第四十話 光を越える星膜
鐘が鳴った。
その瞬間、闘技場の空気が押し潰された。
ベイル女王が一歩踏み込んだだけだった。
ただ、それだけ。
だが、その一歩は普通の戦士の踏み込みではない。
大地を割り、空気を叩き、観客席の結界すら震わせる一歩。
巨大な盾を前に構え、光の剣を後ろへ引く。
盾の突進。
トーマが受けたものより、明らかに重い。
出力制限があるはずなのに、それでもなお別格。
ベイル女王は叫ぶ。
「まずは挨拶だ!」
盾が迫る。
テリア女王は小さく笑った。
「相変わらず、挨拶が荒いのう」
彼女の前に、青白い魔力膜が展開された。
一枚ではない。
二枚。
三枚。
五枚。
七枚。
薄い膜が花びらのように重なり、盾撃を受け止める。
轟音。
闘技場全体が揺れた。
観客席の結界が一瞬白く光る。
トーマは思わず身を乗り出した。
「受け止めた……!」
ロイドが険しい顔で頷く。
「いえ、完全には受け止めていません。力を層ごとに分散しています」
ベイル女王の盾は、テリア女王の魔力膜を一枚ずつ砕きながら進んでいた。
一枚目が割れる。
二枚目が割れる。
三枚目がひび割れる。
だが、そのたびに力が削られていく。
最後の膜に届いた時、盾の勢いは大きく落ちていた。
テリア女王は半歩だけ後ろへ滑る。
それだけで止めた。
ベイル女王は笑う。
「やはり硬いな!」
「お主こそ、相変わらず馬鹿力じゃ!」
「褒め言葉だな!」
「半分はの!」
テリア女王の指が動いた。
砕けた魔力膜の破片が、空中で小さな結晶のように光る。
それらが一斉にベイル女王へ向かった。
魔法弾。
いや、膜の破片を再利用した反撃。
ベイル女王は盾を構え、真正面から受ける。
青白い破片が盾に次々とぶつかり、火花のように散った。
「ぬるい!」
ベイル女王が盾を振り払う。
破片が吹き飛ぶ。
だが、その背後にテリア女王の第二術式が完成していた。
彼女の足元に、巨大な円形魔法陣。
そこから無数の細い光の帯が伸びる。
「ぬるいかどうかは、ここからじゃ」
光の帯がベイル女王の腕、足、盾へ絡みついた。
拘束術式。
ベイル女王の動きが一瞬止まる。
アリスが観客席で目を細めた。
「あれ、研究塔で見たことある。相手の力を受けて、拘束強度に変える式よ」
トーマが聞く。
「つまり?」
ロイドが答える。
「ベイル女王が力を込めるほど、拘束が強くなる」
ミアが目を輝かせる。
「すごい!」
ユナが静かに言う。
「でも、相手がベイル女王」
その言葉通りだった。
ベイル女王は絡みつく光の帯を見て、にやりと笑った。
「力を込めるほど硬くなる?」
テリア女王は頷く。
「そうじゃ。さて、どうする?」
「決まっておる!」
ベイル女王は全身に力を込めた。
光の帯がぎしりと強く締まる。
普通の戦士なら、そのまま身動きできなくなる。
だが。
「硬いなら!」
ベイル女王の筋肉が隆起する。
盾に光が集まる。
「それより強く動けばよい!」
光の帯が悲鳴を上げた。
一本、二本、三本。
拘束が力任せに引き千切られていく。
テリア女王は顔をしかめた。
「お主は本当に術式泣かせじゃな!」
「術式に勝てばよいだけだ!」
「会話にならぬ!」
ベイル女王が拘束を破り、光の剣を振る。
巨大な斬撃。
光の刃が地面を裂きながらテリア女王へ迫る。
テリア女王は両手を広げた。
今度は丸い障壁ではなく、斜めに傾いた膜。
斬撃を受け止めるのではなく、流す。
斬撃は膜に触れ、角度を変えて上空へ逸れた。
会場の上空で爆ぜる。
観客席から歓声が上がる。
「すごい……」
ノアが呟く。
