↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Reincarnation -Record of memories-  作者: 斗真
第三章 戦乙女たちの招待状

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/48

第三十四話 眼鏡の奥と甘い毒

第一試合の熱が、まだ闘技場に残っていた。


レナとガーネ。


速さと重さのぶつかり合いは、観客たちの心を一気に掴んだ。


勝者はベイル王国、ガーネ。


だが、敗れたレナにも惜しみない拍手が送られていた。


場外へ運ばれていくレナは、治療班に支えられながらも、まだ悔しそうに笑っていた。


「次は勝つぞー!」


声が大きい。


ロイドは控え席で眼鏡を押し上げる。


「治療中に叫ばないでください」


「聞こえた!」


「聞こえるように言いました」


トーマは思わず笑った。


「レナらしいな」


ノアも頷く。


「負けたのに、すごく前を向いてる」


「そうだな」


トーマは闘技場を見つめた。


負けても、終わりではない。


レナはそれを最初の試合で見せた。


今度は、第二試合。


ロイド対リン。


空気は一気に変わろうとしていた。


速さと重さの力比べから、今度は頭脳と駆け引きの戦いへ。


審判が中央に立つ。


「第二試合。シェイン王国代表、ロイド。ベイル王国代表、リン」


ロイドが静かに立ち上がった。


白い制服の襟を整え、手袋をはめ直す。


彼女の武器は細身の剣と、小型の魔法端末。


直接戦闘よりも作戦や指揮を得意とする彼女にとって、単騎戦は決して得意分野ではない。


だが、弱いわけではなかった。


彼女は自分の弱さを知っている。


だからこそ、準備をする。


相手の癖を読む。

間合いを測る。

逃げ道を用意する。

罠を張る。

一手先ではなく、三手先を見て戦う。


ロイドはそういうヴァルキリーだった。


対するリンは、ゆっくりと立ち上がった。


艶やかな笑み。


しなやかな動き。


腰には大小のチャクラム。


彼女は歩くだけで、周囲の視線を奪う。


観客席から、ざわめきが起こった。


「あれがリンか」


「ベイルの妖艶な戦士」


「勝つためなら手段を選ばないって噂だぞ」


「ロイドは大丈夫なのか?」


リンはその声を楽しむように、軽く手を振った。


「ふふ。期待されるのは悪くありませんねぇ」


ロイドは闘技場へ向かいながら言った。


「目立つのがお好きなようで」


リンは振り返る。


「あら、ロイドさんは嫌いですか?」


「不要な注目は判断を鈍らせます」


「では、私がたっぷり注目を浴びておきますねぇ」


「助かります」


「本気で言ってます?」


「半分は」


リンは楽しそうに笑った。


「あなた、見た目よりよほど言いますねぇ」


「見た目通り堅いだけでは、戦場で生き残れませんので」


二人は中央へ進む。


観客席のシェイン側では、ミアが身を乗り出していた。


「ロイドさんって、戦うのか?」


ユナが答える。


「戦う」


「作戦担当のイメージだった」


ノアも頷く。


「私も少しそう思ってた」


トーマはロイドの背中を見る。


「でも、ロイドが弱いわけないよな」


ソルが隣で静かに言った。


「単純な戦闘力なら、リンの方が上だ」


「そうなのか?」


「ああ。正面から打ち合えばロイドは不利だ」


「じゃあ、どう勝つ?」


ソルは短く答えた。


「正面から打ち合わない」


その言葉通り、ロイドは戦い方を選ぶはずだった。


一方、ベイル側の控え席では、ベイル女王が腕を組んで笑っていた。


「リンの番か。これは荒れるな!」


カノンが淡々と言う。


「ロイドは冷静そう」


ベイル女王は頷く。


「だからこそリン向きだ!」


ガーネは治療を受けながら言った。


「リン、嫌な戦い方する」


リンは遠くから聞こえたのか、振り返って微笑む。


