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スシ・ブレイド

 嵐の真空波で巨大なトラックが真っ二つになり、爆発した。


 怪獣教団ダクマナ派の本拠地は爆散した。


 集められた裏の闇バイト達は、何が起きているのかまったく理解できてない様子でスマホを構えたり、狩りの獲物を品定めしていた。


「なんだあれ、怪獣教団のパフォーマンスか!?」「真っ二つだぜ!」「爆発したぜ!」

「神映像ゲット! 絶対バズるぜ」「あの程度、チャイナンのバク・チックのほうが絶対派手アルネ!」

「AI生成のほうが迫力あるね」

「おいみろよ!」

「女だ! 女がいるぞ」

「あのメス俺のな」(ミュージシャンを指さす)

「『みんなの』だろ。俺が先だぞ」

「ヒュー! マブいじゃん。俺の下で足掻け」

「膜破いた音を録音して着信音にするわ」

「えーと逮捕拉致監禁すればいいんだっけ先輩?」「親戚全員呼んで母乳ださせてやるアル!」「お前には聞いてねえ入ってくるな!」

「ワイのお嫁さん検定合格。中古でもいい値段で売れそうだぜ」

「息子も元気になった」


 騒ぎの中、一人の裏の闇バイトがショットガンを向ける。

 味方であるはずの他の『裏の闇バイト』へと。


「おいお前ら、バイクの自動運転設定を俺のバイクに同期させろ。Bluetoothでだ」

「あん?」

「設定?」

「どうやるんだよ」

「なんでだよ」

「だいたいお前のバイクのWi-Fiいくつだよ」

「うるせえなさっさとやれ!」


 ショットガンの裏の闇バイトは苛ついた様子だ。


「設定わかんねー」

「そもそもWi-Fiいくつか聞いてんだよ!」

「なあどうでもいいから女やらねえ」

「使えないゴミどもだな!」

「あれっ、監視アプリ切れてるじゃーん」

「うお本当だ。これバイクもう俺のものってことか」

「大儲けじゃん!」


 裏の闇バイト達が一気に騒ぎ出す。


「怪獣教団からレンタルした自動運転機能つき無免許対応バイクがタダでもらえる、もらえてるってコト!?」

「今日の稼ぎこれでいいな」

「ウォー」

「やったぜ」


 裏の闇バイトたちは歓喜のあまり勝手にバイクを乗り回しはじめ、あちこちを爆走する。


「勝手に走るんじゃねえ! バッテリー街までギリなんだぞ!」

「ギャーハハハ!」

「ヤベー!」

「ヒュー!」


 ショットガンを持った裏の闇バイトが叫ぶが、誰も聞く耳を持たない。


「――本当に統制のとれてない烏合の衆だな」


 裏の闇バイトの数人が、ミュージシャンたちを誘拐するため、バイクで近づいてきた。


「邪魔だ! 極大魔法サイクロン・バスター!!」


 とても強い風が吹き、轟音が響き、竜巻が出現。

 バイクがすべて宙に舞い上がり、裏の闇バイトを乗せたままバイオの森林の奥へと消え去った。


「ウァー!」「ギャー!」「オタスケー!!」

「ゴミのような裏の闇バイトどもめ!」


 嵐たちが声のした方を見ると、黒い雲に乗った四人の集団がいた。

 杖とローブを装備し、顔を隠した魔法使いのような集団である。


「我々はエヴァプール魔法学園!」


 黒い雲に乗った魔法使いたちが自己紹介した。


「ダクマナを倒したのその力は紛れもなく『魔力』!」

「魔力に愛された申し子を我が学園にお迎えにまいった!」


 黒い雲に乗った魔法使い達が目的を語る。


「――どうやら彼奴等は、リスティの身柄が目的らしいな」


 嵐が言う。


「ああいうのはいままでたくさん居たわね。地球でも。このパターンはもっとたくさん出てくるわよ」


 いつの間にかキャンプ用の折りたたみ椅子に座り、事態を眺めていたリスティが言う。


 銀狼ナオエ、ミュージシャン、ファインケルの三人は言われたとおりキャンプの片付けをしている。

 銀狼ナオエはツッコミや解説をやりたそうだが、嵐に声をかけられるまで言われた仕事を黙々とこなしていた。


「あいや、待たれい!」


 バイオの森の中から、ごつい肩アーマーとマント、羽つきの帽子で武装した集団が現れた。人数は四人。


「我々は精霊使い!」

「ダクマナを倒したその力、間違いなく『精霊力』!」

「精霊に愛された愛し子をお迎えにまいった!」


 次の集団が現れた。


「我々は呪術集団アンゾック!」

「ダクマナを倒した力は本当は『呪力』!」

「我々以外に呪力を使うものは危険過ぎる」

「呪力の危険性を知る我々の管理下に置かせてもらう!」


 次の集団が現れた。


「我々は地獄の使い!」