彼女の目はテリア女王の魔法に釘付けだった。
守る膜。
流す膜。
支える膜。
ノアが教わっているものと同じ発想。
だが、規模も精度も桁違いだった。
ノアは思わず手を握りしめる。
「私も、あんなふうに……」
トーマはノアを見る。
「できるようになる」
ノアは驚いたように彼を見た。
トーマは笑う。
「すぐじゃないかもしれない。でも、できるようになると思う」
ノアは少しだけ頬を赤くして、頷いた。
「うん」
闘技場では、ベイル女王がさらに攻めていた。
盾。
剣。
蹴り。
踏み込み。
盾。
剣。
動きが豪快で速い。
まるで嵐だった。
テリア女王はそれを魔力膜で受け、流し、ずらし、かわす。
だが、楽に見えるわけではない。
一撃ごとに膜が砕れる。
一撃ごとに魔力が削られる。
ベイル女王の攻撃は単純ではない。
豪快ではある。
だが、野蛮なだけではなかった。
盾撃で防御膜を割り、剣で隙間を広げ、踏み込みで距離を潰す。
テリア女王が作った逃げ道へ、先回りするように圧をかける。
「考えてるのか、あれ……?」
トーマが思わず呟く。
ロイドは頷く。
「考えているのか、経験でやっているのか判別が難しいですね」
レナが胸を張る。
「ベイル女王はすごいからな!」
ユナがぽつりと言う。
「レナさんと同じ匂いがする」
「私もああなれるか!?」
ロイドが即答する。
「ならないでください」
「なぜだ!」
「会場が壊れます」
一方、テリア側のアリスは祈るように拳を握っていた。
「女王様……」
ロイは短く言う。
「押されてる」
「分かってるわよ」
イリスが静かに言った。
「でも、テリア女王陛下はまだ大きな術式を使っていません」
リンが治療席で微笑む。
「つまり、ここからが本番ですか」
ガーネが言う。
「ベイル女王も、まだ上がる」
カノンが頷く。
「怖い試合」
誰も否定しなかった。
⸻
ベイル女王の盾が、テリア女王の膜をまた砕いた。
青白い破片が散る。
テリア女王の足が、今度は一歩後ろへ下がった。
さらにもう一歩。
押されている。
ベイル女王は笑う。
「どうした、テリア! いつもの小賢しさが足りんぞ!」
「小賢しいとは失礼じゃのう!」
「褒めておる!」
「今のは完全に悪口じゃ!」
テリア女王は指を鳴らした。
砕けた魔力膜の破片が、今度は空中で一点へ集まり始める。
それは小さな星のような光になった。
一つ。
二つ。
三つ。
青白い星が、テリア女王の周囲に浮かぶ。
ベイル女王の目が鋭くなる。
「来るか」
「うむ。少しは派手にしてやろう」
テリア女王の瞳が光る。
「星膜術式、展開」
青白い星が一斉に動いた。
それぞれが薄い膜を広げる。
丸い膜。
斜めの膜。
反射する膜。
吸収する膜。
弾く膜。
無数の膜が重なり、闘技場の一角が青白い星座のように変わった。
ベイル女王が踏み込む。
盾撃。
しかし、盾はテリア女王に届く前に、複数の膜に当たる。
一枚目が受ける。
二枚目が横へ流す。
三枚目が力を吸う。
四枚目が反発する。
ベイル女王の体が、わずかに横へずれた。
その瞬間、星の一つが光る。
魔力弾がベイル女王の脇腹へ飛ぶ。
ベイル女王は盾を回して受ける。
だが、そこへ別の星から光の帯。
足元を狙う。
さらに別の星から反射弾。
今までのテリア女王は、受けて流す防御が中心だった。
だが、この星膜術式は違う。
防御と攻撃が一体化している。
攻撃を受けるほど星が光り、星が光るほど次の術式が展開される。
テリア女王の得意とする研究の結晶。
相手の力を読み、受け、分解し、反撃へ変える魔法陣群。