「褒め言葉として受け取りますねぇ」


「褒めてる」


「ありがとう、ガーネ」


ロイドはそのやり取りを聞きながら、心の中で情報を整理していた。


リン。


大小のチャクラムを扱う。

中近距離対応。

誘惑や心理的揺さぶりを好む。

勝つためなら手段を選ばない。

相手の判断を遅らせる言動が多い。


つまり、試合開始前からすでに戦いは始まっている。


ロイドは眼鏡の奥で、静かに息を整えた。


「ロイド」


背後からトーマの声。


ロイドは振り返らない。


「何でしょう」


「勝ってこい」


ロイドは一瞬だけ動きを止めた。


それから、わずかに口元を緩めた。


「努力します」


「そこは断言じゃないのか?」


「勝敗に絶対はありませんので」


「ロイドらしいな」


「ですが」


「勝つつもりで行きます」


トーマは頷いた。


「それでいい」


ノアが小さく言う。


「ロイドさん、頑張って」


ミアが拳を振る。


「勝って!」


ユナも静かに。


「気をつけて」


ロイドはその声を背中で受け取った。


返事はしない。


だが、歩みは少しだけ力を増した。


⸻


闘技場中央。


ロイドとリンが向かい合う。


リンは小さなチャクラムを指で回していた。


「よろしくお願いしますねぇ、ロイドさん」


「こちらこそ」


「痛くしないように頑張ります」


「それは信頼していません」


「ふふ、正直ですねぇ」


「あなたに嘘は通じにくそうなので」


リンの目が少し細くなる。


「本当に、面白い方」


ロイドは剣を抜いた。


細身の剣。


速さより精度を重視した武器。


左手には小型端末。


魔法陣を記録、展開、補助する道具。


リンは両手にチャクラムを構えた。


大きいものを右手に。

小さいものを左手に。


「では、少し遊びましょうか」


「遊ぶつもりはありません」


「なら、踊りましょう?」


「踊りも不要です」


「硬いですねぇ」


「よく言われます」


審判が手を上げる。


「第二試合、開始!」


鐘が鳴った。


先に動いたのはリンだった。


小型チャクラムが弧を描いて飛ぶ。


直線ではない。


ロイドの右側を通り過ぎるように見えて、途中で軌道を変える。


ロイドは一歩下がり、剣の腹で弾いた。


金属音。


同時に、リンが踏み込む。


大きなチャクラムを手に、近距離へ。


「反応が早いですねぇ」


「予測していました」


ロイドは剣で受ける。


力ではリンが上。


押し込まれる。


だが、ロイドは真正面から受けない。


剣の角度を変え、力を斜めへ逃がす。


リンのチャクラムがわずかに流れる。


そこへロイドの左手が動く。


小型端末から魔法陣が展開。


足元に薄い光の線。


リンは即座に跳ぶ。


「罠ですか?」


「はい」


「答えるのですね」


「見れば分かりますので」


リンが着地する。


その瞬間、ロイドはすでに距離を取っていた。


最初の交差。


互いに傷はない。


だが、観客席からは小さなどよめきが起こる。


派手ではない。


だが、速い読み合いだった。


トーマは思わず息を吐いた。


「今の、何をしてたんだ?」


ユナが首を傾げる。


「ロイドさんが足元に何か置いた」


ノアが言う。


「リンさんがすぐ避けた」


ソルが説明する。


「ロイドは接近される前提で罠を置いた。リンはそれを読んで跳んだ。だが、跳ばせたことでロイドは距離を作った」


ミアが顔をしかめる。


「もう難しい!」


トーマも頷く。


「分かる」


ソルは静かに言う。


「この試合は、見た目よりずっと速い」


闘技場では、リンが微笑んでいた。


「なるほど。正面から付き合ってくれないのですね」


「あなた相手に正面から付き合う理由がありません」


「寂しいですねぇ」


「作戦ですので」


リンは小型チャクラムを再び投げた。


今度は二枚。


一枚はロイドの左肩へ。

