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Reincarnation -Record of memories-  作者: 斗真
第三章 戦乙女たちの招待状

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第三十話 敗北の経験

地下闘技場の事件から、数日が過ぎた。


シェイン王国には、少しずつ日常が戻りつつあった。


訓練場には朝から木剣の音が響き、兵たちはいつものように走り込み、城の厨房からは焼きたてのパンの匂いが漂っている。


だが、その日常は以前とまったく同じではない。


封印室には、忘却の剣が眠っている。


王城の結界には、記憶干渉を警戒する術式が加えられている。


そして、トーマの訓練場復帰には、毎回ロイドの厳しい監視がついていた。


「トーマ、そこまでです」


「まだ十回しか振ってない」


「今日は十回までです」


「昨日は十五回だった」


「昨日の夜、腕の痛みが出たと報告を受けています」


「……誰から?」


「ノアです」


トーマは少しだけ顔をしかめた。


訓練場の端にいたノアが、気まずそうに目を逸らす。


「ご、ごめん。でも、痛いの隠してたから」


「隠してはいない。言わなかっただけだ」


ユナが静かに言う。


「それを隠すと言う」


ミアが頷く。


「そうだぞ、トーマ! 痛い時は痛いって言えってロイドが言ってただろ!」


「ミアに言われると妙に悔しいな」


「なんでだ!」


レナが腕を組んで、うんうんと頷く。


「分かるぞトーマ。まだ行けると思う時ほど止められるのは悔しい!」


ロイドが即座に言う。


「レナはそちら側に立たないでください」


「でも気持ちは分かる!」


「分かっても止める側に回ってください」


「うむ、止まれトーマ!」


「切り替えが早い」


トーマは木剣を下ろした。


身体はもうほとんど回復している。


歩ける。

走れる。

軽く剣も振れる。


だが、完全に元通りというわけではなかった。


忘却の剣に支配された時の反動は、肉体の奥にまだ少し残っている。


無理をすると、腕が痺れる。

胸の奥が冷える。

ときどき、視界の端に黒い羽根の幻がよぎる。


そのたびに、トーマは名前を呼ぶ。


「トーマ」


自分の名。


それから、今ここにいる名前たち。


「ノア。ミア。ユナ。レナ。ロイド。ソル」


その訓練は続いていた。


もう一つ、変わったことがある。


トーマは剣を持たない訓練を増やしていた。


木剣ではなく、短い棒。

あるいは素手。


忘却の剣を再び手にする日はいつか来るかもしれない。


けれど今は、剣に頼らない体の使い方を覚える必要があった。


ソルはそれを静かに見ていた。


「悪くない」


「本当に?」


「地下闘技場の前より、動きに迷いが少ない」


トーマは少し驚く。


「あんな目に遭ったのに?」


「遭ったからだ」


ソルは木剣を肩に乗せる。


「お前は怖さを知った。自分が壊れることも、誰かを傷つけることも、剣に飲まれることも。そのうえで立っている」


トーマは黙る。


ソルは続けた。


「恐怖を知らない強さは、折れる時がある。恐怖を知って、それでも前に出る強さは、粘る」


「俺にそれがあるのか?」


「今はまだ小さい」


「はっきり言うな」


「だが、ある」


その言葉に、トーマは少しだけ息を吐いた。


ソルにそう言われると、不思議と信じられる。


レナが横から言った。


「つまり、トーマは強くなってるってことだな!」


「そうだ」


ソルは頷く。


「でも今日はここまでだ」


「ええっ」


トーマとレナが同時に声を上げた。


ロイドは満足そうに頷く。


「ソルがこちら側にいて助かります」


「私は最初からロイド側だ」


「たまに訓練量が過剰ですが」


「……善処する」


「そこは断言してください」


そんなやり取りの中で、訓練場に一人の兵士が駆け込んできた。


「ロイド様!」


ロイドが振り返る。


