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ハー・ゼス

「ダクマナがやられただと!? それは本当か、ガンドリオン枢機卿」


 ドーム新宿の郊外。巨大トラックの荷台に設置された移動教会。


「しかり。我ら怪獣教団ダクマナ派、存続の危機であるな。ガデンフォート教皇」


 移動教会の最奥で、豪華な衣装と宝石をジャラジャラと身に着けた二人の男が葉巻を吸いながら会話していた。


「なんと。ダクマナは不死! 不滅! 不壊! 不死身! 永久無敵の黒き地上の王と謳われて百年以上の歴史を持つ」


「あの黒竜王の失われた肉体なのでは? と噂されてきたが、結局は生きて死ぬ生物にすぎなかったということか」


 教皇と枢機卿は悲嘆にくれた。


「超絶怪獣ダクマナは『制約』にとらわれず都市を攻撃できる数少ない存在、いわゆる『フィールド型ボス属性エネミー』、このまま進んでドーム新宿を半壊させて防衛隊と悪の組織の怪人どもを皆殺しにすると期待していたが」


「そして我々が武力の無くなったドーム新宿を支配し、無料の電気を手に入れて世界を支配する」


「そう、私は怪獣教団ダクマナ派の教皇と国土交通大臣を兼任し、すべての道路を有料化して世界一の金持ちになる。そしてスーパーチートハーレム後宮をおっ建てて毎日優雅に、おもしろ楽しくカッコよく暮らすはずだった」


「こうなればやるべき事はひとつだ」


「復讐だな!」


「それもある……しかし本当に重要なことはダクマナを倒した方法を手に入れるのだ!」


「おお、そうだ!」


 教皇はカッコつけたポーズをつける。


「この怪獣教団ダクマナ派教皇ルーデザッベック=ガデンフォートの名において、ダクマナを倒した連中を逮捕拉致監禁するのだ!」


 テンション最高潮にぶち上がった二人は、宗教掛け声を叫ぶ。


「アハニマス!(掛け声)」


「ダクマナ・アハニマス!(より上位の掛け声)」


 意味は『ダクマナの、み心のままに』である。


「傭兵部隊を招集するのだ! 裏の闇バイトを集めろ!」





-------------------------------------





 ソーラーカーはバイオ植物の森林に切り開かれた道を走る。


「わたし、夜はキャンプしたいわ!」


 ハンドルを握るリスティが言い放った。


『停車すると敵性存在、いわゆる『エネミー』の襲撃が予想されるため、夜の運転はロボヒューマンに任せて車内泊をするのが一般的です』


 ロボヒューマンのファインケル・グッドスピードがコメントする。


「でもキャンプしたい!」


『御心のままに』


 ロボヒューマンのファインケル・グッドスピードがリスティに従った。


「ならば――明るいうちにテントを張っておきたいな。野営道具は積んであるのを確認した」


 嵐が助手席から話しかけた。


「そこの空き地なんかどう?」


 ソーラーカーが停車する。


 ドアを開けて、リスティと嵐が少し広くなっている道路脇の空き地に降りた。


「シャー!」


 すかさず巨大なヘビのエネミーが茂みから飛びかかってくる。


『ミュータント・シンジュクヤマガカカシです』


 ファインケル・グッドスピードが解説する。


「キシャー!!」


 牙の鋭いモモンガのようなエネミーも複数匹、滑空して襲いかかってくる。


『ミュータント・シンジュクモモンガです』


 嵐は左手で古い日本刀を抜いた。


 右手で帽子を押さえる。


「天狗魔剣法――衝撃波」


 どうっ!


 黄色い光の衝撃波が薙ぎ払い、ヘビとモモンガ複数匹を撃ち落とす。即死だ。


「――なるほどバイオの楽園か」


 嵐が吹き飛ばしたヘビとモモンガの死骸に、あっというまにハイエナ、リカオン、ドグエラヒヒのようなエネミーが群がる。死骸を食っているのだ。


『ミュータント・シンジュクハイエナ、ミュータント・シンジュクリカオン、ミュータント・マッチョ・ドグエラヒヒです』


「――マッチョ???」


「食物連鎖ねえ」


「ミュータントだみゅ~」


「こういうのが絶え間なく襲ってくるなら、野営なんぞ不可能だな」


「それはちょっと困るわね」


 リスティがむ~と思案する。


「広範囲を一気に全部倒しちゃう……のでもいいけど、どんどん集まってくるから夜の間ずっとうるさそうね」


「ガアッ!」


 ヘビとモモンガを喰い終わったハイエナ、リカオン、ドグエラヒヒが襲ってくる。


「天狗魔剣法――振動波」


 ビイイィィィン……!


