私たちの不老不死(スレイヤー編)
はるか昔のそのまた昔。
現在、嵐たちが過ごしている惑星シークレットのドーム新宿よりはるか昔、遥か遠く。
地球。
大昔の地球。
討伐者こと本名バトラズは、長い長い戦いの人生の末に死を予感した。
場所はカフカス山脈。
カフカス山脈とは黒海とカスピ海の間にある巨大な山脈である。
「私は復讐を終えて人生に満足したので、死を受け入れようと思う」
巨大なリアル系ロボットのような外見のバトラズは、カフカス山脈にある、とある山の中腹に座り込み、数頭の牛を優しくお手玉しながら宣言した。
その宣言を聞いて、周囲にいた数人のナルト族たちがワッと歓声を上げた。
巨大な牛骨でお手玉をするのは巨体のナルト族の子供たちがよくする遊びであるが、超英雄であるバトラズは、牛骨ならぬ生きた牛でお手玉するというウルトラCを得意としていた。
他者とは明らかに違う、英雄巨人の超絶技巧を示すエピソードである。
「しかしだ」
バトラズは生きた牛たちをそっと脇においた。
「私は、私の剣が黒海に投げ込まれぬ限り、死ぬ運命にはないと決まっている」
「運命とな」
「あの……とてつもなく重い剣をか」
「神剣ズスカラ」
「サファ神の鍛えた剣をか」
「ズスカラを海に捨てると?」
周囲にいた数人のナルト族……巨大ロボットのような外見をした巨人たちが、冷や汗を流しながらバトラズに言う。
「あんな重いもの……」
「できるわけがない」
「ズスカラを持ち運べるものはバトラズだけだ」
「それがどうした」
バトラズは無下に突っぱねる。
「ナルト族は大半がバトラズに殺されてすっかり頭数が減ってしまった」
「罪に対し罰を与えたまでだ」
バトラズはすげない。
「アレを動かすためには生き残ったナルト族の全員が全力を尽くし、さらに数千頭の獣を用意してロープで引かせる必要がある」
「できるなら問題ない。やれ」
「そんなことはできない。途方もない手間と金と時間と道具が必要だ」
「やれと言っている」
バトラズは『やれ』の一点張りだ。
そのとき、ナルト族の一人が嘘をついた。
「実はあの剣は、昨晩のうちに黒海に放り込んだのだ」
「なんだと」
バトラズは驚愕する。
「剣を黒海に投げ入れた時、何が起きた」
「ボチャンと水音を立てて沈んだ」
「摩訶不思議なことは起きたか」
「特に何も」
バトラズはため息を付いた。失望の表情。
「それならば、まだ剣は黒海に投げ込まれていない。投げ込まれたならば、必ず摩訶不思議な事が起こるからだ」
「摩訶不思議だとぉ」
「一体それは何だ」
「やればわかる」
バトラズはズシンと地響きを立てて寝そべった。
「嘘つきの腰抜けどもめ。貴様らの腑抜けた行いには心底うんざりだ。私の死を願うなら、一刻も早く――」
「コンニチハ!!★」
場違いに明るい声が陰鬱な現場に響いた。
「なんだ、今の声は」
「誰だ!」
「ナルト族ではないぞ!」
ナルト族たちが機体の首を左右に振ったり、頭部のセンサーを展開して周囲を探る。
あるものは目の部分にあるレンズを切り替えて望遠モードや赤外線モードにした。
赤外線モードの視界ではお手玉されていた牛たちが赤い色を放っている。
「あそこだっ!」
カフカス山の崖の上に、マントのような布とゴーグルを身に着けた、かなり若い日本人成人男性が、量販店で売っているような安っぽいマフラーをなびかせて立っていた。
「僕の名前は島村! いよぉ~★」
バッと腕を振る。歌舞伎のように見栄を切る動作をした。
「何だお前は」
「新手の天使か」
「それとも名のある精霊か」
「一人の人間! そして職業はタイムパトロールさ★」
とうっ、と島村は崖から飛び降り、両手両足を広げる。