「何事ですか」


「テリア王国より、正式な書簡が届きました!」


その言葉に、訓練場の空気が変わった。


テリア王国。


その名を聞くと、どうしても地下闘技場の記憶が胸をよぎる。


テリア女王。

セイレン。

赤い裂け目。

記録喰い。

忘却の剣。


だが兵士が差し出した封筒には、禍々しさはなかった。


青と黒の封蝋。


テリア王国の正式な紋章。


ロイドは封を確認し、慎重に開いた。


文面を読み始めた彼女の眼鏡の奥で、目が少し細くなる。


「……なるほど」


レナが前のめりになる。


「何だ? また何か来るのか?」


「来る、というより」


ロイドは書簡を閉じた。


「開催されます」


ミアが目を輝かせる。


「大会か!?」


「はい」


ロイドは全員を見た。


「リトルヴァルキリートーナメントの次に行われるもの。当然、ヴァルキリートーナメントです」


訓練場に、ざわめきが走った。


ヴァルキリートーナメント。


各国のヴァルキリーたちが出場する本戦。


リトルヴァルキリーではない。


ノアたちが戦った大会より、はるかに規模も実力も上。


ロイド、レナ、ソル。

リン、ガーネ。

アリス、ロイ。


三国の主力がぶつかる、戦乙女たちの大会。


レナの顔が一気に輝く。


「ついに来たか!」


ソルは静かに息を吐いた。


「予定通りだな」


トーマはロイドを見る。


「それは、皆への案内か」


「はい。ですが、それだけではありません」


ロイドはもう一通、封筒の中から小さな手紙を取り出した。


封蝋は同じテリア王国のもの。


だが、宛名にはこう書かれていた。


トーマ殿へ


トーマは眉を寄せる。


「俺に?」


「はい。招待状です」


ノアが小さく息を呑む。


ミアは驚いて叫ぶ。


「トーマも大会に出るのか!?」


「大声」


ユナが注意する。


「すまん!」


ロイドは手紙をトーマへ渡した。


「読みますか」


「ああ」


トーマは受け取る。


少しだけ緊張した。


忘却の剣の封印以降、テリア王国から個人的な文が届くことはなかった。


差出人は、テリア女王。


トーマは封を開き、文を読む。


そこには、丁寧な文字でこう書かれていた。


⸻


トーマ殿。


次なるヴァルキリートーナメントに、特別招待者としてお主を招く。


正式なヴァルキリーではないお主を招くことは、通常の慣例から外れる。


じゃが、お主は三国の運命にすでに深く関わっておる。


忘却の剣、記録喰い、そしてお主自身の過去。


それらと向き合うためにも、戦いの場に身を置くことは意味があるとワシは考える。


もちろん、無理に勝てとは言わぬ。


むしろ、今のお主にはこう伝えておきたい。



負けても構わぬ。



勝利だけが得るものではない。


負けてなお立ち上がること。

敗北の中で自分を知ること。

誰かの強さを受け取ること。


それもまた、今のお主に必要な戦いじゃ。


参加するかどうかは、お主自身が決めよ。


テリア


⸻


トーマは手紙を読み終え、しばらく黙っていた。


負けても構わぬ。


その一文が、胸に残った。


大会への招待状にしては、妙な言葉だった。


勝て。

示せ。

証明せよ。


そう言われるなら分かる。


だが、テリア女王は負けてもいいと言った。


「負けても構わぬ……」


トーマは呟く。


ソルが手紙を見る。


「テリア女王らしいようで、らしくない言葉だな」


ロイドは頷く。


「勝敗よりも、経験を重視しているのでしょう。地下闘技場の件を踏まえれば、トーマには制御された戦闘経験が必要です」


レナが拳を握る。


「つまり大会で鍛えるってことだな!」


ユナが冷静に言う。


「たぶん、それだけじゃない」


ノアも静かに言った。


「負けても構わないって……トーマに、勝たなきゃいけないって思いすぎるなって言ってるのかも」


トーマはノアを見る。


ノアは少し考えながら続ける。


「地下闘技場で、トーマは自分が何者か分からなくなった。勝つとか、強くなるとか、それだけを考えたら、また怖くなるかもしれない」