 赤い光の振動波で薙ぎ払う。


 エネミーたちは体内を揺さぶられて死亡し吹き飛ぶ。


 次はライオン、トラ、ダイアウルフが現れる。


『ミュータント・シンジュクライオン、ミュータント・シンジュクトラ、ミュータント・ニンジャ・ダイアウルフです』


「ニンジャだみゅ~」


「きりがないな――」


「そうねえ。星全体に雷でも落とすか、大地の刃で掃除しちゃう?」


 リスティがそう言うと、突然、空に雷雲が発生し、ゴロゴロという音が鳴り、稲光が輝く。大地が揺れた。


「ああもう、外に出る場合は忌避剤を焚くんですよ」


 銀狼ナオエがソーラーカーの荷物から蚊取り線香のようなぐるぐる巻いて形成された忌避剤を取り出し、先端にライターで火を付けた。


 すると、燃えた香料の匂いがあたりに立ち込め、薄い煙が周囲にたなびく。


 ライオン、トラ、ダイアウルフのエネミーはハイエナたちの死骸を引きずりながら後退して去っていった。


 同時に、雷雲が消失する。


「――ほう、そういうものがあるのか」


 嵐は帽子を被り直した。


「えらいわねお嬢ちゃん。なでなで」


「は、はい~」


 銀狼ナオエがリスティになでなでされて萎縮する。本能で勝てないことがわかっているようだ。


「では、テントを張るか――」


 キャンプが開始された。



-----



 嵐は手際よくソーラーカーに積まれていた荷物からテントほか道具類を取り出し、焚き火台を設置。


 テント設営に移る。


「そこの木の枝にロープを引っ掛けてテントを作る。手伝え、銀狼ナオエ」


「はい」


 テントのペグ打ちを銀狼ナオエに手伝わせる。


「リスティは枝を拾って薪を確保してくれ。ミュージシャンも手伝え」


「はーい」


「みゅっ(肯定)」


 リスティとミュージシャンは枝を拾いに行く。


 嵐は銀狼ナオエと二人で協力してテントを設置。


「手際が良いな」


「鬼道会のイベントでこういうのは慣れていまして」


 テントを設置し終わる。


「次は……飯の用意か。荷物から食材を出して」


「あ、そこの実は食べられますよ」


 野営地の近くに、大小様々な実をつけた樹木が複数あった。


「食べられるのか。そのままでか。火を通してか」


「開けるとすぐに食べられます。ああ、これはサーモン・スシでした」


 銀狼ナオエが無造作に実をひとつもぎ取り、荷物から出しておいたナタで叩き切って開ける。


 実はパカっと二つに割れて、サーモン・スシが二貫出てきた。


「――は?」


 非常に珍しい、高宮嵐の間抜け顔だ。


「これはスシ・ガチャの実といって、中身がランダムに寿司が入っています」


「おいおいおいおい待て待て待て待て――」


 嵐が落ち着きを取り戻そうとする。


「――これも突然変異のせいか。バイオプラントなのか」


「よくわかりませんが、実を取ると急に鮮度が落ちるので早めに食べたほうがいいですね」


 銀狼ナオエは簡易テーブルに、収穫したいくつかの実を置く。


「鮮度の問題で、ドーム新宿ではほとんど流通してないんですよ。外に出て収穫しても戻ってくる間に鮮度が落ちるので。あ、この少し大きい実はヒヤシメン・ガチャの実です。冷やし中華やざるそば、そうめん、冷製パスタのような冷たい麺が入っていますよ」


