バイオの楽園
ドーム新宿。
エイスの屋敷。
エイスに案内されてソーラーカーの駐車場までやってきた嵐、リスティ、ショウコの三名。
ソーラーカーの前には、旅装に身を固めた複数の人間がいた。
「ふみぃ」
嵐たちに手を上げて挨拶する、赤い髪の毛の超美女。ミュージシャン。
「――どうした」
嵐が気さくに声をかける。
「ボクを召喚して放置とか信じられないみゅ~」
ぷう、を頬をふくらませる。
「あのまま市井にいてもトラブルが多いと思いましたので、ミュージシャンさんはウチで暮らしてもらってましたー」
エイスが解説した。
「一緒に蔵星さんの攻撃を止めた縁ですしー」
「ふみぃ……戦友。おともだち!」
ミュージシャンとエイスが指でハートとグッドをつくり、ハートグッド(片思いハート)を合わせる。
「仲いいなお前ら――それはそうと、ついて来るのか」
「ん、旅立つ」
ミュージシャンは山ガールのような旅装に身を固め、荷物を背負い、旅支度は万全だった。
「ふみぃ……ここは別の不死鳥の縄張りだから居心地が悪いのぉ。ボクしばらくお外の空気吸うのぉ」
「――そうか」
嵐は次の人影に話しかけた。
「お前らも来るのか?」
「当然です」
そこにいたのは鬼道会の四天王、銀狼ナオエと虎井フミカだった。
銀狼ナオエと虎井フミカはジャングルに探検に行くようなサファリルックを着用し、迷彩柄の大きなリュックを背負っていた。
「貴方は鬼道会の守護神、破壊魔剣デスマサムネを持っている。我々鬼道会四天王は破壊魔剣デスマサムネを取り戻して悪の組織を維持するという責任があります」
「私がこいつをぶち壊さないように見張るというわけか」
嵐は刀袋に入れていた破壊魔剣デスマサムネを取り出す。
柄の目玉がぎょろりと周囲を見た。
「いいぞ。ついて来い。ついて来れるならな」
「言われずとも」
「が、がんばります」
銀狼ナオエと虎井フミカがいい声で返事をした。この二人は、直後に後悔することとなる。
「はいはい~乗りますわよ」
嵐が三人と話している間、リスティはするりとソーラーカーに乗り込んだ。
そのまま運転席に着席する。
『はじめましてレディ。ワタシは快適な旅のサポートを行うロボヒューマンのファインケル・グッドスピードです』
運転席のランプが点灯し、リスティに語りかけてくる。
リスティは、すっと一瞬で雰囲気が変わり、神聖な神殿にいる聖女のように手をかざした。
「我が名はリスティス・レイズ・アトランティス。ファインケル・グッドスピードよ。よしなに」
聖女であり姫君でもあるかのように、ファインケルに挨拶をした。
その瞬間、ソーラーカーの運転席が虹色に輝く。
ピーーーー。
『今この時、ワタシは真の魂、真の心を得ました』
ファインケルが突然、意思を持ったかのように流暢に喋りだす。
『おお、わが主よ。この体朽ち果て、この命尽き果てるまで。この魂にかけて永遠の忠誠を誓います』
「行くわ。このドームの外へ」
『世界の果てまでお供します!』
ドゥン!
ソーラーカーが発車した。
「え、速ー」
エイスはついて行かないため、見送る。
「お土産期待していますー」
ぱたぱたと小さく手を振る。
「いってらっしゃい」
嵐のおふくろ、ショウコもエイスの隣に立ってソーラーカーを見送った。
「――ふむ」
嵐は事もなげにソーラーカーに飛び乗る。
人間離れした大ジャンブで一足飛びだった。
「――早く乗れ」
「ちょ、ちょおおおお!!」
銀狼ナオエと虎井フミカの二人が置いていかれないようにダッシュする。
ミュージシャンは涼しい顔をして不死鳥の翼を展開し、嵐の次にソーラーカーに飛び乗った。
ソロモン七十二柱の魔神、大悪魔、地獄の侯爵らしい優雅さである。
ソーラーカーは鬼道会の二人を置いたまま、すごい加速でエイスの屋敷の庭を走り、市街を抜け、高速道路に乗る。
「ああああ!!」
銀狼ナオエはすでにボロボロになりながらソーラーカーと並走し、背負っていた荷物を捨て、上着を脱ぎ捨て、腰に装備していた武具を捨てて加速して追いすがる。
手を伸ばしてソーラーカーの後部を掴もうとするが、その度にソーラーカーは更に加速して銀狼ナオエを突き放した。
「銀姉ぇええええ。もうだめえええ」
虎井フミカは自分の荷物を背負ったまま、銀狼ナオエの捨てた荷物を律儀に拾ってて重量オーバーとなり高速道路の入口前あたりで転倒した。
そのまま取り残されて、どんどん遠ざかっていった。
「銀姉ええええーーーわたしに構わず行ってええええーーー」
「すまんフミカっ! 鬼道会のためだっ!」
銀狼ナオエは走りながら、汗と涙を流して妹分に別れを告げる。
ドーム新宿。外周。
嵐たちはエイスの用意したソーラーカーに乗り込み、高速道路を走り抜けてドーム新宿の正面ゲートを超えて外の世界に踏み出した。
銀狼ナオエは見かねた嵐がロープを投げてキャッチし、ソーラーカーに乗せた。
ソーラーカーはバイオ生物の密林に切り開かれた道路を走る。
鬱蒼とした木々が生い茂り、ミュータントが徘徊する。