「これは……!」
ロイドが記録板を握りしめた。
「多層反応型防御攻撃術式。しかも、ほぼ自律制御です」
トーマが呆然とする。
「つまり?」
アリスが遠くで叫んだ。
「攻撃しても、守っても、女王様の術式が勝手に返すってことよ!」
レナが目を輝かせる。
「すごい!」
ユナが冷静に言う。
「でも、維持が大変そう」
その通りだった。
テリア女王の額には、汗が浮かんでいる。
星膜術式は強力だ。
だが、膨大な魔力と集中を必要とする。
しかも相手はベイル女王。
並の相手なら星膜術式の反応だけで封殺できる。
しかしベイル女王は、その反応ごと押し切ろうとしていた。
「面白い!」
ベイル女王が笑う。
盾で膜を砕く。
反射弾を剣で叩き落とす。
足元の拘束を踏み砕く。
吸収膜に光の剣を押し込み、吸収量を超える魔力で破裂させる。
「術式が多いなら!」
盾を振る。
「全部割ればよい!」
星膜の一つが割れた。
テリア女王の眉が動く。
「だから、お主は本当に……!」
二つ目が割れる。
三つ目がひび割れる。
だが、テリア女王もただ割らせているわけではない。
割れた星の破片が、次の星へ流れ込む。
壊された膜の情報を、次の膜が受け取る。
ベイル女王の力の癖。
盾の角度。
剣の振り。
踏み込みの重心。
全てを記録し、次の防御に反映する。
「ほう」
ベイル女王がにやりと笑う。
「だんだん硬くなるな」
「学習する術式じゃ」
「なら、学習が追いつかぬほど強く行く!」
「そう来ると思ったわ!」
ベイル女王が盾を構え直す。
その盾に、今までで最大の光が集まった。
出力制限あり。
だが、その制限のぎりぎりまで魔力を込めている。
審判団がざわつく。
結界担当の魔法使いたちが一斉に補強を始める。
「ベイル女王、出力上限接近!」
「闘技場結界、第三層まで解放!」
「観客席への反動を遮断しろ!」
テリア女王も、その力を見て表情を引き締めた。
「来るか」
ベイル女王は叫んだ。
「受けてみよ、テリア!」
巨大な盾が、光の塊になる。
そして、ベイル女王が突進した。
盾撃。
だが、もはや盾撃というより、光の城壁が走ってくるようだった。
星膜術式の星たちが、一斉にテリア女王の前へ集まる。
一枚。
三枚。
十枚。
二十枚。
幾重もの膜が重なった。
衝突。
音が消えた。
あまりに大きな衝撃に、耳が追いつかなかった。
次の瞬間、遅れて轟音が来る。
闘技場の床が割れる。
結界が白く染まる。
観客席から悲鳴と歓声が混ざった声が上がる。
星膜が次々と砕ける。
一枚。
五枚。
十枚。
テリア女王の足が地面にめり込む。
ベイル女王の盾が迫る。
残りの膜は少ない。
アリスが叫ぶ。
「女王様!」
テリア女王は歯を食いしばった。
「まったく……!」
彼女の目が、楽しそうに光った。
「昔からお主は、ワシの計算を力ずくで破ってくる!」
ベイル女王も笑う。
「お主は昔から、我の力を妙な理屈でずらしてくる!」
「ならば!」
テリア女王が両手を合わせる。
砕けた星膜の破片。
今まで受けてきた衝撃。
ベイル女王の盾撃の力。
その全てが、テリア女王の背後に集まり始める。
ロイドが目を見開く。
「まさか……受けた力を、全部保持していた?」
トーマが息を呑む。
「全部?」
「はい。完全ではありませんが、ベイル女王の攻撃力の一部を星膜内に蓄積していたのです」
ノアが震える声で言う。
「返すの……?」
テリア女王は叫んだ。
「星膜反転」
青白い星たちが一斉に黒にも近い深い蒼へ変わる。
「返礼じゃ、ベイル!」