「だから負けてもいい?」


「うん。負けても、トーマはトーマだから」


その言葉は、静かに刺さった。


トーマは自分の手を見る。


剣を握った手。

仲間を傷つけた手。

剣を離そうとした手。


「参加するべきだと思うか?」


誰にともなく問う。


ロイドが答える。


「利点と危険があります」


「だろうな」


「利点は、実戦に近い環境で、しかし殺害禁止のルール下で戦闘経験を得られること。各国のヴァルキリーと戦うことで、自分の立ち位置を把握できます」


「危険は?」


「記録喰い、レッドフラッグス、忘却の剣に関わる何者かが大会を利用する可能性」


ソルが続ける。


「それと、お前自身の精神状態だ。追い詰められた時、剣なしでどこまで保てるか」


トーマは頷く。


「忘却の剣は使えない」


ロイドはきっぱり言った。


「当然です。封印解除は認められません」


レナが腕を組む。


「じゃあ木剣か?」


「大会用の訓練剣、もしくは非殺傷武器を用意します。正式な出場形式はテリア側へ確認が必要ですが、特別招待枠なら調整は可能でしょう」


ミアが目を輝かせる。


「トーマも大会出るのか……! 見たい!」


ユナが言う。


「でも危ない」


ミアは少し考える。


「危ないけど、見たい!」


「正直」


ノアはトーマを見ていた。


「トーマは、どうしたい?」


その問いに、トーマはすぐには答えられなかった。


どうしたいのか。


怖い。


当然怖い。


人前で戦うこと。

追い詰められること。

自分の中にまた黒いものが湧くかもしれないこと。


でも、それ以上に。


逃げたくない。


地下闘技場で、自分は仲間の名前に助けられた。


なら今度は、戦いの中で自分を保てるようにならなければならない。


誰かを傷つけないために。

誰かに守られるだけで終わらないために。


そしていつか、忘却の剣と向き合うために。


「出る」


トーマは言った。


訓練場の空気が止まる。


「怖い。でも、出る」


ノアは静かに頷いた。


「うん」


ソルも頷く。


「なら、鍛える」


レナが笑う。


「よし! 特訓だな!」


ロイドがすぐに言う。


「無茶な特訓は禁止です」


「分かってる!」


「本当に?」


「たぶん!」


「駄目です」


ミアが手を上げる。


「私たちも手伝う!」


ユナが頷く。


「トーマの名前を呼ぶ訓練ならできる」


ノアも言う。


「防御も、支える膜も使える」


トーマは三人を見る。


「ありがとう」


ミアがにっと笑う。


「私たちも、次の大会に出るわけじゃないけど、見てるだけじゃつまらないからな!」


「応援と訓練補助」


ユナが言う。


「それと、トーマが無理した時の通報」


ノアが少し申し訳なさそうに言う。


「それは私がやるかも」


「信頼されてないな、俺」


ロイドが淡々と答える。


「信頼しているから監視するのです」


「そういうものか?」


「そういうものです」


トーマは苦笑した。


けれど、その胸には温かいものがあった。


また戦いが始まる。


今度は地下の闇ではない。


三国が見守る大会。


ルールある戦い。


けれど、その裏にはきっと不穏な影もある。


忘却の剣。

記録喰い。

ゼロ。

セイレンとルーク。

そして、テリア女王の招待状。


負けても構わぬ。


その言葉が、戦いの意味を変えていた。


勝つためだけではない。


自分を知るため。


敗北しても名前を失わないため。


誰かの強さを受け取るため。


そして、トーマとして立つため。


⸻


その日から、ヴァルキリートーナメントに向けた特訓が始まった。


シェイン王国の訓練場は、一気に熱を帯びた。


ロイドは大会形式を想定した戦術訓練を組んだ。


「トーマは正式なヴァルキリーではないため、通常の戦闘兵とは異なる扱いになる可能性があります。単騎戦に出るか、特別試合枠になるか、まだ確定していません。ですが、どちらにも対応できるよう準備します」