「――アンビリバボー」


 嵐が驚愕した。


「枝ひろってきたわよー」


 枝拾いからリスティとミュージシャンが戻ってきた。


 二人ももちろん、スシ・ガチャの実やヒヤシメン・ガチャの実にびっくりして大騒ぎしていた。




---------




「食事の前に、シャワーを浴びましょう」


 リスティが宣言した。


「タオルと着替えは用意したみゅ~」


 ミュージシャンが言った。エイスが用意した荷物の中にあったものだ。


「あなた、水よろしく」


「――わかった」


 嵐は左手で古い日本刀を抜いた。


「天狗魔剣法――幻術結界」


 ぐわっと、周囲の景色が歪んだ。


「これはなんです?」


 銀狼ナオエが疑問を口にする。


「光を屈折させて周囲に光のカーテンをつくった。要するに覗き防止の天幕だ」


 嵐が解説する。


「竜宮魔剣法、水球砲――のシャワー」


 嵐が次の魔剣法を使うと、宙に浮いた大きな水の球体が複数、現れる。


 水の球体からはゆっくりとシャワーのように水が流れ落ちていた。


「あとはこの水を使って体や髪を洗うといい――では私は後ろを向いてる」


 嵐は帽子を被り直すと、くるりを後ろを向き、焚き火の前に座ってスモークチップを燻してチーズの燻製の準備をはじめた。


 金属製の小さいカップにスモークチップを入れ、火にかける。上に金網を置き、チーズを数個乗せ、同じサイズのカップで蓋をする。


 スモークチップが熱せられて良い香りがしてきた。


「さあ、ぬいでぬいで~」


「あ、ちょ、自分で脱げます!」


 リスティが銀狼ナオエの汗だらけのタンクトップを脱がせる。


「みゅ~」


 ミュージシャンは一気に真っ裸になり、水球に飛び込む。


「気持ちい~」


 しばし、野営地に女性陣の声が響いた。


「あばばばば」


 銀狼ナオエはあまり親しくない女性陣の裸体を前に思考がフリーズし、されるがままになって髪と体を洗われていた。


 数分ほど時間がたち――


「あなた、水なくなりそうよ。おかわり!」


 首からタオルを下げた全裸のリスティが堂々と胸を張って話しかけてきたりした。


「竜宮魔剣法――水球砲」


 嵐は帽子で自分の顔を隠しながら刀の先から水球を出してシャワー用の水を補給したりして、無事に女性陣の水浴びは終わった。



「それでは飯に――」


「あなたも洗うのよ!」


「いいから脱ぐんだみゅ~」


 嵐もリスティとミュージシャンにせっつかれて渋々、自分の分の水浴びを行った。



----------


 夜。


 スシ・ガチャの実、パン・ガチャの実、ヒヤシメン・ガチャの実と燻製したチーズを使った食事も騒がしく終わり、ミュージシャンが歌を歌い。リスティが盛り上げ、やがて寝る時間となった。


 嵐は焚き火を見ながら、ぼーっとコーヒーを飲んでいた。


「あの」


 寝間着を着た銀狼ナオエが話しかけてくる。


「リスティさんがダクマナを倒した技、あれは一体何ですか?」


「興味があるのか」


「はい」


 銀狼ナオエは生真面目に返答した。


 嵐はやれやれ、という表情で帽子を被り直す。


「ハー・ゼスという技で、古代アトランティス王国にあった、ある武術の流派の最終奥義だ。あてた相手を絶対に殺す一撃必殺の掌底、掌打だ。打撃技の頂点とも言える」


「絶対に殺す……?」


「アトランティス王国に日本語が流入してからは『破絶』とか『破絶掌底』とか呼ばれりしたが同じ技だ。相手を倒す技に限れば、ハー・ゼスひとつあれば他の技はいらなくなるという論争も起きていた。主に道端の暇なおっさんたちの間で」


「はあ……それは、リスティさん以外も習えば使えるのですか?」


「今の時代の連中では無理だな」


「な、なぜです?」


「素質の問題で、古代アトランティス王国の人間たちしか使うことができない。主に王族たちに適正が高いものが多かった」


「古代アトランティス王国……」


「あー、あと、あらゆる武術を模倣再現できる能力(スキル)のある奴だけは難なく使えてたな」


 古代アトランティス王国の近臣、ドワイトことドワ。その名前を明かせば銀狼ナオエは世界に殺されるため、嵐は名前は言わなかった。


「あらゆる武術を模倣……? そんな存在が?」


「まあ昔の話だ。とはいえハー・ゼスを使いたい奴は多かったんで、威力を落とした劣化版の『掌底突(しょうていとつ)』が普及した。アトランティス王国の武術の達人クラス、近臣や大臣の数人が使えたな――私には使えんが」


「次に、リスティさんの使った冷気と炎の技なのですが……」


「あれは技でもなんでも無い。そういう『加護』を持ってて……いや身にまとって? いや世界の側が勝手にやってることだから『持ってる』でいいな。リスティが望めば世界がそうなる、そうするというだけの現象だ」


 シーンと。

 辺りが静まり返る。


「『加護』……王族……リスティさんはもしかして『おひ……」


「おっと、それ以上、口にするな。命が惜しければな」


 銀狼ナオエはザワッとした悪寒を感じて、口をつぐんだ。

 空。大地。草。空気。それら世界全てから見られているような感覚。


 嵐は新しいコップにコーヒーを入れて、銀狼ナオエに差し出す。


「じゃあ、初めて会った時に」


「――うん?」


「初めて会った時に、私の武器を破壊した技は一体どんな技なんですか」


 銀狼ナオエがコーヒーの入ったコップを受け取り、両手で持った。


「なんだ、気にしていたのか」


「何をやったのかまったく見えませんでした」


「あれは腕と上半身を使って武器を抜く素振(そぶ)りをして見せて、実際は蹴り脚で空気を蹴って放った衝撃で下から武器を砕いただけだ」


「……簡単に言いますね」


 銀狼ナオエが少しすねた。


「直接、足をあてたら死ぬしな」


「動きが殆ど見えなかったので居合で武器を砕かれたのかと」


「腕はフェイントだ。というか武術の半分以上はフェイントの技だと私は思っている。なぜなら武器でも拳でも鍛えていればそのうち強くなってまともに当たったら死ぬしな。当てる技術のほうが重要になる」