「超絶怪獣ダクマナは地獄に送られた」

「その力はまぎれもなく『冥力』!」

「地獄の力は我々のもとに返すべきだ」


 次の集団が現れた。


「我々は聖魔騎士団!」

「ダクマナを葬った力の正体は『聖魔力』!」

「よってダクマナ討伐の名誉は聖魔騎士団のものだ」

「当然、討伐者も聖魔騎士団の管理化にある!」


 次の集団が現れた。


「我々は新宿古代武術研究会!」

「ダクマナを倒した本当の力は失われた古代武術、『掌底突(しょうていとつ)』とみた!」

「看破ァ!」

「伝説のエンシェントパワー、一手ご指南願いたい!」


 次の集団が現れた。


「あたし達は心の慈善募金団体聖なる家ホーリークロスホーム!」

「あの力こそ究極無敵の平和の力『心力』!」

「心力の継承者をやっと見つけた」

「奴隷にして孕ませて心力の継承者を増やしまくってやるわあ……ウッ」(即死)

「団長が死んだ!」



「――馬鹿め」


 嵐が冷ややかな目で死んだ女を見る。


「あちゃー」


 リスティが困ったような顔をする。


「ドームの外はエネルギッシュな馬鹿どもだらけなのは知っていたから、一人で走り抜けたかったんだ――」


「それはずるいのよ、あなた」


 次の集団が現れた。


「我々はダクマナ会!」

「ダクマナを神として崇める土着宗教集団!」

「ダクマナ神の敵討ちをする!」

「怪獣教団ダクマナ派のような火事場泥棒とは別口である!」


 次の集団が現れた。

 まだまだ集団は後ろに控えているが、自己紹介がすべて終わる事を我慢できなくなった者も当然いた。


「ダクマナを倒したチカラ……素晴らしい。この世の素晴らしいものは我が神によって余のために用意されたものだ。余のために用意されたものなら、余の手の中に収まるのが当然よな」


 貴族のような金ピカの衣装を着た、車の上に玉座のついた玉座カーに乗った余が言い放った。

 玉座カーの周囲には取り巻きたちがいる。


「そもそもお前らは何者か。ダクマナを倒す前は何をやっていたのか」

「その情報だけでも数億円の価値がある!」

「いけ、テレパシスト」

「お前の心を読んでやるぜー!」


 テレパシストと呼ばれた男が、リスティを指さす。

 しかし、嵐が割って入った。


「――心を読む。妖怪で言うところのサトリか」


 嵐は顔色ひとつ変えない。


「う、これは……」


 テレパシストは真っ青になる。


「私はこの惑星のすべての事象を把握できる。十キロ先で針が落ちた音を聞き分けるというのも当然として、惑星の反対側で水滴が落ちる音も把握できる。いちいち気を使っていられないから、仕事に関係ない部分は無意識に全部無視しているがな。さて、そんな私の心を読むと――どうなるかわかるな」


「じょ、情報量が多すぎる。こんなの正気でいられる訳がない」


「だから――私は『最狂の探偵』なのさ」


 テレパシストは情報量の多さに脳がパンクして鼻血耳血を吹き出し倒れる。


「テレパシストがやられたぞ」

「おい、次は俺達の順番だぞ!」「割り込むんじゃねえ!」「整理券もってんのか!?」

「もういい、実力行使だ!」


 誰かが言った。


「ヒャッハア! 俺のスシを喰らえ!」


 お手本のようなヒャッハーの叫びとともに、回転するマグロ・スシが周囲に集まっていた数人を薙ぎ払う。


「――むっ!」


 嵐が反応した。


「未知のエネルギーである『渦』の力をもつこのイタマエ・サブローが、この場を制す!」


 寿司屋の板前のような男が現れた。上下に構えた両手の間にマグロ・スシ。

 マグロ・スシは青いバリアーに包まれる。

 青いバリアーに包まれたマグロ・スシは、手のひらから浮く。

 宙に浮く。驚くべきことだ。

 さらに浮いたマグロ・スシが高速で回転する。

 超高速回転したマグロ・スシが弾丸……いやフリスビーのように射出され、さらに数名を薙ぎ払った。


「ギャー」

「ウワー」


 数名にぶつかっても、マグロ・スシは青いバリアーに覆われており、傷ひとつつかない。シャリが崩れない。


「――なんということだ。スシ・ブレイドの使い手がこの世界にもいようとは!」


 嵐がイナリ・スシを片手に叫んだ。


「おい! 貴様!」


 嵐が叫んだ。


「スシ・ブレイドの使い手ならば相応の作法があろう」


「なにっ!」


 寿司屋の板前のような男、イタマエ・サブローが返答する。

 嵐は左手の古い日本刀を構えた。


「オブジェクト魔剣法、スシ・ブレイド! ――イナリ・ファランクス!!」


 新たなる魔剣法だ!