もう一枚は足元へ。


ロイドは左の一枚を剣で弾き、足元の一枚を後退して避ける。


その瞬間、リンが指を鳴らした。


足元へ投げたチャクラムが跳ねる。


地面を削り、上へ。


ロイドの背後から襲う。


「っ」


ロイドは振り返らない。


端末を後ろへ向ける。


小さな防壁が展開。


チャクラムを弾く。


だが、その隙にリンが接近していた。


「背中、空きましたよ」


リンの足が、ロイドの膝を狙う。


ロイドは一瞬遅れる。


蹴りが入る。


膝が崩れかける。


リンのチャクラムが首元へ向かう。


観客席が息を呑む。


だが、ロイドは膝を崩しながらも、端末を地面へ押しつけた。


先ほど避けられた足元の罠。


その残りが起動する。


光の線がリンの足首へ絡む。


「!」


リンの動きが一瞬止まる。


ロイドはその一瞬で体を横へ倒し、チャクラムを避けた。


そのまま転がって距離を取る。


「危ないですねぇ」


リンが足首の光をチャクラムで切る。


「あなたの方こそ」


ロイドは立ち上がる。


膝を軽く動かす。


痛みはある。


だが動く。


「誘いましたね」


リンが笑う。


「あなたも、誘われたふりをしたのでしょう?」


「お互い様です」


ロイドは端末に指を走らせる。


戦況を更新する。


リンのチャクラムは投擲後、魔力糸のような制御で軌道変更可能。

地面や壁を使った跳弾も多い。

近接時は蹴りも混ぜる。

心理的揺さぶりは継続。


ロイドは息を整えた。


単純な速度では、リンに分がある。


武器の手数も多い。


なら、リンが攻める道を制限する。


ロイドは剣を下げ、端末を前に出した。


闘技場の床に、複数の光点が現れる。


リンはそれを見て、少しだけ目を細めた。


「地雷のようなものですか?」


「似たようなものです」


「答えすぎでは?」


「どうせ警戒するでしょう」


「確かに」


リンは笑った。


そして、光点の間を縫うように走り出した。


まるで舞うような足取り。


チャクラムが飛ぶ。


ロイドは弾く。


一つ、二つ、三つ。


防ぐたびに、リンは角度を変える。


光点を踏まない。

罠を避ける。

それでいて距離を詰める。


「あなた、足元ばかり見ていますねぇ」


リンの声が甘く響く。


「私を見てくれないと、寂しいですよ?」


「戦闘中です」


「戦闘中だからこそ、目線は大事です」


リンが髪を揺らす。


観客席の一部から歓声が上がる。


ロイドは眉一つ動かさない。


だが、リンは近づきながらさらに声を落とした。


「それとも、私を見るのが怖いですか?」


ロイドの指が一瞬止まった。


ほんの一瞬。


だが、リンはそれを見逃さない。


「ふふ」


チャクラムが加速する。


ロイドの肩をかすめた。


血が散る。


「ロイドさん!」


ノアが思わず叫ぶ。


トーマも立ち上がりかけた。


ソルが静かに言う。


「まだだ」


ロイドは肩の痛みに顔をしかめながらも、すぐに後退した。


「心理干渉」


リンは首を傾げる。


「ただの会話ですよ?」


「会話で判断を遅らせる。あなたらしい」


「私らしさを理解してくださって嬉しいですねぇ」


ロイドは肩の血を軽く押さえる。


リンは笑っている。


だが、その奥の目は冷静だった。


ただ誘惑しているわけではない。


相手の呼吸、目線、指の動き、反応の遅れ。


すべてを見ている。


ロイドは思った。


厄介。


本当に厄介。


リンは、力だけで勝つ相手ではない。


相手の心へ指を入れ、ほんの少しずらす。


そのずれで、刃を通す。


ロイドは息を吐いた。


「少し、認識を改めます」


「どう改めるのです?」


「あなたは、見た目通り危険です」


リンは嬉しそうに笑った。


「最高の褒め言葉です」


ロイドは端末を操作する。


闘技場の光点が消えた。


リンが眉を上げる。


「罠を消すのですか?」


