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「結論から言うね」とキミは言った。  作者: 陸無ふき
第二章 色づき始めた世界
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第二十五話 繋いだ手

見つけ次第、抹殺。


僕は神託に示された結論を、しばらく呆然と見つめていた。


「抹殺って、人に対して使う言葉なの?」


声が震えているのは、自分でもわかった。


ルミアは口を閉ざしたままだった。セインもただ神託を見つめるばかりで、すぐには答えなかった。


焼け付くような西陽に照らされていたはずの僕の背中は、次第に熱を失っていく。


それに、神託に示されたのは僕たちだけじゃない。

この世界で、揺らぎを抱えている人全てが対象だ。


僕の頭に浮かんだのは、昨日、山の上から見下ろしたあの街だった。


「騎士団って、演舞を披露するだけじゃないの?」


「その、はずだが……」


セインはチラリと、ルミアに目を向けた。ルミアは少し、目を伏せる。


演舞。


「あっ……」


そうだ。

あの日、ルミアの剣は僕を容赦なく切り裂いた。


「……あの街でも、これが行われていた?」


セインは震える手で神託を掴みながら言った。


「……あの数の騎士団……そう考えるのが、自然だ」


その時、僕の頭には、マルクさんたちの姿が浮かんだ。


「……マルクさんたちは、大丈夫だよね?」


僕の言葉にセインとルミアは顔を上げる。


しばらく三人で顔を見合わせていた。けれど、誰も大丈夫だとは言えなかった。


「……僕の、せいだ」


僕は、自分の両手を見つめた。


「まだ、そう決まったわけではない」


セインの声は冷静に聞こえた。けれど、神託を持つその手が、固く握りしめられているのが横目に見えた。


「アイルは……」


ルミアは何かを言おうとしていたけど、そこで言葉を止めた。


なにも覚えていないはずなのに、ルミアも自分を責めているように見えた。


「……戻らないと」


「戻ってどうする」


セインは低い声でそう言った。


「マルクさんたちを、助けないと!」


「マルクさんたちが対象だと、まだ決まったわけではない」


「でも、このままじゃ!」


「騎士団はもう動き出してる。今から行っても間に合わない」


「だからって!」


思わず声を荒げた。次の言葉を続けようとした瞬間、セインが僕の肩を掴んだ。


その手には、いつもの冷静さとは違う力がこもっていた。


「……頼む。もう、これ以上は言わせないでくれ」


セインは震える声で静かにそう言った。その言葉に、僕はなにも言えなかった。


セインだって、本当は助けに行きたいはずだ。


「……ごめん」


セインは僕の肩から手を離し、遠くの景色を見つめた。


「マルクさんたちが対象だと確認できない以上、俺たちが戻ることで、余計な危険を連れていくことになる」


「……うん。セインの判断が、正しいんだと思う」


ルミアはそんな僕たちの顔を交互にみた。それから、胸の前でその両手をぎゅっと握りしめる。


でも、今の僕たちにはゆっくり考えている時間はなかった。


「ここから離れる。とにかく一晩隠れられる場所を探す」


「うん……」


僕たちは歩き始めた。けれど、数歩も進まないうちに、ルミアがふと呟いた。


「……音が、聞こえる」


その言葉に、僕とセインも立ち止まり耳を澄ませた。


風が木々を揺らす音に混じり、遠くから大地を叩くような音が聞こえてくる。その低い響きは、次第に大きくなっていった。


「……これは、騎馬の音だ。十騎はいる」


セインはそう言って、足もとに捨てた神託へ視線を落とした。その紙の隅に押された神託印が、淡い光を帯びていた。


セインの顔から、血の気が引いていくのが分かった。


「急いで離れるぞ! 騎士団は、この印を追っている!」


僕たちは、西陽を背に走り出した。けれど、蹄の音はしだいに大きくなる。


「間に合わない! 隠れるぞ」


セインは近くの茂みを指差す。