ベイル女王の盾撃を受け止めていた膜が、反転した。
押し返す。
ただの反発ではない。
これまでベイル女王が与えた力を、圧縮して返す反撃。
ベイル女王の目が見開かれる。
「おお!」
盾と星膜の間で、蒼い光が爆ぜた。
ベイル女王の体が、初めて大きく後ろへ押された。
一歩。
二歩。
三歩。
観客席が沸き立つ。
テリア女王もただでは済んでいない。
星膜術式のほとんどが砕け、彼女自身も膝をつきかけていた。
だが、まだ立っている。
ベイル女王も盾を地面に突き刺して踏みとどまる。
笑っていた。
「やるな、テリア!」
「お主こそ、今ので倒れぬのか!」
「倒れたらつまらぬ!」
「まったくじゃ!」
二人は同時に息を吐いた。
ここまでで、すでに並のヴァルキリーなら何度も戦闘不能になっている。
だが、二人の女王はまだ立っている。
いや。
ここから最後の一手に入る。
ベイル女王は盾を構える。
光の剣を引く。
「次で決めるぞ」
テリア女王は残った星を二つだけ浮かべた。
「奇遇じゃな。ワシもそのつもりじゃ」
闘技場の空気が張り詰める。
ベイル女王は突進した。
今度は盾だけではない。
盾で押し、剣で切る。
盾撃と斬撃の同時攻撃。
避ける道はほとんどない。
テリア女王は星を一つ前へ出した。
盾を受ける。
割れる。
二つ目の星が剣を受ける。
ひび割れる。
ベイル女王が叫ぶ。
「届いたぞ!」
光の剣が、テリア女王の目前へ迫る。
だが、テリア女王は笑った。
「届かせたのじゃ」
割れた一つ目の星の破片が、ベイル女王の盾の裏へ回り込んでいた。
二つ目の星のひびから、細い魔力糸が伸びていた。
盾と剣。
ベイル女王の二つの力の流れ。
それを、テリア女王は最後の一瞬で結んだ。
「星膜縛鎖」
盾に込めた力と、剣に込めた力が、互いに干渉する。
ベイル女王の動きが止まった。
ほんの一瞬。
本当に一瞬。
だが、女王同士の戦いでは、それで十分だった。
テリア女王は全魔力を右手に集める。
小さな掌。
そこに、青白い星が生まれる。
「これで」
彼女はベイル女王の胸元へ、その星を押し当てた。
「終いじゃ」
星が弾けた。
爆発ではない。
内部衝撃。
ベイル女王の盾と鎧をすり抜け、体の芯だけを揺らす魔法。
ベイル女王の目が見開かれる。
「……っ!」
彼女の足が、一歩下がった。
もう一歩。
盾を支えに踏みとどまろうとする。
だが、膝が落ちた。
片膝。
観客席が静まり返る。
ベイル女王はなおも立とうとした。
光の剣を地面に突き、歯を食いしばる。
テリア女王ももう限界だった。
星膜は消え、魔力もほとんど残っていない。
二人とも、あと一押しで倒れる。
ベイル女王は笑った。
「……見事」
テリア女王は肩で息をしながら答える。
「お主もな」
ベイル女王は立とうとした。
だが、体が言うことを聞かなかった。
内部衝撃が、完全に足を止めている。
審判が近づく。
「ベイル女王、続行可能ですか?」
ベイル女王は大きく息を吐いた。
そして、豪快に笑った。
「無理だ!」
会場がどよめく。
ベイル女王は盾を下ろし、潔く告げた。
「我の負けだ!」
審判が手を上げる。
「勝者、テリア王国代表、テリア女王!」
一瞬の静寂。
そして、爆発するような歓声。
闘技場全体が揺れるほどの拍手が起こった。
テリア女王はふらつきながらも、何とか立っていた。
アリスが叫ぶ。
「女王様!」
テリア女王は片手を上げる。
「大丈夫じゃ……たぶん」
アリスの顔が引きつる。
「たぶんって言うな!」
ベイル女王は片膝をついたまま、大笑いしていた。