「世界一危険なスポぉぉぉつ! それが! ウィング★ジャンプうううう!! 超、エキサイティング!」
ムササビのような形状のウィングスーツが開き、風に乗って島村がナルトたちの眼の前まで降りてきた。
「無事着地!」
巨大ロボットのような外観であるナルト族の巨人たちに比べると。島村はあまりに小さい。
「島村とやら、この山の中腹は戦士の領域。勝手に立ち入ることはできないのだぞ」
「ごめーんね★」
平均的日本人成人男性の島村がテヘヘペロをする。
妙な愛嬌があり、ナルト族たちが毒気を抜かれた。
「まあ謝ってるしいいか……」
「怪我しないうちに家に帰れよ」
「いまちょっと取り込んでいてな」
展開したセンサーを収納したり、望遠モードにしていたレンズをもとに戻したりして島村をスルーしようとしている。
「なにかお困りのようだね★」
島村がウィングスーツを脱いで、セーターに着替えつつナルトたちに話しかける。
「まあ……困っているかといえば、すごく困っている」
ナルトの一人がポリポリと機体の顔面を指で撫でる。
巨大ロボットの外見なので妙にシュール。そして愛嬌がある光景だ。
「凄く重い剣を、黒海に投げ込むということになった」
「重すぎる」
「誰も持ち上げられない」
「黒海も遠い」
「まず人足を募集して……動物も集めて……」
「山頂の賢者の一族に知恵を借りよう」
「山麓の商人の一族のツテを頼ろう」
「一大プロジェクトになるな」
またナルト族たちがバトラズの無茶振りに陰鬱になる。
「うんうん映画化決定だね★」
着替え終わった島村が笑顔で言い放つ。
「その仕事、僕が引き受けてもいいよ★」
ぺかーっ。
まるで後光がさすかのように、島村が光り輝いて見えた。
島村の発言に、ナルト族たちが一斉に注目する。寝転がっていたバトラズすらも顔を向けた。
「なにっ」
「この人間がか!?」
「できるわけがないぞ」
「俺達よりずいぶんと小さいではないか」
「まあまて 話を聞こうではないか」
「聞いてくれるんだね。ありがとう★」
「なぜ礼を言う」
「おかしな奴だ」
「ふふ……そういう時はね、僕の国の言葉で『どーぞどーぞ』と言うといいのさ」
「『どーぞどーぞ』?」
「おかしな言葉だな」
島村は小さいホワイトボードを取り出し、あらかじめ書かれていた文字をナルト族たちに見せる。
そこには日本語で『現代科学チート』と書かれていた。
「現代科学チートを実行する!★」
島村は宣言した。
だが、ナルト族たちは日本語が読めなかった。
「げ、ゲンダイカガクちーと?」
ナルト族たちは初めて聞く単語にカメラアイを白黒させた。
「召喚! クレーン車!」
島村が懐から一枚の御札を取り出して中に投げると、ボンという音と煙とともに一台のクレーンが出現する。
建設現場でよく見かける、黄色い車体にキャタピラとクレーンがついた重機、クレーン車だ。
それを見たナルト族たちは明らかにがっかりする。
「それは小さすぎる」
「我の計算では持ち上げられるのは5トン(ナルト族の単位を現代日本語に翻訳)程度だろう」
「それ以上はひっくり返りそうだな。構造と力学上」
「もう帰っていいぞ」
「期待外れだったな」
ナルト族たちは念入りに島村の召喚したクレーンにダメ出しして『下げ』る。
「まだまだこれからさ★」
島村は、今度は小さな木槌を取り出す。
まるで大黒様が持っているような金で装飾された美しい小槌だ。
「これは打ち出の小槌というマジックアイテム!」
ピカー。
まるで秘密どうぐを取り出したかのように掲げて見せる。
「おおきなーれ」
島村がクレーン車に対して打ち出の小槌を振り下ろす。
グングングン!