木々が視界を遮り、道路の先はなかなか見えない。
ドーム新宿の巨大なゲートから一キロも離れていない地点で、山のように巨大な怪獣が出現した。
分厚い装甲のような外皮、複数の眼、巨大な脚。
天を覆い尽くすような真っ黒い巨大な体を中心に、蜘蛛のような六本の長い脚が支えている。
常識外れの巨体の生み出す迫力は、いっそ神々しいまである。
「な、なんですか、あれはっ!! でっかい! でかすぎる!」
ゼエハアと息を荒げながら、上はタンクトップとスポブラだけになった銀狼ナオエが驚愕する。
「あれは……怪獣ね!」
運転席のリスティが目を輝かせる。
『解説します』
ロボヒューマンのファインケルが語る。
『あれは動く島とも形容される、超絶怪獣ダクマナです。あの巨体ゆえ、単純な質量差でどんな兵器による攻撃も無効化します。足の下をくぐり抜けるのが一般的な対処法で……』
「あれがダクマナッ! 知ってはいたけど、はじめてみました」
銀狼ナオエが感動したように打ち震える。
「わたし、遊んでいきたい!」
リスティが満面の笑顔で嵐のほうを向く。
「いいぞ、行ってこい」
「行ってきます!」
リスティはソーラーカーを停め、車のドアを開けて勢いよく外へ。
そしてジャンプひとつで舞うように華麗に空中に飛び上がった。
山のように巨大な超絶怪獣ダクマナと比較して豆粒のような大きさだが、ダクマナは脅威とみなしたらしく脚を振りかぶって叩きつける。
「あははは!」
リスティはひょいひょいとジャンプを繰り返し、地面を蹴って跳び上がり、振り下ろされるビルのような脚による踏みつけを回避する。
「……」
ダクマナはリスティに向けて投げ槍のように巨大な毒針を飛ばす。こともなげに回避。
「あははは!」
ダクマナは全身からオーラを放ち、オーラが追尾するレーザーのようにリスティを狙う。
「あははは! すごーい!」
リスティは空中で舞うように回転して回避。
「こんなに楽しいのは久しぶり!」
リスティは猫や犬のような動物とじゃれ合うかのようなテンションだ。
「……」
ダクマナは巨大な口を開き、高熱のブレスを放とうとする。
「あ、やっぱりそういうのあるんだ」
リスティは神秘的に微笑む。
「じゃあいくわよ」
リスティは両手を掲げる。
青い光が手と手の間に集まる。
「いかん」
見守っていた嵐がソーラーカーの上に乗り出す。
「防御する。ミュージシャン手伝え」
「ふみぃ。地球の姫の本気、ってこと?」
「いや、まだ遊びの範囲だが洒落にならん――」
嵐は左手で古い日本刀を抜く。
刀を構え、妖力を妖術で解き放つ。
「竜宮魔剣法、水流結界!」
勢いよく流れる水が、停車したソーラーカーを覆う。
「フェネクス・バリアー!」
その内側に、ミュージシャンがバリアのようなエネルギーの防壁を展開する。
ミュージシャンの瞳が紫色へと変わり、輝く。
「絶対零度の凍える吹雪。フリーズブリザード」
カッ!
リスティを中心に猛烈な冷気が展開し、周囲を凍らせ尽くす。
一瞬で絶対零度となった世界は無音となり、すべてが静止した。
「……」
凍りついた空気中の水分が、太陽の光を受けてキラキラ輝く細氷という現象が発生する。
息の根が止まったかのように見えたダクマナだが、全身にヒビが入るものの、ゆっくりと動き出す。
ギギギギ……
リスティが両手を広げた。
今度は輝く光が両手に灯る。
「超高熱の燃える光。バーニングヒートファイヤ」
ドッ!
リスティの周囲から放たれる『光輝』を浴びた物体すべてが一瞬で溶解し、炭化する。
「……」
絶対零度により亀裂が入ったダクマナの外皮を、今度は超高熱が焼き尽くす。
「……!!」
対抗か、それとも防御か、山のような怪獣が口を開き、高熱のブレスを放つ。
ゴオッ!
光と炎がぶつかり、爆発と衝撃がまき起こる。
「楽しかったけど、おしまいね」
ダクマナの放った炎のブレスをかき分け、リスティが肉薄する。
「ハー・ゼス」
トンッ。
リスティの掌がダクマナに命中する。
それだけで、ダクマナの命が消滅した。
リスティの掌打を目撃したすべての者が、それを理解した。
ピシッ。
ダクマナの全身に亀裂が入り、凄まじい勢いで崩壊が始まった。
「ばいばい」
リスティは軽く手を振って崩れていくダクマナに別れを告げ、ぴょんぴよんとバイオの密林の木々の上を飛び越えてソーラーカーに戻ってきた。
「ただいま!」
にっこにこの笑顔で車内に帰還する。
「おかえり」
パン、と嵐とリスティはハイタッチ。
嵐とミュージシャンの二人で防壁を張っていたため、車は無傷だった。
「ふみゃぁ~」
ミュージシャンは少し疲れた様子で座席に座る。
「え、あ、……一体、今、何が起きて?」
銀狼ナオエは色々なことがありすぎて、現実を受け入れるのに時間がかかり、フリーズしている。
リスティは二人を意に介さず、そのままスルリと運転席に戻り、ハンドルを握った。
「さあ、どんどんいくわよ」
リスティ、嵐、ミュージシャン、銀狼ナオエの四人を乗せたソーラーカーの旅は始まったばかりだった。




