第2話 証拠なき悪
いつも読んでいただきありがとうございます。
夜。
「黒だ」
ブランが言った。
クロウは目を開けない。
「確定だ、やってる」
一拍。
「暴走行為」
「歩行者へのあおり運転」
クロウがゆっくりと目を開ける。
ブランは続ける。
「人をギリギリ避ける」
「驚いて転ぶのを見て笑ってる」
「仲間内で動画回してるな」
軽く鼻で笑う。
「趣味が悪い」
クロウは何も言わない。
ブランは一瞬、視線を落とした。
「依頼人の親父さん」
「車には当たってない」
「でも避けようとして転んだ」
「頭、強く打ってる、それが原因で」
沈黙。
「処理は“本人の事故”」
「証拠なし」
「立件不可」
「奴は——」
ブランが顔を上げる。
「今もやってる」
クロウは立ち上がる。
それだけで、決まる。
翌日。
猫カフェ。
男が来る。
顔色は悪い。
眠れていないのだろう。
クロウは1度だけ見る。
「行く」
それだけだった。
男は何も言えない。
ただ、頭を下げ続ける。
その日の夜。
住宅街。
街灯がまばらに灯る。
塀の上。
クロウは静かに座っていた。
遠くから音が近づく。
速い。
1台の車が現れる。
蛇のように揺れながら走る。
歩行者が、思わず身を引く。
笑い声。車の中。若い男達。
スマホを片手に、何かを話している。
「ビビりすぎだろ今の!」
「マジで笑えるわ」
車が止まる。
コンビニ前。
エンジンはかけたまま。
男が降りる。
スマホを見たまま歩く。
周囲は見ていない。
ガサッ。
物音。
男が顔を上げる。
「なんだぁ?」
塀の上。
黒い影。
「にゃー」
「猫かよ……」
苛立った声。
1歩、近づく。
「あっち行けぇ!」
その瞬間。
視界から消える。
次の瞬間、喉元に重み。
理解する前に——
爪が走る。
声が出せない。
空気だけが漏れる。
男はその場に崩れ落ちた。
スマホが転がる。
画面の中、笑い声が続いている。
クロウはすでに闇の中。
「依頼完了」
静かな声。
ブランが現れる。
「お疲れさん」
軽く周囲を見る。
「相変わらず綺麗な仕事だな」
クロウは何も言わない。
「帰るか」
「ああ」
翌朝。
猫カフェ。
「クロウさん、じっとして」
真壁が前足を持つ。
パチン。
パチン。
爪が切られる。
昨夜の痕跡が消える。
カラン。
扉が開く。
「かわいい……!」
女性客の声。
クロウはゆっくりと目を開ける。
何もなかったかのように歩く。
膝の上に。
丸くなる。
喉を鳴らす。
カウンター越し。
真壁がそれを見る。
何も言わない。
——虐げられた者達が、ここに来る。
読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願い致します。




