第299階 三度目の命の雫の目覚めの日 最上階
私は早速、眼鏡をかけた。
特に名前はないらしい、まだまだ改良の余地があり過ぎるからとのこと。
「オーニソ、身体が軽いわね」
魔法の光となって前を行くオーニソは、私へと横顔で笑みを向けてくる。
「筋肉も脂肪も骨もまったくない魔法物質と化していますからね、これはこれで楽しいですわ」
酷い違和感が貫く、【世世】の進化前の【世束】は私を魔法だと認識していた。
それでも重い、太陽人の身体よりはかなり軽いものの。
「これは皇帝に七賢人達が認識できる境界線に調節されているそうですわよ。
空中離宮グレズィルのものは」
私が驚いた表情をすると、
一般向けは感知できるように作るわよ。
ってオーニソは苦笑していた。
光が濃くなっている部分からは出られない。
安全に遊べる範囲が決まっているらしく、空中離宮グレズィルの内部を
飛び回って遊ぶという趣旨の代物みたい。
やっぱりオーニソは使い方が上手く、颯爽と駆け抜けていく。
光が濃くなっている部分以外はすり抜けられる。
この濃さは柔らかい網のようになっていて布団に飛び込むような感触になっている。
ちなみに私は十回ぐらい飛び込んで、オーニソはその度に腹を抱えて笑っていたわ。
ぶつかる寸前で神回避するオーニソは、なんて表現すればいいのか。とても美しかったわ。
頭で考えるよりも滑らかに滑り、感覚に委ねたほうが上手く操作できていたわ。
感情や心を掬うように。
だからオーニソは感情も精神も完璧に制御して魅せている。
そして私達はレースに見立ててスタートとゴールを決めたわ。
結果は私の九連敗、オーニソは余裕を持って一人分前に出て導くように毎回ゴール。
でもさすがに悔しかったから、最後の一周だけズルをしたわ。
世世でオーニソの人二人分、先に進んでぶち抜いてあげたわ。
オーニソはめっちゃくちゃ悔しがっていて、二人で笑い合っていた。
「かなり楽しくて悔しかったのではないかしら」
オーニソは苦笑していた。
最後の一敗がとても印象的になったのではないかしら。
「悔しかった、けど楽しかったわ!」
私も苦笑していた。
でも我慢できずに二人とも吹き出してお腹を抱えて笑ったわ。
眼鏡を外して特等席で。
視線がたくさん集まる、注目されてしまったみたい。
それぐらい面白くておかしくて楽しかったわ。
「オーニソありがとう、めちゃめちゃ楽しかったわ!」
「わたくしもですわ、ラナンちゃん、いえラナン」
オーニソの私を見る目は優しかった。
自身の飲み物の残りに二人共同時に手を付けた。私達は通じ合っていた、そんなシンクロ。
「さて、ちょうどいい時間ですわ。何が食べたいです?」
もうそんな時間なのね、それもそうか。
「甘いものに甘辛いものって感じかな、具体的にはドラゴンのお肉」
「りょ」
即答!?
「元々レアル・グランは頼んであるから、それに加えてドラゴン系のお肉ね……
って何を驚かれているのですの、ラナンちゃん?」
さすがにここでは出てこないものとばかり。
「え、シャクヤクさんのお店だけのものだとてっきり」
オーニソが不敵な笑みを浮かべる。
「わたくしも提供しているのですわ、
まぁ……外界とわたくしの関係については
料理が提供されてからでも」
時空が揺れる、オーニソの顔がはっきりとしながら。
「最上階へと御案内致しますわ、ラナンちゃん!」
自信に満ち溢れた笑みでオーニソはくつろいでいる。
とりあえず、わたしもくつろぐわ。
西の大帝国を包む空の色が階段状に境界となって私の目を奪った。
「……空中離宮グレズィルは、元々は月人をはじめとした
外界の侵略者をいち早く見つけ、勇猛果敢な当時の皇帝陛下が
斬り込めるようにと建造された、西の大帝国で最も高き位置に座する瞳なのよ。
先代曰くそれでも見えなかったらしいわ、天華サー・サマエルを
天の極極から攫う男の姿は」
私ね。
我ながらなんて魔法を使っているのかしらね。
決して褒めたたえられるような事ではないけれど、とても誇り高いわ。
「興味があって面白かったのかしら、歴史は」
誇り高さが笑みとなっていたのね。
「そうね、一般人ではここが戦争下の戦略の拠点だなんて思いもよらないわ」
オーニソは不敵に意味深な笑みを口角だけで一瞬、表に出していた。
「その周囲の敵国をすべて見渡せる席でわたくし達は食事をするのですわ」
なぜだろう、私は心が熱くなっていたわ。
何かとても悪だくみをするみたいで、
二人だけの秘密を共有して私達だけの世界を創るみたいで。
時空が収束し景色が安定する。
ほんのり時と交じり合った空間に辿り着いて、
私とオーニソだけの食事会が開かれる、その目前。




