
「それでも——事故でした」
秋山はうつむく。
「なんで……」
「あいつが……」
「あいつさえ……」
クロウが再び真壁を見る。
真壁は1つの封筒を差し出した。
「この中に、部長の悪行が入っています」
「社会的に失脚させるには十分です」
「ですが」
「部長もまた、上からの圧力を受けていました」
「全ての資料が入っています」
「後は……」
「貴方が決めてください」
秋山の手が震える。
震える手で封筒を受け取る。
その時。
クロウが目を開いた。
「決めるのは、お前だ」
短い。
だが、重い。
秋山は封筒を見つめたまま動かない。
真壁は頭を下げる。
「今回は、依頼を遂行できません」
長い沈黙。
やがて。
秋山は深々と頭を下げた。
「……ありがとうございました」
そして店を後にした。
「これで良かったのかい?」
ブランが聞く。
クロウはブランを見て、
また目を閉じた。
「……」
「判った」
ブランが尻尾を振る。
「とりあえずお腹空いた!」
「ご飯食べない?」
真壁も小さく笑う。
「私もお腹空きました」
クロウは欠伸をした。
「好きなの食べろ」
その後。
あの情報が世に出ることはなかった。
秋山の洋食店は繁盛している。
そんな噂を、風の便りに聞いた。
数か月後。
カラン、カラン。
「真壁さん」
「うちの一番人気です」
「よかったら、皆さんでどうぞ」
秋山恒一だった。
手には大きな包み。
真壁が嬉しそうに受け取る。
「ありがとうございます」
ブランは尻尾を振った。
「おっ!」
「ビフテキ!」
クロウはソファで寝ている。
……いや。
その口元は。
少しだけ。
上がったように見えた。
今後もよろしくお願い致します。