「集団戦もあるのか?」


「可能性は低いですが、完全には否定できません」


「なら全部やるのか」


「はい」


「容赦ないな」


「負けても構わないことと、準備を怠ることは別です」


トーマは何も言えなかった。


ソルは基礎戦闘を担当した。


剣を持たず、短棒と素手での動き。


「忘却の剣がなくても、お前は戦える必要がある」


「素手か」


「ゼロも素手を好んだ」


その言葉に、トーマは一瞬反応した。


ソルも気づいたが、すぐに続ける。


「だが、お前はゼロではない。真似るな。参考にしろ」


「分かった」


トーマは拳を握る。


剣士としてではなく、トーマとして戦う。


それが新しい課題だった。


レナは速度訓練を担当した。


「私についてこい!」


「無理だ」


「最初から諦めるな!」


「レナについていける人間の方が少ない」


「じゃあ少し遅く走る!」


「本当に少しだな!」


レナの訓練は荒かった。


だが、彼女は以前よりトーマの状態を見るようになっていた。


息が乱れすぎた時。

足元がふらついた時。

顔色が変わった時。


以前のレナなら気づかず進んでいたかもしれない。


でも今は違う。


「止まれ、トーマ」


そう言えるようになっていた。


ロイドはそれを見て、小さく頷いた。


「成長していますね」


レナは得意げに笑う。


「私も特訓してるからな!」


「何の?」


「止める特訓!」


「良いことです」


ノアは防御と精神固定を担当した。


ノアの魔力膜は、トーマの訓練に欠かせないものになった。


硬い盾。

受け流す膜。

支える足場。


そして、もう一つ。


名前を刻む光。


ノアは小さな防御膜に、トーマの名前を込める練習を始めていた。


「これが近くにあると、少し落ち着く」


トーマは言った。


「本当?」


「ああ。黒いものが近づいても、戻りやすい気がする」


ノアは嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、もっと上手くなる」


「無理はするなよ」


「トーマに言われたくない」


「……確かに」


ミアとユナも手伝った。


ミアは全力で突っ込んできて、トーマに「予想外への対応」を叩き込む。


「いくぞトーマ!」


「待て、合図は?」


「今言った!」


「それは合図じゃなくて宣言だ!」


ユナはその横で、糸を使って足元や腕を軽く引っかける。


「戦場では思った通りに動けない」


「それは分かるけど、ミアとユナの組み合わせは地味に厄介だな」


「褒め言葉」


「褒めてる」


三人のリトルヴァルキリーたちは、以前よりずっと息が合っていた。


トーマの訓練に付き合うことで、彼女たち自身も成長していく。


それを見たロイドは、記録にこう書いた。


トーマの訓練は、シェイン全体の連携強化にも繋がっている。


⸻


一方、テリア王国でも準備は始まっていた。


アリスは自室で魔法式を組み直していた。


「トーマが出るなら、普通の大会じゃ済まないわね」


ロイは窓辺に座っている。


「うん」


「あなたも出るんでしょ?」


「たぶん」


「たぶんって何よ。最高戦力でしょうが」


「テリア女王が決める」


「出るわよ。絶対」


ロイは少しだけ考える。


「ソルも出る」


「でしょうね」


「戦うかも」


「嬉しそうね」


ロイは首を傾げる。


「そう?」


「そうよ」


ロイは少しだけ目を逸らした。


アリスはそれを見て、小さく笑う。


「分かりづらいけど、あなたも変わったわね」


「そう?」


「ええ。前より人に興味がある」


ロイは少し黙った。


そして、短く言った。


「トーマ、戻ったから」


アリスはその意味を考える。


地下闘技場で、ロイは確かにトーマの名前を呼んだ。