「はい」


「なぜ?」


「足元を見すぎると、あなたを見る余裕がなくなるので」


リンの笑みが深くなる。


「ようやく見てくださるのですねぇ」


「ええ」


ロイドは剣を構え直した。


「観察します」


その言葉の瞬間、空気が少し変わった。


ロイドの目が、リンを真っ直ぐ捉える。


誘惑でもない。

挑発でもない。

美しさでもない。


戦闘対象として、徹底的に見る。


リンの歩幅。

肩の角度。

チャクラムを握る指の力。

視線の向き。

呼吸の間。


リンはその視線に気づいた。


「その目、少し怖いですねぇ」


「失礼しました」


「謝らなくていいですよ。嫌いではありません」


リンが再び走る。


今度は正面。


チャクラムが左右から飛ぶ。


ロイドは動かない。


ぎりぎりまで待つ。


そして、左のチャクラムを弾かずに避けた。


右は剣で受ける。


受けた瞬間、刃を滑らせて軌道を変える。


右のチャクラムが、リンの戻り軌道からわずかに外れた。


リンの指が動く。


制御し直す。


その一瞬、リンの肩がわずかに開いた。


ロイドは踏み込む。


細身の剣が、リンの脇腹へ向かう。


リンは目を細める。


「速い」


「遅い方です」


リンは身を捻って避ける。


だが、完全には避けきれない。


ロイドの剣先が、リンの服を裂いた。


観客席が沸く。


初めて、ロイドの攻撃がリンに届いた。


リンは距離を取り、自分の服の裂け目を見る。


「あら」


ロイドは剣を構える。


「浅いですね」


「服を裂かれるのは、少し困りますねぇ」


「降参しますか?」


「まさか」


リンは笑った。


その笑みは、今までより少し危険だった。


「少し、本気で嫌がらせをしましょうか」


トーマはその言葉に眉を寄せる。


「嫌がらせって、試合中に宣言するものなのか?」


ソルが静かに言う。


「リンならする」


リンは両方のチャクラムを手に戻した。


そして、魔力を流す。


大小のチャクラムが薄く光る。


それまでより軌道制御が強くなる。


さらに、リンの足元に赤い魔力の線が伸びた。


ベイル式の身体強化。


「ここからは少し速くなります」


「でしょうね」


ロイドは端末を握り直す。


リンが消えた。


先ほどまでより速い。


右からチャクラム。

左から蹴り。

背後から戻ってくる小型チャクラム。

正面から大きなチャクラム。


四方向。


ロイドは即座に判断する。


全部は防げない。


なら、最小被害。


彼女は右のチャクラムを剣で弾き、左の蹴りを受ける覚悟をする。


だが、リンの蹴りは寸前で止まった。


代わりに、彼女はロイドの耳元で囁いた。


「本当は、怖いのでしょう?」


ロイドの目が揺れた。


一瞬。


本当に一瞬。


その言葉は、地下闘技場での記憶を引きずり出した。


忘却の剣。

自分の術式が消えていく感覚。

自分で組んだはずの魔法を思い出せなくなる恐怖。

トーマに剣を向けられた時の無力感。


リンはそれを狙っていた。


ロイドの反応が遅れる。


背後から小型チャクラムが迫る。


「ロイド!」


トーマが叫ぶ。


名前。


ロイドの意識が戻る。


だが、避けきれない。


チャクラムが背中を裂いた。


ロイドが膝をつく。


観客席がざわめく。


リンは距離を取り、静かに微笑んだ。


「今の名前は、よく届きましたねぇ」


ロイドは肩で息をしながら立ち上がる。


「……あなた、本当に嫌な戦い方をしますね」


「勝つためです」


「ええ。理解しています」


ロイドの声は少し震えていた。


だが、目は折れていない。


「私も、怖いですよ」


その言葉に、リンの表情が少し変わった。


ロイドは続ける。


「地下闘技場で、自分の術式が消えた時。私の記録が、思考が、名前すら削られそうになった時。怖かった」


会場が静まる。


ロイドが自分の恐怖を口にする。