「はははは! 負けた! 負けたぞ、テリア!」
「そんなに嬉しそうに負けるでないわ」
「楽しかったからな!」
「まったく、お主は……」
テリア女王は近づき、ベイル女王に手を差し出した。
ベイル女王はその手を見る。
そして、にやりと笑って掴んだ。
テリア女王の腕が引っ張られ、危うく倒れかける。
「重いわ!」
「すまん!」
「絶対わざとじゃろ!」
「半分は!」
「全部ではないのが余計に腹立つ!」
二人のやり取りに、観客席から笑いと拍手が混ざる。
だが、その場にいた誰もが理解していた。
今の試合は、ただの派手な女王対決ではなかった。
盾と魔法。
力と理。
豪快さと緻密さ。
長年のライバル同士だからこそ成立した、ぎりぎりの戦い。
そして勝ったのは、テリア女王。
本当にわずかな差。
最後の最後で、ベイル女王の力を利用し、魔法で縛り、内部から揺らした。
ギリギリの勝利だった。
⸻
第二カード群の結果が掲示板に浮かぶ。
ベイル王国 1勝
テリア王国 3勝
第二カード群は、テリア王国の勝利。
会場はまだ熱に包まれている。
トーマは息をするのも忘れるほど見入っていた。
「すごかった……」
それしか言えなかった。
ノアも頷く。
「うん……すごかった」
彼女の目には、あの星膜が焼きついている。
テリア女王の魔法。
守り、流し、支え、そして返す。
ノアが目指すものの遥か先。
けれど、遠すぎるからこそ、道が見えた。
「私、もっと練習したい」
ノアが小さく言った。
トーマは彼女を見る。
「今すぐ?」
「今すぐは駄目って言われそう」
ロイドが横から即答する。
「駄目です」
「やっぱり」
ノアは少し笑った。
トーマも笑う。
一方、ソルはテリア女王を見ていた。
「さすがだな」
ロイドも頷く。
「ベイル女王を魔法戦で押し切るのではなく、受けて利用した。完璧ではありませんでしたが、最後の判断が見事です」
レナは目を輝かせたまま言う。
「二人ともすごかったな! 私もあれくらいになれるか!?」
「方向性が違いすぎます」
ユナが静かに言う。
「レナさんがあれをやったら、魔法膜ごと突っ込みそう」
「強そうだ!」
ミアも頷く。
「私もやりたい!」
「ミアも突っ込みそう」
「じゃあ二人で突っ込むか!」
「止める」
ユナは即答した。
トーマはそのやり取りを聞きながら、掲示板を見上げた。
第一カード群。
シェイン対ベイルは引き分け。
第二カード群。
テリアがベイルに勝利。
次は第三カード群。
テリア王国 対 シェイン王国。
トーマの胸が、静かに高鳴った。
そこには、まだ残っている大きな試合がある。
アリス対ロイド。
レナ対イリス。
ソル対ロイ。
そして。
トーマ対テリア女王。
先ほどベイル女王をギリギリで破った、あのテリア女王と。
トーマは拳を握る。
勝てるとは思えない。
でも、もう分かっている。
勝つことだけが目的ではない。
テリア女王の星膜。
ベイル女王の盾。
レナの速さ。
ロイドの恐怖を認める強さ。
ソルの戦場を変える力。
ガーネの重さ。
ロイの影。
アリスの魔法花。
リンの甘い毒。
カノンの矢。
イリスの鏡。
この大会には、受け取るべきものが多すぎる。
トーマは小さく呟いた。
「俺も、次に持っていく」
ノアが隣で頷く。
「うん」
テリア女王は治療班に支えられながら、遠くからトーマを見た。
そして、ほんの少しだけ笑った。
まるで言っているようだった。
負けても構わぬ。
じゃが、何も得ずに終わることは許さぬ。
トーマはその視線を受け止めた。
次の戦いが、静かに近づいていた