それを合図に、僕たちは茂みに飛び込んだ。


息をひそめていると、少し離れたところで蹄の音は止まった。微かに騎士の話し声が聞こえる。


「神託の反応はこの辺りです」


「間違いないか」


「はい。間違いありません」


セインは静かに、前だけを見つめていた。


ルミアは隣で小さく肩と手を震わせていた。

僕はそんなルミアの手をそっと握った。


「ありました。我々騎士団に配られた神託です」


「このシミは、血か」


「そのようです。この近くで彼らに何かがあったのは確実です」


「よし。近くを探せ。失踪した小隊の痕跡があるかもしれん」


騎士たちが馬から降りる音が聞こえた。

草を踏み分ける足音が、だんだんと近づいてくる。


「……僕が、囮になる」


「なに?」


セインは鋭い視線を僕に向けた。


「だからその隙に、ルミアを連れて逃げて」


その時、握っていたルミアの手が、今度は僕の手を包み込んだ。


力強く握り返されたその手は、胸を締め付けるほどに冷たい。


その間にも、この時間の終わりを告げる足音は容赦なく近づいてくる。


「……だめだ」


「でも、このままじゃ、いずれ見つかる」


セインはゆっくりと、深く、重い息を吐いた。


まるで、これまで心の中に抱えていたなにかを、全て吐き出すように。


「……俺が行く。俺なら多少の足止めはできる」


ルミアの手は、さらに強く僕の手を締め付けた。


「……だめだよ」


「さっき、君が言ったことだろ」


「なら、私が……」


ルミアはそこまで口にして、僕たちの顔を見た。


けれど、僕たちがそれを許さないことに気がついたのか、静かに足もとに視線を落とした。


僕たちは迷っていた。

すぐに結論を出せなかった。


このまま隠れているか。

一か八か逃げ出すか。

あるいは、誰かが犠牲になるか。


それでも無駄に終わるかもしれない。そんな残酷な答えを。


「……神託なら、こんな時にも、最適な答えを教えてくれるのかな?」


僕の問いに、セインは答えなかった。かつてなら、きっと迷わず頷いたはずなのに。


その時、すぐ目の前で足音が止まった。


「……誰だ?」


見つかった。


「……この揺らぎ、まさか」


目の前に現れた騎士は、剣に手をかけた。

その瞬間、セインは騎士に向かって右手を突き出す。


「うっ」


声にならないうめきと共に、騎士の指が剣の柄にかかったまま止まる。


抜かれかけた刃も、鞘から半分姿を見せたまま動かなくなっていた。


「走るぞ!」


セインの声が聞こえた。


けれど、僕は一瞬動けなかった。目の前には、抜かれかけた剣があった。あの丘で僕を切り裂いたものと同じ、銀色に輝く刃。


喉が詰まり、足が地面に縫い付けられたように動かなくなる。


でも、その時。


僕の手を握るルミアの手が、強く震えていることに気がついた。


横を見ると、ルミアは目の前の剣を見つめたまま、息を殺すように固まっていた。


その顔を見た瞬間、四年前に聞いたルミアの声が蘇る。


その瞬間、僕は我に帰った。

そして、震える手でルミアの手を強く握り返す。


「ルミア、行こう」


僕はルミアの手を引きながら、前だけを見つめて走った。もう、あの声は聞きたくない。


後ろから、騎士たちの慌ただしい声が聞こえる。


「なにがあった」


「これは、神託魔法か」


「こっちに逃げたぞ」


「馬に乗れ、すぐに追いかける」


僕たちは、まばらに生える木々の隙間を縫って、ひたすらに走り続けた。


やがて、目の前には高くそびえる岩肌が現れた。草木は生えておらず、登ることはできない。


けれど岩肌の左右には、乾いた道が続いていた。しだいに馬の足音が近づいてくる。


僕たちは、また決断を迫られた。


右か、左か。


もう立ち止まって考える余裕はなかった。背後から、馬の嘶きが聞こえる。


その時だった。


「こっちだよ!」


場違いなほど軽い声が、岩陰から聞こえてきた。

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