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「結論から言うね」とキミは言った。  作者: 陸無ふき
第二章 色づき始めた世界
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第二十七話 裏表

「あたしはリラ。よろしくね!」


僕たちをここまで導いた、謎の少女はそう名乗った。


「よろしく。僕は——」


今度は僕が名乗ろうとした時、セインは腕を僕の前に伸ばして制止した。


「そういう話は、今晩の寝床を見つけてからだ」


「ごめん、つい」


そして、セインはチラリとリラの様子を窺ってから僕の隣に歩み寄り、耳もとで小さく呟いた。


「彼女はまだ信用できない。気を抜くな」


セインはそう耳打ちすると、暗闇が差し込み始めた森の奥へと歩みを進めた。


「うん。わかってる」


そう答えながらも、僕は少しだけ後ろを振り返った。

いつのまにか、リラはルミアの隣を歩いていた。


どうやら小声で何かを話しているらしい。ルミアは少し、困った顔をしているのが見えた。


リラはそんなことお構いなしに、楽しそうに笑っている。


少し歩くと、木々の隙間に苔むした大きな岩が見えた。


その岩には人が数人入れるほどの大きな穴が空いており、身を潜めるにはもってこいだった。


「今日はここにしよう」


セインは周囲を警戒するように、あたりを見回した。


「ここなら、急に雨が降っても大丈夫そうだね」


僕たちは荷物を下ろし、岩のくぼみに腰を下ろした。


「あたしルミアの隣がいい!」


リラはそう言って、返事を待たずにルミアの隣に座った。


「……えっ、あ、うん」


ルミアは少し戸惑った様子で返事に困っていた。

けれど、嫌がっているようには見えなかった。


僕たちは、岩の窪みに横並びに座っていた。セインとリラが両端に座り、僕とルミアは真ん中に座った。


一息ついたところで、リラが口を開いた。


「じゃあ、さっきの続き! 自己紹介して」


リラはそう言って、僕とセインに目を向けた。


木々の隙間から差し込む淡い月明かりが、リラの笑顔を照らしていた。


「えーと、僕は——」


「おい」


僕が話し始めると、またセインが遮った。


「えっ、もういいんじゃないの?」


セインは鋭い視線を僕からリラに移した。


「こちらのことを話す前に、まず聞いておくことがある」


「……聞いておくこと?」


リラは不思議そうに首を傾げた。


「君は、一体何者なんだ」


「だからー、あたしはリラだよ」


「それは君の名前だろ。大体、名前なんて……」


セインはそこまで言って、口をつぐんだ。

そして、すぐに質問を変えた。


「君は、この近くに住んでいるのか?」


「うーん、近くは、ないかな」


「ならば、なぜあの場所にいた」


「コインが、あっちって言ったから」


リラは迷いなく答えた。


「……また、コインか」


暗闇の中、うっすらと見えるセインはきっと怪訝な顔をしているはずだ。


「うん、あたし、だいたいコインで決めてるから」


「俺たちを助けたのもか?」


「うん、そうだよ」


「この森にたどり着いたのもか?」


「もちろん」


「……危険だと、思わなかったのか?」


セインは少し語気を強めた。


その声には、さっきまでの警戒とは違う響きが混じっていたように感じた。


その響きに、リラは珍しく少し黙り込んだ。


そして、またコインを取り出した。


青白い月明かりが、コインを淡く輝かせる。


「……だって、コインは表だったから」


セインは何かを言いかけたけど、結局なにも言わなかった。


僕はそんなセインの様子を、少し窺ってから話し始めた。


「僕の名前はアイル。よろしくね、リラ」


そして、再びセインに目を向ける。


「彼の名前はセ——」


「セインだ」


セインは僕の言葉に被せるようにして名乗った。


「……アイル、セイン」


リラはそれぞれに視線を向けながら、確認するようにそう呟いた。


「アイル、セイン、それにルミア。よろしくね!」


そう言って、リラはまたニコッと微笑んだ。


「ところでリラは、一人で何をしていたの?」


僕の質問に、リラは手もとのコインを見つめ直し、少し黙り込んだ。


「なにか、理由があるんでしょ?」


僕はリラに目を向けたまま、静かにそう言った。


「もちろん!」


「それも、コインが決めたのか?」


その時、前を見ながらセインがそう言った。


すると、リラは手にしたコインを握りしめたまま、静かに口を開いた。


「うーん、探してる人がいるんだー」


「人を、探してる?」


僕は思わず聞き返した。


「うん」


「名前は、わかるのか?」


今度はセインが聞き返す。


「……名前はわからない。でも、会えばきっとわかるはず」


セインはそれ以上なにも聞かなかった。


ルミアはリラを見つめながら、黙って話を聞いていた。名前も知らない人を探す。