クレーン車があっという間に大きくなり、クレーン車の車種も別のものに置き換わった。
「なんだ、変わったぞ」
「変形したのか!?」
「合体か!?」
「いや、合体したパーツがない」
「これはもしや……質量自体が増えている!」
「存在の変換?」
「上位の存在にバージョンアップしたというのか」
「どんどん行くよ★ おおきくなーれ! おおきくなーれ!」
島村が振り下ろすたびに、クレーンはどんどん巨大化し、高層ビルを建築するようなタワークレーンにまで変化する。
ついには雲を貫き、天空の大半を占めるほど巨大なクレーンになった。
足元はカフカス山脈の地中深くに突き刺さり、巨体を支えていた。
「な……なんなんだこれは!!」
巨大なクレーンは、その大きさまで巨大化する途中でフックを引っ掛けていたバトラズの剣をなんなく空中に吊り下げる。
「ズスカラが……宙に浮いている!」
「吊り下げられている!」
クレーンがぐんぐんと伸びて、山脈を超え、平原を超え、黒海の真上までバトラズの剣を吊り下げる。
地球の重力に対する挑戦。とんでもないスケールの神話的光景がナルト族たちの前で繰り広げられていた。
「剣が……」
「サファの神剣が」
「黒海の真上に到達した!」
「これが現代科学チートさっ★」
島村が歌舞伎のようなポーズを決める。
「げ……」
「す……」
「「「「「現代科学チートすげええええええええええ!!!!!!!」」」」
ナルト族たちが口々に叫んだ。
とてつもなく巨大なクレーンに、とほうもなく長いクレーンに、皆度肝を抜かれていた。
「SUGEEEEEEEEEE!!!」
「まさに……まさに……なんだこれ」
「表す言葉がない!」
「未だかつて無い!」
「見たことも聞いたこともない!」
「これが現代科学チート!!」
ナルト族たちは島村と現代科学チートを褒めたたえて『上げ』る。
「さて、バトラズ★」
島村がはじめてバトラズに話しかけた。
「このまま剣を落とせば君は死ぬ★」
「構わん、やれ」
バトラズは巨大なクレーンを見上げて、言う。
「まあ、こんな面白いものを見れたのだ。現代科学チートか。うむ。現世にも楽しい事があったと思えた」
「そう? それじゃタイムパトロールの仲間になって僕と一緒に働こう!★」
「……なんて?」
「僕、島村はナルトの英雄バトラズをタイムパトロール業務にスカウトするっ!★」
周囲に衝撃が走った。
「なんだとっ」
「ナルトきっての暴れ者を!?」
「つまり……バトラズがいなくなるってこと?」
「いいなそれ」
「どーぞどーぞ」
「どーぞどーぞ」
「こんな奴でよければ」
「どーぞどーぞ」
「貴様らァ!」
バトラズが吠える。
「私はこれから死ぬのだぞ!」
バトラズは黒海の真上に吊られた剣を指さす。
「見よ! これが英雄の死だ!」
バトラズは手のひらに熱気を込めて、火炎弾を発射する。
「ファイヤー・ボンバー!!」
放たれた火炎弾は剣を吊り下げたクレーンのロープを直撃し、高熱で焼き切る。
ブチブチとロープが千切れ、剣は黒海に落下した。
「タイムトンネルぅ★」
島村が指で印を切る。
落下する剣の真下。黒海の真上に黒いタイムトンネルが出現し、剣をすっぽり飲み込んだ。
「……は?」
バトラズが呆気にとられる。
「剣が消えた?」
ナルト族たちも呆然とする。
何が起きたか理解ができず、場が凍りついた。
「剣ははるか未来に送った」
しれっと島村が言う。
「それまでバトラズは死ぬことはない」
「な、何をするかあー!!」
あまりの出来事にバトラズが叫んだ。
「私は、いまも、神の呪いで、瀕死の苦痛を受けているのだぞ! はるか未来まで生き続けたところで」
「あ、それも直すね★」
島村は打ち出の小槌を片手に、すすっと格闘技のような動きでバトラズの至近まで近寄る。
「ふむふむ……内蔵の一部が生身だからそこを突くように呪われてるねえ」
「鍛冶神に強化を依頼した時、そこだけ焼きが足りなくて鋼鉄化しそこねた部分だ」
島村はバトラズの脇腹に手を当てて診断する。
「よし、こういう時は見立て呪術だ★」
島村はスポットライトを浴びているかのように大見得を切る。
「生身の内蔵は『パイロット』と定義する!」
「は?」
「つまり『中の人がいる!』」
びしっと島村がバトラズを指さす。
「まったく意味がわからんぞ」
「中の人はもちろん女子とする★」
島村は打ち出の小槌を振りかぶった。
「や、やめろ……何だか知らんがヤメロ!!」
「大丈夫大丈夫。ちから太郎だってじいさんばあさんの垢から新しい一人の人間になったんだ。内蔵が人になるとか朝飯前だよ★」
「★美少ゥ女にィなァーれェェェ!!★」
渾身の叫びとともに、島村が打ち出の小槌を振り下ろした!