「……強者の理論すぎます……」


 銀狼ナオエは嵐と一緒に焚き火を見つめつつ、ちびちびと少しづつコーヒーを飲んでテントに入った。


 テントではリスティ、ミュージシャン、銀狼ナオエが三人で寝ている。


「さて――」


 嵐は一人で焚き火を見つめつつ、朝まで周囲を警戒しながら起きていた。




---------




 朝。


「朝からイナリ・ズシか――」


 嵐が素手でスシ・ガチャの実を開けると、いなり寿司が2つ入っていた。


「そうめんおいしっ」


 リスティはそうめんを食べている。麺とつゆのほかに薬味とハシまで入っている。


「こう、昼も夜も焚き火で肉を焼くというのが――野営の醍醐味なんだよな」


「今夜やればいいみゅ~」


 ミュージシャンはハムとチーズのサンドイッチを食べている。パン・ガチャの実から出てきたらしい。


「もきゅもきゅ」


 ミュージシャンが次のパン・ガチャの実に手を伸ばす。


「来るぞ」


 嵐が言った。帽子を被り直す。


「来るわね」


 リスティが言った。


「わたしが手を出すと相手が全員死んじゃうから、あなたに任せていいかしら」


「――わかった」


 嵐はイナリ・ズシの皿を右手に持ったまま返答した。


 しばらくして、道のほうから超巨大なトラックがやってきた。鉱山で使うような超巨大トラックだ。

 トラックの荷台には教会が設営され、リンゴンリンゴンと鐘の音がなっている。


 そして、超巨大トラックの周囲にはバイクに乗った数十名のモヒカン髪型にトゲつき肩パッド、ショットガンやシャベル、釵(サイ)、テルビューチェ、グレイブ、太鼓、マラカスなどで武装した裏の闇バイト達がいた。


「あ、あれは!」


 驚く銀狼ナオエ。


「知っているのか銀狼ナオエ」


 嵐が興味なさそうに聞く。まるでお約束だからやっている、という態度だ。


「あいつらは裏の闇バイトといって、損得勘定が得意ではなく、してはいけないことの区別もつかず、小銭に目がくらんで他人を害することしかできない割に自分は世界の役に立ってる必要な人間であるという根拠ない選民意識に頭を支配された最低な連中です」


「――随分とうぬぼれ屋さんなのだな」


「大物気取りで暴れて鬼道会の縄張りを荒らし、逮捕してから指示役に騙された搾取される側であることに気が付き、自分は被害者だと泣きわめく、他責思考の局地。要するに世界に不要な社会のゴミどもばっかりで……」


「まぁ――大体わかったトラックのほうは?」


「そっちは怪獣教団ですね。怪獣を信仰する異端の宗派ですが根強い人気があります。あれはダクマナの通ったあとに現れるというダクマナ派でしょう。裏の闇バイトの今回の指示役かな?」


「――ふむ」


「ダクマナ派はダクマナが通って踏み潰した集落から略奪を働く火事場泥棒だと聞いています」


「――ろくでもない奴らだな」


 左側の腰に古い日本刀を装備し、背中に破壊魔剣デスマサムネを背負い、イナリ・ズシの皿を右手に持ったまま嵐が前に出る。


「銀狼ナオエ、ミュージシャン、ファインケル。――悪いが焚き火とテントの片付けを頼む。」


 嵐はそう言うと、スタスタと超巨大トラックの前に出る。

 一戸建てより大きいタイヤが高速で回転しながら嵐の目の前に来る。


「アハニマス!」

「ダクマナ・アハニマス!」


 トラックの運転席には、怪獣教団の幹部がふんぞり返っており、ハンドル係に司令を下していた。


「男は要らない! 轢き殺せ!」

「ダクマナ・アハニマス!」


 トラックが加速する。

 トラックのナンバープレートには怪獣教団と刻印されていた。


「天狗魔剣法――真空波」


 嵐はイナリ・ズシの皿を右手に持ったまま、左手で左側の腰にある古い日本刀を抜き、下段の構えから切り上げる。


 スパァン!


 青い光の真空波が一閃し、超巨大なトラックが荷台の教会ごと真っ二つに切り裂かれ、左右に分かれて野営地を通り過ぎていった。


「ダクマナは消えた。解散しろ」


 トラックはバキバキとバイオの樹木をなぎ倒して進み、進んだ先で荷台の教会ごと爆発した。

 嵐は爆風から右手に持ったイナリ・ズシを守った。

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