今の自分と、どこか重なるところがあったのかもしれない。


しばらくして、今度はリラが質問する。


「ところで君たちこそ、なんであんなところにいたの?」


リラの素朴な疑問に、僕とセインは顔を見合わせた。


そして、僕が小さく頷くとセインが話し始めた。


「……騎士団に、追われていた」


「見ればわかるよ」


リラはあっさりそう言った。


「じゃあ、君たちはなんで旅をしているの?」


「……それは」


セインは少し黙り込んだ。


「聖都を目指してるんだ」


「アイル!」


セインは低い声で僕の名前を呼んだ。


「聖都? うーん、遠いねー」


「うん。まだまだ遠いよ」


隣からセインの大きなため息が聞こえた。


「ルミアも、一緒に行くの?」


リラはそう言ってルミアに目を向けた。


「うん」


ルミアははっきりとした声で答えた。


「そっかー」


リラはそう答えた後、手にしたコインを木々の隙間から僅かに姿を見せる月光にかざした。


そして、しばらくコインを見つめたあと、突然口を開いた。


「決めた! あたしも、みんなについてく!」


「だめだ」


セインは即答した。


「えー、なんでだめなのー。絶対そういう空気だったじゃん!」


セインは少し言葉を選びながら答えた。


「……俺たちについてくるのは、危険だからだ」


「わかってるよ」


「なら、なぜついてこようとする?」


「一人でいるより、楽しそうだから!」


「だめだ」


セインは少し低い声でそう答えた。


「……わかったよ」


「すまない。君を巻き込みたくな——」


セインがそう言おうとした時だった。


その言葉を遮るように、リラは言った。


「じゃあ、あたしとこれで勝負しよ!」


そして、手にしたコインを差し出した。


言葉を遮られたセインは、眉をひそめてリラを見た。


「……しょうぶ、だと?」


「うん。表が出たら君の勝ち。裏が出たらわたしの勝ち。勝った方の言うことをきく」


「ふざけるな」


「ふざけてないよ?」


リラはいたって真面目な声でそう言った。

それから、ニヤリと口もとを歪める。


「もしかしてー、あたしに負けるのが怖いの?」


「怖くはない。ただ、こんなことで決めていい問題ではないと言っている」


「じゃあ、どうすれば連れてってくれるの?」


リラは、俯いてそう静かに言った。


その声は、これまでとは違ってどこか哀しげに響いた。


セインは僕とルミアにそれぞれ目を向けた。僕たちは顔を見合わせて、小さく頷く。


それから、セインは深く息を吐いた。


「一度、だけだ」


「えっ?」


リラは思わず顔を上げた。


「ただし、条件がある」


「条件?」


「君を連れていくのは、君が探している人に出会うまでだ。それでいいな?」


この時、月明かりに照らされたリラの顔が、パッと明るくなるのが見えた。


「うん! それでいいよ!」


セインは大きくため息をついた。


僕とルミアは、思わず顔を見合わせた。


ルミアは少し笑っていた。


「じゃあ、いくよ!」


そう言って、リラはコインを指で弾いた。


コインは僅かな月明かりに照らされながら、くるくると宙を舞う。


そして、リラの手の中に帰ってきた。


僕たちが息を呑んで見守る中、リラはゆっくりと手を開く。


その時、僕たちの目に映ったのはコインに刻まれた精巧な絵柄だった。


「あっ……」


リラはそう一言だけ呟いた。


結果は表だった。


「……そっか」


リラは小さく笑った。


「あたしの、負けだね」


そう言って、リラはコインを握りしめた。


「じゃあ、朝になったら別の道に行くよ」


その時、勝負を見届けていたルミアが、小さな声で言った。


「……一緒に、行こう」


リラは驚いたようにルミアを見た。


「えっ? わたし負けたんだよ?」


「うん」


ルミアは少しだけ黙ってから、続けた。


「でも、私は、リラと一緒に行きたい」


そして、ルミアはセインに目を向けた。


セインはルミアの視線を受けて、少し黙っていた。


やがて、小さく呟いた。


「……だが。勝負は、勝負だ」


「でも、こんな勝負で決めるべきではないって言ってたよね?」


ルミアは珍しく、そう強く言った。


セインは何も言い返さない。リラを連れていくのは危険だ。


けれど、この暗い森に一人残していくことも、同じくらい危険だった。


セインは深く息を吐き、リラに目を向けた。


「……危険だと判断した時は、必ず俺の指示に従ってもらう」


「えっ?」


「それが条件だ」


リラはしばらく目を丸くしていた。けれど、次の瞬間、ぱっと笑った。


「うん!」


「本当に分かっているのか?」


「うん! たぶん!」


セインは額に手を当てた。


リラ。


彼女のことはまだよくわからない。


でも、彼女のこの笑顔は信じられる。なぜか、そう思った。

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