ボウン!
周囲に魔法の煙が立ち込め、バトラズを覆い隠す。
「ごほっ、ごほっ★」
魔法の煙はすぐに晴れた。
バトラズの腹部にはコッピットの開閉口が出現し、機体がアップグレードされている。
輝いていた瞳は光を失い。暗く閉じている。
「な、なにをするかああ!!」
バクンとバトラズの腹部のコクピットが開き、細い手足、長い金髪の少女が飛び出してきた。
一応、肩から吊り下げる白いワンピースのような衣服を身に着けている。
「やろう! ぶっ殺してや……」
金髪の美少女こと、ナルトの英雄バトラズの『内臓の一部』だった存在が島村の首を締めて殺そうと走り寄る。
ガクン!
金髪の少女バトラズは手枷に引っ張られて島村の直前で止まる。
「何だこの……手枷は!」
金髪の少女の両手には手枷のようなパーツがついており、ケーブルがコクピットの内部に続いていた。
「あー、それはねえ。内蔵の一部という設定だからねえ。しょうがないと言うか。君の腸が変化したものです」
「こ、これが私の『はらわた』だというのか!」
バトラズは手枷から伸びたケーブルを掴んだ。
「切れたら多分死ぬよ……いや死なないか。剣を黒海に投げ込むまでは不老不死だ」
「き、貴様……」
ふるふるとバトラズは震える。激情を押さえているかのようだ。
「君は美少女受肉英雄化したことで生まれ変わった。生まれ変わったので神の呪いも無効化した★」
「神をも恐れぬ所業!」
「むーん、ちょっと『うすほそ』『ツルペタ』すぎるねえ。ちょっとは『盛ら』ないと映像化した時に海外からカスハラされるからちょっと盛るぺこ」
おおきくなーれ、と打ち出の小槌をバトラズの胸に向かって振ると、バストがすこし盛り上がった。
「何でもありか貴様!」
「さてナルト族のみなさん」
島村はくるりと周囲にいたナルト族を振り返った。
「剣は黒海に投げ込まれる。別に今すぐとか約束してなかったからはるか未来でも問題ないよね?★」
シン……とあたりは静まり返っている。
「そして、剣を投げ込む報酬にバトラズをもらっていきます」
ワアー!!
周囲のナルト族たちが歓声を上げた。
「あの暴君がいなくなる!」
「平和が戻る!」
「ぜひ持っていってくれ!」
「どーぞどーぞ」
「どーぞどーぞ」
「どーぞどーぞ」
「どーぞどーぞ」
今まで自分たちに過度な償いを強いていたバトラズがいなくなる喜びに、ナルト族たちは熱狂した。
どーぞどーぞという叫びは、いつまでもカフカス山脈にとどろき響いていたという。
こうして、巨人族の父と、海神の血を引く一族の母をもつ、半神かつ鋼鉄の肉体の英雄バトラズの『生身の内蔵の一部』はタイムパトロールの一員となり、タイムトンネルを通ってカフカス山脈から消えていった。