彼が戻ったことは、ロイにも何かを残したのだろう。


テリア女王は大会の書類を見ながら、窓の外を見ていた。


「負けても構わぬ、か」


自分で書いた言葉を思い返す。


それは、トーマに向けた言葉であると同時に、過去の自分へ向けた言葉でもあった。


勝たせること。

強くすること。

可能性を伸ばすこと。


それだけを見て、セイレンを見失った。


だから今度は、負けることにも意味を与えたかった。


テリア女王は静かに呟く。


「トーマ。お主が何を得るか、見せてもらうぞ」


⸻


ベイル王国でも、リンとガーネが訓練を再開していた。


リンは砕けたチャクラムの代わりに、新しい武器を調整している。


「地下闘技場では散々でしたからねぇ。次はもう少し美しく戦いたいものです」


ガーネは片腕の回復訓練をしていた。


「大会、出る」


「もちろんです。あなたが出ないと、ベイル女王陛下が訓練場を壊します」


「もう壊した」


「あら、早いですねぇ」


遠くで、ベイル女王の豪快な笑い声が響く。


「ヴァルキリートーナメントだ! 鍛え直せ、全員!」


ベイル王国の訓練場には、土煙が上がっていた。


⸻


そして荒野。


紅い旗の下。


セイレンは、三国に大会の気配が広がっていくのを感じていた。


ルークは隣で大剣を磨いている。


今度はちゃんと刃を磨いていた。


「トーマ、出る?」


ルークが聞く。


「出るでしょうね」


「戦う?」


「大会ではね」


「私たちは?」


「出ないわ」


「そっか」


ルークは少し残念そうだった。


「戦いたい」


「まだ駄目」


「なんで?」


「今のトーマは、まだ大会で学ぶ段階よ。私たちが潰すには早い」


ルークは首を傾げる。


「潰す?」


セイレンは少し黙る。


以前なら即答できた。


弱ければ壊す。


そう言えた。


だが今は、少しだけ言葉が遅れた。


「……試す」


ルークはセイレンを見る。


「変わった?」


「変わってない」


「そっか」


ルークはそれ以上聞かなかった。


セイレンは遠く、シェイン王国の方角を見る。


「...負けても構わぬ、ね」


テリア女王の書いた言葉を、どこかで感じ取っているようだった。


セイレンは薄く笑う。


「母上にしては、悪くない言葉ね」


ルークが顔を上げる。


「褒めた?」


「褒めてない」


「そっか」


紅い旗が風に揺れる。


セイレンは小さく呟いた。


「せいぜい負けなさい、トーマ」


その声には、嘲りだけではなかった。


「負けて、立ちなさい。剣ではなく、自分の足で」


⸻


シェイン王国の訓練場。


夕暮れ。


トーマは短棒を構えていた。


正面にはソル。


横にはレナ。


後方にはノア、ミア、ユナ。


ロイドが記録板を持って立っている。


「今日の最後です」


ロイドが言う。


「トーマ、目的は?」


トーマは答える。


「勝つことじゃない」


ソルが問う。


「では何だ」


トーマは短棒を握り直した。


「倒れても、自分の名前を失わないこと」


ノアが静かに頷く。


ミアが拳を握る。


ユナが糸を構える。


レナが走る準備をする。


ソルが剣を構える。


「では来い」


トーマは一歩踏み込む。


怖さはある。


だが、その怖さと一緒に進む。


大会は近い。


ヴァルキリートーナメント。


戦乙女たちの舞台。


そこに、記憶なき男トーマも招かれた。


勝つためだけではない。


負けるためでもない。


自分を知るために。


誰かの強さを受け取るために。


そして、忘却に抗う名前を、戦いの中で刻むために。


夕暮れの訓練場に、木と木がぶつかる乾いた音が響いた。

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