それは、彼女を知る者にとって意外なことだった。


硬く、冷静で、隙を見せないロイド。


その彼女が、恐怖を認めている。


リンは目を細める。


「それを、試合中に言うのですか?」


「はい」


ロイドは端末を構え直す。


「隠すと、そこを突かれるので」


トーマの胸が熱くなる。


それは、トーマ自身が学んだことでもある。


怖さを隠さない。


隠した怖さが、隙間になる。


ロイドはそれを実践している。


リンは小さく笑った。


「やりにくくなりましたねぇ」


「それが目的です」


「本当に、あなたは面白い」


リンの声から、少し甘さが消えた。


代わりに、戦士としての鋭さが増す。


「では、正面から崩しましょう」


「望むところです」


リンが再び動く。


ロイドも動く。


今度は、逃げるだけではない。


彼女はリンの攻撃を受けながら、位置を調整していた。


一歩。

二歩。

半歩。


リンは気づく。


「また罠ですか?」


「はい」


「見えませんねぇ」


「見えないようにしました」


リンの足元に光はない。


だが、ロイドが最初に消したはずの光点。


それらは完全に消えていなかった。


地面に薄く、観客には見えないほど薄く残っていた。


リンを追い込むためではない。


リンが自分から選んだと思う道を、少しずつ誘導するため。


ロイドは最初から、闘技場そのものを盤面にしていた。


リンが踏み込む。


その足が、ある一点に乗った。


瞬間、地面から光の格子が立ち上がる。


「!」


リンの足が止まる。


完全拘束ではない。


一瞬だけ。


だが、その一瞬で十分だった。


ロイドが踏み込む。


剣先がリンの胸元へ。


リンは笑った。


「惜しい」


彼女は自分のチャクラムを足元へ落とした。


チャクラムが光の格子を切る。


同時に、反動でリンの体が横へ流れる。


ロイドの剣は空を切る。


だが、ロイドもそれを読んでいた。


剣を振り抜かず、途中で止める。


左手の端末が光る。


リンの逃げた先に、小さな魔法弾。


リンは避ける。


しかし、その避けた先に、ロイドの剣の柄があった。


「っ」


柄がリンの腹部を打つ。


浅い。


だが、入った。


リンが後退する。


ロイドも追わない。


二人は距離を取る。


観客席が大きく沸いた。


互いに読み合い、誘い合い、傷をつけ合う。


派手な大技は少ない。


だが、見る者が見れば分かる。


これは高度な戦いだった。


リンは腹部を押さえ、楽しそうに笑った。


「ロイドさん」


「何でしょう」


「あなた、戦闘より指揮向きだと聞いていましたが」


「事実です」


「でも、単騎でも十分嫌な相手ですねぇ」


「褒め言葉として受け取ります」


「ええ。全部褒めています」


ロイドは息を整える。


肩と背中の傷が痛む。


膝も重い。


魔力も減っている。


リンはまだ余裕があるように見える。


だが、彼女にも確実に負荷はある。


試合は終盤へ向かっていた。


リンが両手のチャクラムを構える。


「次で決めましょうか」


「同意します」


ロイドは端末を剣に接続した。


細身の剣に薄い魔力線が走る。


「それは?」


リンが問う。


「最後の準備です」


「教えてくれないのですか?」


「見れば分かります」


「意地悪ですねぇ」


「あなたほどでは」


リンは笑った。


そして、動いた。


チャクラム二枚が左右へ飛ぶ。


本人は正面。


だが、その正面の動きは囮。


ロイドはそう読んだ。


左右のチャクラムは戻り軌道で背後を狙う。


リン本人は直前で低く沈み、足を狙う。


ロイドは一歩前に出た。


逃げない。


前へ。


リンの目がわずかに開く。


「そこへ来ますか」


「はい」


チャクラムが背後から迫る。


リンの足がロイドの膝を狙う。


ロイドは剣を地面に突き刺した。


剣から魔力線が広がる。