「ともに唱えろ――」


 嵐が右手のイナリ・スシを差し出す。


「ワン! ツー!」


 嵐が叫ぶ。


「ワン? ツー?」


 つられてイタマエ・サブローも叫ぶ。やや困惑しながら。


「スリー!」

「スリー?」


 嵐が右手にもつイナリ・スシが黒いバリアーに包まれる。

 イタマエ・サブローの顔色が変わった。


「ヘイラッサイ!」

「ヘイらっしゃい!?」


 イタマエ・サブローが嵐に向かって青いバリアーに包まれたマグロ・スシを放つ。

 嵐も黒いバリアーに包まれたイナリ・スシを放つ。

 二つのスシがぶつかり合う。


 ガキィン!


 黒と青のバリアーが激しくぶつかり合い、反発し、弾ける。


 二つのスシは、野営地を囲むように円陣を組んでいた観衆に向かって跳んでいく。


「おい」

「こっちにくるぞ」

「こっちくんなーーー!」


 ドゴオ!


 二つのスシは観客の土手っ腹に、顔面に、次々とぶつかりながら野営地を跳ね回る。


「ハハハ! ――観客に囲まれたここが私たちのバトルフィールドだッ!」


 嵐が異様なハイテンションで叫ぶ。


「いけっ! ――イナリ・ファランクス!」


 ギュンギュン!


 イナリ・ファランクスが回転速度を上げ、観客たちを蹂躙し、跳ね飛ばし、轢き潰す。

 魔法学園が、聖魔騎士団が、呪術集団が、クロスなんちゃらを名乗るただの詐欺師が、スシの体当たりでどんどんと脱落していく。


「――ハハハ! いいぞイナリ・ファランクス!」


 キャラ崩壊したのかと心配になるくらいハイテンションな嵐。

 まるでおもちゃで遊んでいる子どものようだ。


 跳ね回る黒いバリアーは観客をどんどん巻き込み、諦めたような表情で片付けをする銀狼ナオエの頭上を通過し、ミュージシャンのたなびく髪の毛にかすったりしつつこれでもかと暴れまわる。


「ちょ! 髪! かすったみゅ~! ノーコン! おばか~!」

「――外野の声は無視していよいよクライマックス!」


 ガン!


 周囲を跳ね回っていた二つのスシが再びぶつかり合う。

 勝負は一瞬。

 青いバリアーに包まれたマグロ・スシがイタマエ・サブローを顔面を巻き込んで遥か遠くに跳んでいった。


「勝負あったな」


 イナリ・ファランクスが嵐の右手に戻る。


「――解除」


 黒いバリアーが消え失せ、イナリ・ファランクスがただのイナリ・スシに戻る。

 嵐は左手の古い日本刀を鞘に戻した。



 周囲には死屍累々(死んでない)で惨憺(さんたん)たる有様であった。


 ダクマナを倒した新たな存在を手に入れようと集まってきた集団がこごとく嵐のイナリ・スシに打ちのめされ、倒れ伏している。


「――ふう。撤収の準備は終わったか。」

「終わりましたよ」


 銀狼ナオエが返答する。


「よし、先に進むぞ」

「あの~何が起きたんです?」


 銀狼ナオエが聞いてきた。


「ちょっとキャンプしてたら知らないおっさん達に話しかけられて、ちょっと流行りのおもちゃで遊んで解散するようなものってだけだ」

「はあ……現実と認識がずれてる怪物の話ししてます?」

「ようなものって言っただろう。――行間を読み給え」

「行間!?」


 銀狼ナオエの二本の角が生えてる銀髪を左手でぽんぽん叩いて、嵐はソーラーカーに向かう。


 リスティが立ち上がり、折りたたみ椅子を片手に、嵐に聞いてきた。


「楽しかった?」

「――ほどほどに」

「それはよかったわ」


 にっこり、リスティが笑う。

 それだけで、周囲が浄化されたように輝いた。


「あなた朝ごはんまだでしょ。それ、もちろん食べるわよね?」


 リスティがイナリ・スシを指さす。


「――当然だろう」


 嵐はむしゃりと、イナリ・スシにかぶりついた。

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