瞬間、周囲の空間に小さな反射板のような魔法陣がいくつも出現した。


リンのチャクラムがその反射板に当たり、軌道が変わる。


リン自身の背後へ。


「!」


リンは即座に気づく。


だが、自分の足はロイドへ向かっている。


止まれない。


ロイドは剣を引き抜き、リンの蹴りを受ける。


膝に衝撃。


ロイドの体が崩れる。


だが、その崩れる動きすら計算に入っていた。


彼女は倒れながら、端末をリンへ向ける。


小さな光弾。


狙いはリンの体ではない。


リンのチャクラム制御の魔力糸。


光弾が糸を断つ。


戻ってきたチャクラムが、リンの背後をかすめ、彼女の髪を切った。


リンの動きが一瞬止まる。


その一瞬、ロイドの剣先がリンの喉元に触れた。


寸止め。


会場が静まり返った。


審判が手を上げる。


「勝者、シェイン王国代表、ロイド!」


一拍遅れて、歓声が爆発した。


シェイン側の席から大きな拍手。


ミアが跳ねる。


「勝った! ロイドさん勝った!」


ユナも小さく拍手する。


ノアはほっと息を吐いた。


トーマは拳を握る。


「すごい……」


ソルが静かに頷く。


「良い勝ち方だ」


闘技場中央。


ロイドは剣を下ろし、その場に膝をつきそうになった。


リンが手を差し出す。


「立てますか?」


ロイドは一瞬見てから、その手を取った。


「ありがとうございます」


リンは微笑む。


「負けました。悔しいですねぇ」


「本当に悔しそうには見えませんが」


「本当に悔しいですよ。あなたを崩しきれませんでしたから」


ロイドは眼鏡を押し上げる。


「私も、かなり危うかったです」


「ええ、知っています」


リンは顔を近づけ、声を落とした。


「でも、怖いと言ったあなたは、少し美しかったですよ」


ロイドの顔がわずかに赤くなる。


「試合後にまで揺さぶらないでください」


「これは本心です」


「なお悪いです」


リンは楽しそうに笑った。


ロイドは少し困ったように視線を逸らす。


観客席のトーマはそれを見て首を傾げた。


「ロイド、照れてる?」


ソルが即答する。


「照れている」


ノアが少し笑う。


「珍しい」


ミアが叫ぼうとして、ユナに止められる。


「言わない」


「なんでだ!」


「怒られる」


ロイドは傷だらけで戻ってきた。


トーマが迎える。


「勝ったな」


「はい」


「怖いって言ったの、聞こえた」


ロイドは少しだけ目を伏せた。


「戦術上必要だっただけです」


「でも、強かった」


ロイドは眼鏡の奥で一瞬だけ目を揺らした。


「……ありがとうございます」


その声は小さかった。


だが、確かに届いた。


第二試合。


勝者、シェイン王国。


これでシェイン対ベイルは一勝一敗。


次は第三試合。


トーマ対ベイル女王。


闘技場の空気が、再び重くなる。


トーマは深く息を吸った。


ロイドが彼を見る。


「目的を確認します」


「勝つことじゃない」


「では?」


トーマは自分の胸に手を当てた。


「名前を失わない。自分で止まる。相手の強さを受け取る」


ロイドは頷いた。


「よろしい」


ノアが近づく。


「トーマ」


「大丈夫」


「まだ何も言ってない」


「でも、その顔は心配してる」


ノアは少しだけ頬を膨らませた。


「してるよ」


トーマは笑った。


「帰ってくる」


ノアは頷く。


「うん。負けても、帰ってきて」


「分かってる」


ベイル女王が闘技場中央で巨大な盾を構えていた。


その姿は、山のようだった。


「来い、トーマ!」


声が会場に響く。


「我がお主の一歩を見てやろう!」


トーマは短棒を握り、歩き出した。


怖い。


だが、足は止まらない。


第三試合。


記憶なき男と、豪快なる女王の戦いが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。